第27話 中庭
「薔薇から薬が作れるのですか?」
「精神安定剤のようなものですが、花は匂いで癒してくれるので、用途は色々あるんですよ。」
宮殿の中庭を殿下と一緒に歩きながら、花びらをせっせと袋に入れていく。
「この庭は、母のお気に入りなんです。特に薔薇が好みで、種類も多く植えてあります。」
優雅な手つきで、薔薇の花を持つ殿下。
よく見ると、さすが王族。薔薇がよくお似合いです。
「庶民では、なかなかこのような立派な薔薇は手に入る処か、お目にかかることもないので、私は今、猛烈に感動しているところです!」
話しはしていても、花びらを取る手は休めない。
「リラックス効果がある薔薇のエキスを抽出して、何点か作ろうと思ってます。なので、今日は散歩に連れてくれて、ありがとうございます!」
悪阻に悩んでるマチルダさんに、良い物が作れそうだ。
薬作りは生き甲斐だし、それをみんなが喜んでくれる事が、私にとって存在価値や自己肯定感を向上してくれる。
まさに一石二鳥!しかも、普段はなかなか手に出来ない材料も、この宮殿にはゴロゴロしてる。
仲良くなった魔術師さんも、時々差し入れしてくれたり、自分の研究をお互いに披露して、いい刺激になったりする。
要は、私はこの宮殿生活を楽しんでいるって事。
ありがとうの気持ちを込めて、とても良い営業スマイルをかましてみた。
「あ!いえ、よかったです。力になれまして。リタさんの。」
頭を搔いたり、手をバタバタさせたり、何故か挙動不審になる殿下。
心なしか顔もうっすら赤くなってる?
「だいぶ私の体調も戻ったし、街のみんなの依頼も増えてきたので、そろそろ家に戻ろうと思います。長い間、お世話になりました、殿下。」
べこっと頭を下げる。
「え?」
急に、さぁぁぁっと殿下の顔が青首なった。
「帰る?家に?ここを出て?」
「はい、普段出来ない事をさせてくれたり、魔術師さん達とも交流出来て、楽しかったです。でもそろそろ家に帰らないと。」
「駄目です!帰させません!リタさん、ずっとここに居てください!」
手に持っていた薔薇をぎゅっと握ったせいで、手から血が地面に落ちた、
「うわーー!なにやってるんですか殿下!刺が刺さってるじゃないですか!」
慌てて殿下の手を開かせる。
ピンセットじゃないと、刺が取れないな。
消毒もしないと。
刺さっている箇所を確認していると、ぎゅっと腕を掴まれ、殿下の胸に顔がぶつかった。
「駄目です。離しません。」
「それこそ駄目です。薔薇を離して下さい。」
「薔薇を離したら、リタさんここに居てくれますか?」
「いや、だから帰りますって。ってダメー!また握っちゃ!!パーして手!パー!」
「時間を掛けすぎたかな?もう少し、畳み掛けるか……」
「え?何ていったんです?」
私のその問いかけには答えないで、とびきり素敵なロイヤルな笑顔で、
「リタさん、そろそろ部屋に戻りましょうか?風が出てきました。冷えますからね。」
そう言うと、私の腰をガシッと掴み、歩き出した。
なんだか、圧が強い。
「殿下、ちょっと待って、あ!薔薇の袋!」
半ば引きずられるように、エスコートされた。
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