第36話


「まさか、ラウル以外にも骨のある冒険者がいたなんて思わなかったぁ。新しい発見に出会えて、僕はとても嬉しいよ……」


 満足そうに目を細めつつ、クレスに向かって拍手までしてみせる青年は、この状況下においては明らかに異質な存在だった。


「お前……まさか、ゴーレムどもの飼い主か?」


「フフッ。よくわかったねぇ、偉いよ。さあ、おいで、ゴーレム……!」


『『『『『ウゴオォォォッ……』』』』』


「「「「「なっ……!?」」」」」


 クレスたちの顔が驚きの色で染まっていく。青年の目前に一体のゴーレムが出現したかと思うと、それがまたたく間に分裂していったからだ。


「そうか……お前は錬金使いってわけかよ」


「へえ。よく当てたね。偉い偉い。僕はてっきり、従魔使いテイマーと間違えるかなって予想してたけど……」


「テイマーは感情のあるモンスターしか扱えないが、その分深い信頼関係を築くことができ、錬金使いは無機質系モンスターも含めて幅広く扱えるが、信頼が浅いために上手く操れない……そうだろ?」


「うわぁ。よくわかったね、偉いね~」


「お前な。そのふざけた喋り方、不快だからやめろ」


「あ、ごめんねごめんね。僕って普段からこういう喋り方だから、煽ってるわけじゃないんだけどねえ。で、大体君の言う通りなんだけど、普通の錬金使いは意図的に変異種を作り出せないし、並みのテイマーじゃ獣系の変異種でも操れない。つまり、この世界で変異種を誕生させ、なおかつ巧みに操れるのは僕だけなんじゃないかなぁ……」


「……で、今はそれを試してる真っ最中ってわけね。お前が変異種のモンスターを生み出す目的はなんだ?」


「目的……? それを君に言う必要なんてないよね」


「まあそりゃそうだけどよ。言えばお前の心の傷口を抉ることになるからか?」


「ん-……まあそれに近いかもねえ。実は以前にも変異種のモンスターを作ってこんな風に試したんだけど、それはラウルにやられちゃったんだ。でも、今回はリベンジできるはずだよ」


「はっ。ラウルの留守中にしかイキれないやつがよく言う」


「フフッ。僕の予想通りの煽り文句、どうもありがとうっ。ラウルがいないときを狙ったのは確かだけど、それにはがあるんだぁ。僕は最初から彼を避けることなんてできないと思ってるよ」


「何……?」


「フフッ。どんな理由があるか知りたい? それはねえ……言葉でもいいけど、実際に君とやってみたほうがよくわかるかもね~」


「そうか。面白い、そんなら俺が相手になってやるか。そうわけだからよ、みんな下がっててくれ」


 クレスがそう言いつつ前に出るも、ダリアたちは揃って不服そうな表情を見せる。


「お、おいおい、クレスってやつ。そんなこと言わずに私たちにも協力させてくれよ!」


「そうっすよ! クレスさんとやら、あっしらも手伝うっすよ!」


「クレス。自分もやりたい……」


「わしもじゃ、クレスよ!」


「いや、本物の変異種が相手なら今までとは勝手が違うし、頼むから俺にやらせてくれ。それに、ラウルの知り合いなら尚更危険な目には遭わせられねえ。仲間を大事にするあいつのことを思うのなら、少しの間黙っててくれねえか?」


「「「「……」」」」


 クレスの言葉を聞き、複雑そうな表情をしつつも納得したのか黙り込むダリアたち。そんな中、受付嬢のイリスが祈るような仕草で彼の背中へ語り掛ける。


「クレス様、どうかお気をつけて……」


「イリス嬢、そんなに心配しなくても大丈夫だ。そりゃバケモンのラウルには劣るがよ、俺だってあいつの相棒だったんだ。そう簡単には倒れやしねえよ」


 大鎌を大上段に構え、目つきを一層鋭く尖らせるクレス。


「うーし、ラウルが帰ってくるまで、この俺が遊んでやる。ほらほら、そのガラクタどもをさっさとこっちに持ってこいってんだよ!」


「フフッ……アハハッ! ガラクタだって? そんなこと言っちゃって、どうなっても知らないよ? さあ行けっ! ゴーレムたち! やつらを踏み潰せ!」


『『『『『ウゴオォォォッ!』』』』』


 喜悦の表情を浮かべた青年の命令により、ゴーレムたちが一斉に動き出すのであった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る