第42話 黒幕見えたり

「くそっ!どうしてこんなことに!!」


来訪者は、ウエルカムベルの残骸を踏みながら喚いていた。


「なんでリタが!……え?リタ?何故ここに居る?」


「何故って、ここが自分の家だから。」


そう言って、見目麗しい来訪者の所へツカツカと歩いていって、おもむろに綺麗な頭を殴った。ぐーで。


「?????」


状況が飲み込めず、呆けているウィスに、両手を腰に当て、憤怒の表情で、


「あんなに乱暴にドアを開けるから、壊れちゃったじゃない!どうしてくれんの!!」


気に入っていたのに、あのベル。


「あ、いや、その……すまん。悪かった。っていやいやいや、待て!誘拐されたって聞いたけど、なんでここに居るんだ!?」


「だから、私の家だからよ。あ、エリンヌ気がついた?気分はどう?」


ワタワタとしているウィスに背を向け、エリンヌの元へ行く。


「副団長……、おい薬師、なんだか……可哀想な感じだが……」


ザガンがこそっと耳打ちする。


「お!お前は誰だ!距離が近い!早く離れろ!」


「おねえちゃん、ありがとう。助けてくれて。」

エリンヌがコテンと首を倒し、遠慮がちに笑った。


んまーっ!!なんて可愛らしい笑顔!天使の微笑みとはこの事ね!


「誰かさんは、いきなり肉食べろとか言ってたけど、少し味がついた重湯から胃にいれましょうね。」


「駐屯地に居た時と大分雰囲気が違うじゃないのか?本当に副団長なのか?」


「だからー!近い近い!俺の妻に近づくな!」


「妻じゃない!」


「おい、薬師!なんとかしてあげろよ!」


そんな大人たちを、エリンヌは微笑みながら見ていた。


取りあえず、エリンヌの容態が少し安定したところで、今回の騒動をウィスに説明する。


「シュリアリアには、確かに王太子と訪問した事があった。女王にも謁見し、何故だか私をそのまま留学させたがったらしいが、王太子と共に帰国したんだ、あの時は。帰国も色々伸ばしに伸ばされたっけなぁ。」


「その時に王女に目をつけられたって訳ね。」


まじまじとウィスの横顔を見る。

整った顔。すらっと伸びた手足。それでいて華奢に感じられない体幹。

いい筋肉してるのよねぇ。


ふとウィスと目が合う。


「俺にはリタだけだからな。王女だろうが、傾国の美女だろうが、目に入らない。」


やや目の辺りを赤くして、真っ直ぐ私の目を見てウィスが言った。


不意打ちは勘弁していただきたい。


「ふむ。薬師殿は愛されてるんだな。そんなんで。」


ガコッとザガンの頭を殴ったのは、不可抗力よね。


「ところで、我が国の裏切り者だが……」


そうだ、この企みにうちの国の貴族が絡んでるんだった。


「グラシアスと名乗ったんだな?」


「そうだ。うちの魔術師会に依頼し、俺は直接会った。……うまく事が運ばず、奴からは、折檻を受けた。」


「どんな特徴があったか?」


「いつも高そうなキラキラした服を来ていた。それと、顔には仮面を被っていた。」


素顔は分からずか……。


「ああ!この依頼の他に、奇妙な…というか、切実な依頼もあった。」


「どんな依頼?」


私が聞いたのに、ウィスの耳元でコニョコニョとザガンがこそっと話した。


「何よ!私にも聞かせてよ!」


バツの悪そうにザガンは私とは目を合わさず、


「ま、その…なんだ。男には色々あるんだよ。」


としか言わなかった。


ウィスを見ると、同じく目線が泳いでた。


何よ!余計に気になるじゃない!

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