第51話まるく収まりました。

深い夜が段々と薄くなり、日の光が周りを照らし出す。

空はキレイな青色に変わり、人は活動を始める。


そう、朝が来たから起きて動かなくてはいけないのだ。


「おかしいな、全く力が入らない…。麻痺毒を間違って口に入れた時のようだわ………」


私はなんとか体を動かそうと、両腕に力を入れてみた。


ポシャ……


シーツに突っ伏してしまった。


筋肉が退化してしまったのか!?ちっとも動かない!


「………リタ、起きたの?」


少し眠そうな声がする方を振り向くと、カーテンの隙間から射している朝日にキラキラと髪が光り、極上の寝起き顔のウィスが居た。


「ま、眩しい……。」


ふわあぁぁっと大きな欠伸をして、ウィスが体を起こしてくれた。


「ほんとは行きたくないけど、今日は城に行かなくちゃならないな。まだリタと微睡んでいたいんだけど。」


「お城に行くの?気をつけてね。」


私は、ベットの下に放置してある服を着ようと腕を伸ばす。


その腕をハシッと捕まれて、耳元でウィスが

「まだ夕べの続きをしたいんだけど……」

と囁く。


「なっ!何を!あんだけしたのに!?お城に行くんでしょ!早く支度して!」


真っ赤になって、ウィスの胸筋をペシペシと叩いた。


「あははは、分かったよ。お楽しみはまた今夜に。」


そう言うと、私の後頭部にチュッと口づけをして、ウィスは支度のために部屋から出ていった。


「くそぅ、なんだか悔しいな。」


そう呟いて、私も服を着た。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それからは怒涛の展開だった。


クーデターが成功したシュリアリア国は、我がテラスバイト帝国と平和条約を結び、長年睨み合っていたミレーヌ王国との仲をとりもち、停戦協定を結ばせた。


つまり、ウィスが帰ってこれるのだ!

軍服熊エザリオン国王万歳!


でも、後処理でもう少しだけ帰ってこれないと肩を落としてたっけ。

結局、半年は現地に留まり、あの気持ち悪い魔道具の鳥が私たちの間を往き来した。


そして2年が過ぎ、私も私で忙しかった。


国立治療院が本格的に始動し、週の半分はそこで治療の指導。残りの半分は今まで通りに薬師の仕事をした。

そのなかに、王宮御用達も含まれており、今日もご用命を受けた薬を王宮へ届けている。


「おぉ!リタ殿!待っておりましたぞ!」


フサフサの髪をなびかせながら宰相さんが、出迎えてくれた。


「その後の経過はどうです?抜け毛は増えました?」


「いやいや、ばっちりだよ。流石リタ殿!」


ささやかだった頭部は、見事豊かな実りを蓄え、経過も順調。


「はい、これ頼まれていた物です。」

「おおお!待っていた待っていた!ありがとう!しかし、少し仕事はおさえたほうがいいのではないかな?体を大事にして、な。」


いつものように、バイバイと手を振り宰相さんと別れると、ガハハハハハと笑い声が廊下の奥から聞こえてくる。


「お、リタか。また宰相に怪しい薬か?」

「ゼルギール様、怪しいとはなんです?真面目な薬師をつかまえて。」

「ガハハハハ、すまん。すまん。ところで養子に来る気になったか?うちの領地は穏やかな所だ。街より育てやすい環境だと思うぞ?」

「閣下、ありがとうございます。でも私はこの街が好きだから。」

ガハハハハと笑いながら、ガシガシと頭を撫でられ、「いつでも遊びに来い」と言いながら去っていった。


王宮の帰りに、レンガ亭に寄った。

「あい!こんちゃ!」

マチルダとダリンの愛し子の看板娘のマーガレットが、今日も可愛く接客してくれる。

「マーちゃん、オムレツ大盛でね」

「あい!オヌレツ、おーもり!ふちゃりぶん!」

そんな様子をマチルダさんとダリンが微笑んで見ている。


少し忙しくなったけど、何も変わらない日常。

でも……


「リタ!届け物くらい俺が行く!無理するなよ!」


家の扉を開けようとしたら、先に開いてウィスが抱き締めてきた。

「少し体を動かさなきゃダメなんだっては!適度の運動は必要なの!」

「でも王宮までは遠いだろ!途中で具合が悪くなったらと思うと、心配で心配で……」


私たちはウィスの当初の宣言通り、凱旋後結婚した。

ウィスは出世して近衛騎士になれたのに、『王宮勤めは不規則で、リタの傍に居られない』と街の自警団に転属希望を出した。


「帰りにレンガ亭に寄って、オムレツ食べてきちゃった。無性に食べたくなって。ごめんね。」


「いいよ、今は食べられるものを食べた方がいい。ちなみに今晩はシチューだった。」

「食べるーー!!………ん?お?蹴った!やっぱり君もウィスのシチューが好きかい?」


かなり競り出てきたお腹をさすったら、その上から大きな手が重なった。


「大きくなったら、シチュー争奪戦になるかな?」

「そしたら多めに作ってね、ウィス。」

重くなった腰を、優しく支えられながら、我が家へ入った。





そのドアを見つめている人物が二人。


「もう止めましょうよ、いい加減……」


「うるさいわね、ロザリア!いいこと、ウィス様は無理だとしても、ウィス様の息子様とお近づきになれるチャンスよ!そしてウィス様の息子様と私の愛を…」

「男の子とは限らないじゃないですか。女の子だったらどうするんです?しかもいくつ違うと思ってるんです?図々しい。」

「なっ!絶対に美男子よ!私の第六感がそう言ってるわ!……今、あなた私を図々しいと言ったわね!?」


ロザリアは、はあぁぁぁぁぁぁ、と深いタメ息をついた。

なんだかんだでまだこの令嬢の侍女を辞めてない自分に。















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天才薬師と寡黙な騎士のとある日常 bebop @bebop26s

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