第24話 黒ローブ
「ウィス副団長、少しよろしいですか?」
テントの幕が上がり、黒いローブに身を包んだ痩身の男性が入ってきた。
「あぁ、どうぞ」
ちょっ!部外者の私が居るのに、まずいんじゃないの!?思わず毛布に隠れようとした私。
あたおたしてる私をよそに、落ち着いて黒いローブの人の話を促す。
「ミレーヌ王国から、魔術の流れを感知したとの報告がありました。」
「魔術の?」
「はい、斥候からの報告でしたが、我々も微弱な動きを感知しました。間違いないかと。」
「そうか、近日中に大きく動くな。こちらからも、牽制の意味を込めてお返しをしてやらねばな。」
「既に準備は整ってあります。しかし我々魔術師だけでは相手方の不意打ちに会うかもしれません。騎士団から数名、護衛を要請します。」
「そうか、なら魔力の高い者を護衛としてつけよう。団長には私から報告しておく。」
「できれば、ウィス副団長にお願いしたいと思っております。護衛の統率も必要かと……」
「私でなくとも大事ないと思うが?」
「いえ!是非ともウィス副団長に!」
なにやら立て込んでるみたいだなぁとウィスの横でふんふんと聞いていたけど、ウィス自ら出陣しろってこと?なんてこと言うんだ、この黒ローブは!
怒りでキッ!と黒ローブを睨む。
「それは団長が決める事である。しかし、私も早くこの遠征を終えたいと切に希望している。」
「ではなおさら、ウィス副団長の同行を。」
なかなか引き下がらないな、この黒ローブ。
なんだか必死すぎて、少し違和感が感じられる。
なんでだ?
「くどい。決定は団長に委ねる。」
ウィスの表情を見ると、氷の様な冷たい表情だけど、眉間のシワが2本。
2本だったら、まだ大丈夫そうだ。
「……そちらのご婦人は?見かけない顔ですが?」
やっとウィスの隣に居た、私の存在に気がついたみたい。
「医療団に、必要な薬を転移魔法で届けてくれた薬師だ。」
「あ、こんにちは。」えへへと軽く笑顔を作る。
「転移魔法!?そんな高度な魔術を、そんな平凡な顔の人間が!?」
なんて失礼な黒ローブだろうか。
平凡で悪かったな、平凡で。
ってか、顔は関係ないだろうが!
「殿下の計らいで、宮廷魔術師に転移の魔方陣で送ってもらいました。私は只の平凡な薬師ですので。」
ヒラヒラと、さっきウィスに見せた魔方陣の書いてある紙を見せた。
「な!なんと!こんな高度な魔方陣を……少し見せてもらっても?」
なんかムカついたけど、「はい」と紙を手渡そうとして、黒ローブの手に触れた。
パキン! とまるで薄い氷が割れるような音がして、黒ローブが驚いた表情をし、呻いて顔を押さえ跪いた。
「大丈夫ですか?」
と覗き込むと、ギロッとした目で睨まれた。よく見ると、眉間に赤い印が見えた。
「し、失礼しました。ではまた動きがあったら、報告に来ます。」
黒ローブは、ウィスの呼び止める声を待たずに、さっとテントから出て行ってしまった。
「なんだったの?何か音がしたと思ったんだけど?」
「……隠蔽の魔法だ。リタが触れたから、その魔法が解けたんだ。」
「へ?」
「リタは魔法が使えないだけで、体には多くの魔力が貯まってるんだ。その魔力が、なんとか発動しようとして、より多くの魔力を欲し、相手の魔力を自然に自分に取り込んでしまうんだよ。」
「なにそれ!?初めて聞いた!私が魔力を刷吸っちゃうの!?」
「そうだ。だから、さっきの魔術師の魔力を、リタが触って吸収した。だから自分にかけていた隠蔽の魔法が解けた。」
「うわわわわ、なんだか自分が怖いよ。ってか、それじゃあウィスの魔力も私が吸っちゃってるってこと!?」
「そうだけど、俺は吸われても量があるからなんともないし、リタから還元してもらえるから平気だ。」
還元?とくにお返しした記憶はないんだけど?ま、奪った記憶もないけどね。
「俺達、触れあってるだろ?深く。」
そういうことーーーー!?
「しかし、隠蔽の魔法をかけてるのは気になるな。何の為にしているのか……」
「なんだか睨まれたけど、あの黒ローブに。私に吸われたの気づいたよね、すごーく睨まれたから、きっと。目と目の間に赤く印もあって、気味悪いような感じだったなぁ。」
「赤い印!?」
「うん、この辺りに赤い点々と回りを丸で囲んだようなやつ。」
「リタ、お手柄だ。これで俺も早く帰れるかもしれない。」
何の事だか、全く分からなかったけど、早く遠征が終わるんならよかった。
「大丈夫なの?危ない事じゃない?あの黒ローブ、ヤバい人じゃない?」
「あぁ、あいつは小物だ。大事ない。リタ、その魔方陣に魔力を入れる。もう少し、恋人との逢瀬を堪能したかったけど、早く宮殿に戻った方がいいな。……癪だが。」
帰る前に、ウィス用に作ってきた薬を、いつも使ってるくたびれた肩掛け鞄から取り出す。
「これが擦過傷用ね。こっちは胃腸薬。男の人って腸が短いから、お腹弱いもんね。で、これが回復剤。あんまり多用しちゃダメよ。あと水虫薬ね。」
「ありがとう。大事に使うよ。」
髪を指で梳かれ、そのまま頬をそっと撫でられた。
あぁ、また離れ離れか……
「早く帰る。」
「うん。」
「ちゃんと食べろよ。」
「うん。」
「あと、風呂も入れ。髪もよく洗うんだぞ。」
「……うん。」
「知らない人から、食べ物貰って食うなよ。」
「………うん。」
「それと、……」
「今度は何!?子供じゃないんだから、キチンと出来るよ!……それなりに。」
クスッとウィスが笑って、そっと口づけをする。
「こんなに近くに、他の男を入れるなよ。」
「分かってるわよ……」
魔方陣にウィスの魔力が注がれる。
綺麗な淡い紫色で、うっとりしながら見てたら、
「クソ殿下にもよろしく。今回はなかなかいい仕事したなって言っといて。」
「不敬ー!」
フワッと体が浮いたと思ったら、光で目が開けられない。
足の裏に、地面を感じて目を開けた。
少しの気持ちの悪さがあったけど、そこは最近見慣れた風景だった。
「帰って来ちゃったか……」
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