第48話 危機

「これほどまでに、望まれている副団長は幸せですなぁ。愚かなミレーヌ王国はまんまと騙された。この争いで両国は疲弊し、我がシュリアリア国が三国統一、エリザベート様の統治となる!素晴らしい事だ!」


ギトギトに顔をテカりながら、公爵が笑う。


「ちょっと、プッテンバルグ公爵。自分の国を売ったの?裏切ってたの!?」


「こんな国、シュリアリア国に比べれば小国。こんな小国では私の能力を生かせない。見限って当然だろう?」


「本当にあんたってクズだったのね。ザガンを、病気の妹を助けるなんて、旨いこと言って騙して利用してたのね!どうりで人間の器も小さいから、ナニも小さいわけだ!薬でなんか大きく出来るわけないでしょうが!最低!」


「こ!小娘がほざくな!!……まぁいい。お前は餌だ。もう必要は無くなったがな。卑しいその身がエリザベート様の為になったのだ。感謝して死んでいけ。」


公爵はそう言うと、後ろに控えていた護衛に合図を送り、護衛が私に向かって剣を抜いた。


こんな奴らの為に、死んでなるもんか!

リタは瞬時に考えた。


「わたくしはあなたに感謝しているのよ。貧相なあなたが居たお陰で、ウィスは、よりわたくしの魅力に夢中になるでしょう。」


女王が真っ赤な口紅を引いた口を、グニャリと歪めて言った。


「……こうなったら、諦めるしかないみたいね。何もできないし。あ!そうだ!最後に自分の作った薬で楽になりたいんですけど。騎士さんたちの剣を、自分の血で汚したくないし。ここ、借りてる控え室汚しちゃ不味いでしよ?」


「ふん、何か企んでいるのかしら?でもいいわ。この状況で助かるはずないものね。わたくしは慈悲深いの。この者の手枷を解いてやれ。」


護衛の騎士が、手だけ解いてくれたので、下着の裏に縫い付けてあったポケットから、小瓶を2個取り出す。


それを一気に飲み干した。


「それは毒かえ?早く死んでおくれ。」


体温が上がってくる。若干、額から汗が出てきた。

両腕の血管が浮き出てきた。


「ふんっ!!!」


足を縛ってあった縄をブチ切る。


そして瞬間、女王の顔目掛けて拳を繰り出した!


「うぎぁぁぁ!!」


お上品とはかけ離れた悲鳴を上げながら、女王は後ろの壁に叩きつけられた。近くに白い歯が何本か落ちていた。


続けざま、すぐ隣に居た公爵の股間目掛けて蹴り上げる。


「!!!」


公爵は、悲鳴を上げずにその場に崩れ落ちた。


「薬師舐めるなよ!」


「リタ!無事か!!」


私の決めセリフと同時に扉が開いて、ウィスが飛び込んできた。


「ウ、ウィス?ちよっと大丈夫なの!?」


「それは俺の言うことだ。あぁ、頬が腫れてる…誰にやられたんだ?」


私の顔を見た瞬間、さあぁぁぁぁっと温度が下がり、魔王が降臨した。


「余計な抵抗は止めろ!ここは包囲されている!全員捕縛しろ!」


魔王の一声で、どやどやどやと宮廷騎士団がなだれ込み、護衛の騎士たちを確保していく。


私はその場にへなへなと座り込んでしまった。


「よかった………。ウィス、本当になんともないの?大丈夫なの?媚薬飲まされたんでしょ?」


ウィスの片眉が上がり、一瞬ニヤリと笑った感じがした。


「リタ、治してくれるか?すごく……辛い。」


「わかったわ!確か私が借りてた仕事部屋に、荷物がまだ残ってたはずだからすぐ緩和剤を調合するわ!」


立とうとする前に、フワッとウィスに抱き抱えられた。


「またドーピングしたんだろ?その副作用で力が入らないだろうから、このまま行く。」


「いつものチカン撃退用の瞬足と増強剤を飲んだの。お陰で私は無事よ。」


そっとウィスが私の頬を撫でて、


「まるっきりの無事じゃなかったろ……」


ウィスが、泣きそうな顔をしたから、なんだか私も泣きそうになった。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る