第4話 懐かし話
魔法を使ったせいで、すぐリタの家に着く。
ズンズンとリタの寝室まで一直線に進む。
「ウィス!ちよーっと下ろしてよ!ウィスさーん!何怒ってんのよっ!」
抱えられたまま、両手両足をバタバタさせてみたけど、何も言わず立ち尽くすウィス。
「…………….…そうだよ、失念してた。まずは掃除だな。いや、時間がないから片付けだけでいいか。」
ん?とリタが部屋を見ると、ゴミやら仕事道具やら脱ぎ散らかした服やらが散乱していた。
「はっ!泥棒!?」
「お前の仕業だわっ!」
リタに片付けの指示を出し、ウィス自らもテキパキ動く。
「あ~懐かしいなぁ~。初めて学院に行ったときの腕章だぁ♪あの時は~…」
後頭部に濡れた雑巾がビチッと投げつけられる。
「片付けの基本は、発掘物にいちいち思い出を語るな!」
「あい、すいません…」
「…やっぱり不安だ。これからしばらく俺が居ないのに生きられるのか?こいつは……」
「あ!これはチーズ屋のおばさんに貰ったチーズの見切り品!うわぁ色が複雑になってる!」
キッ!と鋭い目線を感じ、そっとゴミ袋に入れる。
なんとか大雑把だが、片付けが終わり、二人して床にしゃがみこむ。
「ウィスはなんでも上手だね。すごいよ、あの汚部屋がピカピカ!」
「普段から少しずつでも片付けていれば…って、無理か…」
「あははは!だねー!」
「あはははじゃない!」
コーヒーのよい香りが部屋に漂う。
「コーヒーが出来たようだ。持ってくる。」
「片付けしながら、いい塩梅にコーヒーまで落としておくとは、さすがウィス。いー仕事しますなぁ。」
ジト目でこちらを見て、ウィスは台所に消えていった。
「でもしばらく、3年?はウィスはいないんだねぇ。」
チクン。
「ん?なんだ?慣れない片付けなんかしたから、体が疲れたのかな?」
ウィスとの出会いは5年前。
リタ18歳。ウィス20歳の時だった。
リタは幼少期より才能を遺憾なく発揮しており、最年少で帝国医療師団の副団師になっていた。
魔法は使えなくとも、頭の中で薬品の構造、効能を構築し具現化する といったことが得意であった。
いままで誰も考え付かなかった薬や、完成にはあと数十年かかるであろう薬をどんどん開発。人々に還元してきた。
だが、若くして優秀すぎると悪い意味でも目立つ。
医療師団のなかには、リタの活躍を面白く思わない輩が居て、出向書類を偽造され、ある辺境の最前線に送り出されることになった。
激しい戦闘、日々増える怪我人や不調者。
大人でも逃げたしたくなる現場で、最後まで一人で治療を行った。
それこそ寝食を忘れて。
ある日若い騎士が、医療テントに運ばれてきた。
ウィスである。
ウィスは当時20歳。
念願の騎士になれ、自分の将来とこの国を守ることに希望を持っていた。
騎士道に娯楽や女はいらない。
だから、リタのような少女が、国を守る要の場所に居るだけでも腹立たしかった。
(こんな子供に何が出来る?お遊びじゃないんだぞ。)
早く手柄を立てて、騎士としてもっと認めて貰いたい。そんな焦りから無謀にも敵陣に単身乗り込み、負傷したのだ。
「右前腕、骨折してますね。背中の裂傷もひどい。治しますが、皮膚は多少つる感じが残りますよ。」
「子供のままごとじゃないんだ、君以外の大人の治療班は居ないのか?」
「あなたが大人という人達は、全て帝都に戻りました。ここに居る治療班は私だけです。」
「な!なにっ!大事な最前線なんだぞ!ここは!」
「なるほど、その気負いがこの大怪我ですか。ここは最前線ではありません。3日前停戦条約が結ばれました。けどすぐ引き上げると戦報酬が少なくなると思った、バカな司令官がダラダラ続けているだけです。その証拠に、バカな司令官はここのところテントから出てこないでしょ?中で慰安隊とお楽しみです。」
「な…に…。では私は無駄な戦をしていたと…」
「では治療を始めます。背中の傷を縫合します。まずは剥離した皮膚を切り落とします。」
「なっ!ままごとはやめろと言ったろ!しかも俺たちは捨てゴマなんだ、死んでもいいってことだろう…」
「うつ伏せになって…」
「止めろと言っているんだ!皮膚を縫う?子供のお前がか?ふざけるな!」
「…はぁ、めんどくさ。いいですか?見ててください。」
そう言うとリタは、手に持っていた手術用刀で、自分の左腕をジャッ!と切り裂いた。
そして針と糸を取り出し、片手で器用に傷を縫っていく。器具さばきも鮮やかで、無駄がない。
呆然とそれを見ているウィス。
「貴方の傷はこれよりもっと酷いですが、このようにきれいに縫えます。貴方が戦うのが使命なら、私は貴方の治療をするのが使命です。ってか、もうそろそろ私の忍耐も限界なんで、とっととうつ伏せになりやがれっ!!ボケッ、」
鬼の形相とはこの事か…
少女の普段との様子のギャップにも驚き、
大人しく治療を受けた…。
それから数日、やっと戦も終わり、帝都に戻ってきたリタは、上司が引き留めるのを聞かず医療師団を辞めた。
「だって、組織のドロドロ面倒くさっ。出世もしたくないし、のんびり研究したいから。」と、治療を受けた後から、リタに懐いたウィスに笑って言った。
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