第28話 無理だっての!
あれからずっと私は、宮殿の自室に居た。
『帰ります』宣言をした後は、なかなか殿下に会えない。
そもそも、王族に会うのは普段だったら滅多に無い。しかも庶民ならなおさらだ。
恩恵を受けているせいもあるが、やたら懐いた犬の様に、殿下が寄ってくる(あ、不敬か、これ。)
居るのが自然になっていたような。
しかし、護衛を付けての街歩きも却下され、部屋の外に出るのも、限られ、そろそろ私のストレスはMAXに近づきつつある。
「健康と精神状態にかなり悪い状況だわね。どうしたもんか……」
そこへドンドンとドアを叩く音がして、なにやらデカイ物が入ってきた。
「あぁ~らあぁ~リタ様ぁ!お久しぶりですぅ♡」
マッチョ乙女のリーリア嬢。
「やっと満足の行く物が出来ましたの~!」
後から入ってきた針子さん達が、私の目の前に煌びやかなドレスを着た、トルソーを置く。
ドレス?って、あぁ、忘れてた。舞踏会に着させられるやつか。
「ささ、まずは着てみましょう!ちょぉ~っと失礼」
言うが早く、パパパっと着ていたワンピースを脱がせ、トルソーからドレスを取り、ガバッと着させられた。
「ん~いいわぁ!イメージ通り♡リタ様はコルセットを付けたことはないと伺ったので、コルセット無しでも綺麗なラインが出るデザインにしましたのよぉ~」
ふむ。確かに着心地がいい。
手触りもいい。
綺麗なエメラルドグリーンの生地に、付けすぎない程度に小ぶりの宝石が付けられている。
ウエストがやや高くなっていて、寸胴防止に丁度良い。
“ 服は着られればなんでもいい “ 主義の私ですら、ほぅっと頬がピンクになる。
ってか、一体いくらかかってんだ?このドレス……
「すごく素敵です、マッチョ……リーリア嬢!」
「むふぅ。でしょでしょ~!頑張っちゃった、私!」
「素敵だ、リタさん!」
マッチョ乙女に両腕を挟まれ、くるくると回されていた私に、いつの間にか戸口に立って居た殿下が目をキラキラさせ、興奮しながら言った。
「あぁ、よく似合いますね。色もいい。私の瞳の色と同じですよ。ふふ、周りへの牽制にもなるし、独占欲の満悦にもなります。」
そう言いながら、私の手を取り、ちゅっとキスをする。手によ。
後ろで、『きやー!』と黄色い声とドスの聞いたマッチョな声がした。
「あの殿下、あの時の話が途中になってましたが、舞踏会にはただ参加するだけにしてくださいね。大役は辞退いたします。」
「でもリタさん以外、考えられないんです。その仕事への熱量や、真剣さ、個々を慮る優しさ、どれを取っても貴女しかいない。新しく作る医療施設のトップには!」
「買い被りすぎですよ、殿下。私は私のしたいようにしか動かないし、仕事にしか興味がないんです。上に立つ者がそんな態度じゃ、部下達が可哀想ですよ。」
「しかし、リタさんは……」
プチっ
あ、久しぶりのこの感覚……
「だぁーかぁーらぁー!しつこいんだっての!!やりたくないって言ってんだから、やりたい奴にやらせればいいでしょーが!この帝国にも、私利私欲以外の想いを持った人間は居るでしょ!?しかも私は平民!平民が組織のトップなんて、それこそお貴族様の標的になるし、面倒な案件ばっかでしょーが!少しは私の立場や気持ちも考えてもいいんじゃないの!?どうなのよ!」
ぽかーんと、マッチョとお針子さん達、侍女さん達が私を見てる。
あぁ、やっちまったな。久々に。
あ、殿下泣きそう……
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