第37話


『『『『『――カアァーッ……!』』』』』


 俺の『誘導魔法』の効果が早速出たようで、ジャイアントレイブンたちが群れをなしてやってきた。


 とはいえ、俺はこいつらと戦うつもりは毛頭ない。心の温もりの部分を活性化させた『魅了魔法』によってカラスたちを懐柔し、その背中に乗ることでより速く町へ帰還するためだ。


 だが、移動手段としては当たり前の如く馬車が使われている現状、テイマーですらカラスに乗る者がいないことでもわかるように、気性の荒い彼らを乗りこなすのは非常に難しいとされている。


 しかも、これならなんとか乗れるかもしれないと思えるのが、100羽のうち1羽でもいればいいほうなんだとか。


「「「……」」」


 ルエスたちもそれがわかるのか心配そうに見ているので、まったく問題ないということを見せてやらねば。


 俺は見る目、すなわち眼力を活性化させた『慧眼魔法』をカラスたちに使用した。これによって、どの個体が乗りこなすのに最適かを見極めることができるんだ。


「――そこのお前だ!」


『アワッ……!?』


 俺に杖の先を向けられた大型カラスが驚いた反応を見せたのち、意気に感じたのか目の前まで下りてきたそのときだった。


『『『『『ガアッ! ガアッ!』』』』』


 突然、ほかのレイブンたちが何かを訴えかけるかのように、リズムよく鳴き声を上げ始めたのだ。なるほど……。おそらくこれはに違いない……。


「ラ、ラウル君、カラスたちが一斉に鳴き出したけど、一体何が始まったっていうんだい……?」


「わ、わわ……ラウルさん、何が起きましたです……?」


「い、一体何がどうなったっていうの、ラウル……?」


 ルエスたちが挙って疑問をぶつけてくるのもわかる。


「これは、だと思う」


「「「喧嘩……?」」」


「ああ。俺が一羽のカラスを選ぼうとしたら、ほかのカラスたちが自分のほうが相応しいってお互いを威嚇し始めたんだ」


「さ、さすが化け物……いや、ラウル君だ……」


「それだけ乗ってほしいってことですね……。ラウルさん、モンスターに好かれすぎなのです……」


「要するに、ラウルはカラスたちの親玉ってわけね!」


「……ははっ。まあボスとはちょっと違うが、それに近い感じでは見られてるっぽいな。有難迷惑だが……」


 しかし、笑ってばかりもいられない。このままじゃ収拾がつかないからだ。一体全体、どうすればいいのやら――


『――困っているようだな、人間よ』


「ああ、凄く……って!」


 そこに出現したのは、あの変異種のジャイアントレイブンだった。


『仲間たちがどこかへ向かったのがわかったから、それにつられて私も隠れつつやってきたのだ。まあこんなことだろうとは思っていたがな』


「さすが、抜群に賢いだけあって察しがいい。人間の気持ちがよくわかるお前なら俺でも乗りこなすことができそうだし、ほかのカラスたちも納得してくれそうだ」


『問題ない。振り落とされないように気をつけるんだぞ』


「よーし、そういうわけだから、早速みんな乗ろうか?」


「いいですね……。楽しみなのです……」


「カラスの背中って、どんな感じだろ? 楽しみー!」


 ん? ユリムとカレンは乗り気だが、ルエスは見るからに怯んでいた。


「ルエス、どうしたんだ?」


「……ぼ、僕だけ歩いていくというのはどうかな……?」


「いやいや、ルエスの力も借りたいしそういうわけにはいかない。もしかして、高いところが苦手とか……?」


「ちょ、ちょっとね。もし落ちたらと思うと……」


「それなら大丈夫だ。一応、バランス感覚を活性化させる『平衡魔法』もみんなに使ってあるし、もしものことが起きても落ちることはまずない」


「そ、そうか……って、それだけスピードが出ちゃうってことだよね……!?」


「ルエス……そろそろ観念しましょうです……」


「そうよ、ルエスったら、モタモタしちゃって。急がないと!」


「ちょっ……!?」


 というわけで、半ば強引にルエスも変異種カラスの背中に乗せて俺たちは出発したわけだが、まもなく山の中で聞いたこともないような絶叫がこだまするのだった……。

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