第25話料理と嬉しい知らせ

「あらぁ~久しぶりねぇ~。さあさあ、座ってぇ。」




久しぶりにレンガ亭に来た。マチルダさんは元気そうだ。


相変わらずの繁盛で、店の中は人だかりの熱気と、空腹をくすぐる匂いに溢れていた。




宮殿缶詰状態に、ストレスが爆発しそうだ!と殿下に直訴し、護衛をつけることを条件に、街に出られた。




「マチルダさーん!美味しいもの頂戴ー!玉子増々の大盛でー!あ、ミナベールさんは何食べます?」




後ろに控えていた護衛の騎士に話しかける。




「いえ、自分はここに居ますので、お気遣いなく。」




黒髪のガッシリとした体格の彼は、ビシッと姿勢を正して答える。




「私だけ食べてるのは、かなーり気が引けるんで、ミナベールさんも食べてください。レンガ亭の料理はすっごく美味しいんですよ!肉と魚だったら、どっちがいいですか?あと卵料理。」




「いえ、自分に気を遣うことはありません。リタ殿、ごゆっくり食事を堪能下さい。」




またビシッと言われた。




「護衛をされる側と、する側で一番大切な事ってなんだと思います?」




「……どういう事でしょうか?」




「信頼です。信頼関係がなければ、この二つは成り立ちません。私が食事をしている時、後ろでただ立って居られると、気を遣うし、食事が楽しく感じられません。一緒に食事をすることで、一体感が生まれ、ゆくゆくは信頼に発展するんです!」




言いながら、めちゃくちゃな理論だと思ったが、レンガ亭に入る時に、可愛らしい『くぅぅぅ』と腹が鳴る音を後ろから聞こえてしまったので、なんとか彼にも空腹を満たして欲しい と思った。




「くっ!信頼……。しかし、勤務中であるし……。しかし……」




なにやら小声で悩み始めたらしいが、




「騎士に必要なもの!それは即決できる判断力!!」




「はっ!自分は肉が好物です!!」




ミナベールは、言ってしまった……とやや肩を落とし、恨めしい目でリタを見て、隣の椅子に腰を下ろす。




「はい、はい、ちょっと待っててねぇ。」




そう言うと、マチルダさんが厨房にオーダーを伝えに行く。




ワンピースがフワッと舞う。




いつもピッタリした服を好んで着ていたから、雰囲気が違う彼女を見ながら、自分の空腹と戦う決意をした。






しばらくして、出来立てのホカホカした料理が運ばれてきた。


ダリンによって。




「あれ?ダリンがホールに出てくるの珍しいね。マチルダさんは?」




「気分、悪くなって。」




「大丈夫!?どうしたの?容態見ようか!?」




フルフルと首を降るダリン。




「病気、じゃない。」




「病気じゃなかったら、何?」




「お腹、居る。子供。」




「ええええええーーー!!おめでとうっ!おめでとう!!」




「ありがとう。」




照れて頭を搔きながら、ダリンは嬉しそうに言った。




「明日、滋養によく効く薬持ってくるよ!あー凄い!よかったね!」




マチルダはずっと不妊に悩んでいた。


リタも妊娠しやすくなるように、体質改善の薬草を定期的にマチルダに届けていたから、感動もひとしおだ。




「ダリンなら大丈夫だと思うけど、マチルダさんに無理させちゃダメよ。初期は特に気を付けなきゃね。」




食べ終わったリタは、ホールで料理を運ぶ手伝いをした。


勿論、護衛のミナベールも一緒に……。








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