第29話 初めての手紙

あれから、少し冷静になった私は、マッチョ乙女に丁寧にお礼を言った。


「拗らせてるのね、殿下。ま、頑張って!」

と、うふふふぅ と笑いながらマッチョ乙女は帰って行った。


残るは…


「先程は言葉が過ぎました。しかし、本人の意思を無視した言動は、いくら殿下でも許されません。仕事は断りません。が、私は現場で汗を流しながら仕事をする方が向いているのです。」


目にうっすら涙を浮かべていた殿下が、すくっと後ろ向きに立った。


あ、今、涙拭いてるのね。


「リタさん、すいません。一人で先走ってしまいました。そうですよね、ご本人の意思を無視しては、信頼関係なんて築けませんよね。」


ずびっと鼻をすする。


「まずは本人の意思を、私の想いと同じ方向に向いていただけるように。その為に、まず周りを固めていって、同じ方向を向きやすくする様に全力で頑張ります!」


はい?


周りを固めるって言った?


なにやら不穏な雰囲気を感じ取り、急いで訂正をしようとしたら、


「では、周りを固めてきます!私とリタさんの未来の為に!」


おーい、なんか違うだろ。


呆然とした私を部屋に残し、殿下は嬉々として走って行ってしまった……


コンコン


小さい音がしたので、周りを見渡す。


窓枠に小さな小鳥が止まっていて、くちばしでコンコンと窓を叩いている。


可愛いなぁと近づくと、その小鳥は鮮やかな薄紫色に見えた。


窓を開けると、優雅な羽ばたきで部屋に入って来た。


私の肩に止まり、撫でようとすると可愛らしいくちばしから紙が、デロデロデロと出てきた。


これがウィスの言ってた、手紙を送る魔導具の小鳥ちゃんか!?


こ、怖い!なにこの仕様!


紙を開くと、見慣れた綺麗な文字が見えた。


『リタ、元気か?ちゃんとまともに食べてるか?俺が居ないからって、一週間も風呂に入らないってことはないよな?

仕事もほどほどにな。頼まれると、無理してでもやるだろ?

あと、あの腹黒殿下には気を許すなよ。

ああいう奴は、情に弱いリタを利用しようとするからな。

そして、あわよくばリタの事を………

あー!!ダメだ!ダメだぞ!本当に気をつけろよ!俺が近くに居ないから、淡々と確実に根回しをしてリタを落とそうとしているはずだ!リタは時々、人との距離感を間違えるから、奴に勘違いさせてもダメだぞ。

本当に心配だ。なるべく早く帰れるように頑張ってるから、リタも俺以外の男に懐くんじゃないぞ!



愛してる。』


ウィスからの手紙だった。

遠征中、初めての手紙に顔の筋肉が動く。


自分の気持ちに気がついてから、ウィスの事を考える時間が増えていた。

考えると、身体中にフワフワとした浮遊感と、じわ~っとした温感が広がる。

世の恋人達は、こんな感じを味わっているのか!と驚いたもんだ。


ウィスの手紙はまだ続いていたが、後は体にいい食べ物とか、一緒に洗濯してはいけない衣類とか、風呂掃除の手順とか、本当におかんな文章が続いた。

そっちはさあーっと斜め読みしておいた。


肩に止まっていた魔導具の小鳥が、頬をつつく。

撫でてほしいのかな?と手を伸ばすと、その手を勢いよくつつかれた。心なしか、表情が怖い。


困っていると、バサバサと部屋を羽ばたき、机の上のペンをくわえた。


そのペンで紙をコツコツコツコツ叩く。


「あ!返事を書けってことね!」


正解だったらしく、ペンをインク瓶に入れた。

いや~、高性能だなぁ、この子。


じゃ、返事でも書きますかね。


えーっと、何書こう?







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る