第41話 ヤバイのでは?
「流石、帝国一流魔術師の魔方陣だわ。ちゃんと3人で着いたわね。」
自宅のリビングに魔方陣のお陰で、一瞬で着いた。
「………魔力酔いがえげつないんだが………。」
ぐったりとした黒ローブだったが、腕にはしっかりと妹を抱いていた。
「私は魔力を吸っちゃうらしいから、魔力酔いはないけど?さ、治療を始めましょうか。」
リタは自室のベットにエリンヌを横にするように言った。
「まさかとは思うが、このベットで寝ているのか?毎日?」
ベットの上には、診察記録やら、薬の瓶やら、干からびた何かやらが乱雑に散らばっていた。
「そうよ。少し散らかってるけど。」
「少しの認識が間違っているみたいだな。」
黒ローブは呆れてリタを見た。
「さて、エリンヌ。足を診るわよ。」
そう言うと、リタはエリンヌの全身をくまなく診察する。
「両椀、両下肢の浮腫。あ、むくみね。あと不整脈。息切れを見て、心臓病で間違いがないわね。」
「それで、助かるのか!?」
「まずはこのむくみを取るのに、利尿剤を飲んで、余計な水分を抜いて、心臓の負担を少なくする。」
そういうと、奥の部屋から色々な瓶と油紙に包まれた粉薬を持ってきて、エリンヌに飲ませる。
しかし、半ば朦朧としているエリンヌは上手く嚥下が出来ない。
するとリタはおもむろに薬を口に含み、エリンヌにキスをした。
「な!お前何してんだ!!」
コクン と弱々しくエリンヌの喉が動く。
「何って薬を飲ませただけよ。自分じゃ飲めないでしょ、今。」
その他に、心臓の動きを助ける薬をまた口移しで飲ませる。
苦しそうだった表情が、少し和らぐ。
「しばらくこの薬を飲ませて、意識が戻ったらまずは重湯から胃に入れるように。いきなり肉とか食べさせちゃだめだよ。負担が多すぎる。」
スウスウと穏やかな寝息の妹を見て、黒ローブはリタの前に膝をついた。
「感謝する。本当だったら、こんなに助けてもらえないのに。申し訳なかった。」
「ま、そっちもやむ終えない事情があったんでしょ?いいじゃない。ってか、まさかまた私を拐うの?」
「いや、もうそんなことはしない。ウィス第二騎士団副団長を依頼主の元に連れて行く為に、貴女を拐い、従わせようとした。」
「えぇ!ウィスを連れて行くのに、私を餌にしようとしたの?なんでよ!?」
「駐屯地からの私診を全て見て、貴女がウィス副団長の妻だと分かったので。」
「つ、妻じゃないわよ!妻じゃ!」
「そうなのか?私信では妻の貴女を労る事ばかり書いてあったから……」
「違うわよ、私まだ独身です!」
顔が真っ赤になっていくのが分かる。恥ずかしさと妻と言ってくれた嬉しさと半々だ。
「と、とにかくしばらくここで静養して。あなたもね。」
「ザガンだ。シュリアリア国の魔術師だ。」
「シュリアリア?ミレーヌ王国の隣の?」
「そうだ。俺はシュリアリア国魔術師会に属している。王女の命でウィス副団長を自国に連れて行く事になっている。」
「あれ?でもウィスのテントでは額に赤い紋様があって、それってミレーヌ王国の魔術師の印なんじゃなかったの?」
「万が一、隠蔽の術が解かれた場合の工作だ。ミレーヌの間者と思われた方が動きやすかった。」
なんと手の込んだことだろう。
まんまと騙されたってわけだ。
「で、なんで王女はウィスを連れてこさせたいの?」
「王配にする為だとか。要は、自分の即位の儀にテラスバイト王太子が訪問した際、護衛の騎士団のなかの一目惚れしたカッコいい騎士を、自分の夫にしたいけど他国だからなかなか交渉が上手く行かない。だから拐って洗脳してしまえばいい。 と言うことだ。」
「要約してないじゃん……」
「王女は残忍で有名なんだ。報酬に釣られて、名乗りをあげたが、逆に妹を人質のようにされ、手を引こうとしたら遅かった……」
「へぇ、大変な人に目をつけられちゃったのね、ウィスは。」
「それとそっちの貴族もグルだそ。名前は『グラシアシス』って名乗ってたが、偽名だろうけど、テラスバイトのやつだった。」
なぬっ!
なんだか大事になってるみたい……
早く然るべき所には報告に行かなきゃだけど、殿下には啖呵切っちゃったしなぁ。
でも国絡みの事だし……
うんう頭を悩ませていたら、バァァンと勢いよく玄関の扉が開き、扉の上に付いていた、ウエルカムベルがガシャァンと景気よく落ちて割れた。
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