第43話 報告
エリンヌは私の自宅に寝かせ、私とウィス、ザガンの三人は夜の宮殿に来ていた。
アダライト殿下の執務室の扉を開けると、
「リタさん!無事でしたか!あぁ、心配しました。」
アダライト殿下が両手を広げ、私を抱擁しようとしたら、横から腰を抱き寄せ、ウィスに抱き締められた。
殿下とウィスの間に、何かしらの効果音と共に張りつめた空気が漂う。様に感じた。
「殿下、今回の騒動の報告に参りました。」
私を抱き寄せながら、ウィスが言う。
「影からも報告はありました。今回の騒動の裏に、我が帝国の者も関与していたんですね。」
「はい、この度は私の行動のせいで、多大なるご迷惑をかけてしまいました。申し訳ありませんでした。」
ザガンが深々と頭を下げる。
「あなたの事も調べました。身内を人質に取られ、さぞや心苦しかったでしょう。」
「罪滅ぼしにはなりませんが、全てお話しします。」
ザガンはもう自国には戻らないつもりらしい。
話を聞くと、シュリアリア国は凄まじく貧富の差が大きい。
平民はまるで一握りの貴族の奴隷のようだという。
自分は体が弱かった妹の為に、汚い仕事も率先してしていたという。
中でも女王であるエザリベート・クアンヌは冷酷で残忍な性格で、彼女の機嫌次第では、王城の門の外に拷問された人の死体が重なり、放置されているという。
しかし彼女に取り入られれば、贅沢な暮らしが約束される。戴冠してから女王の周りには、彼女を諌める人も、諭す人も居なかった。
結果、王政は腐り、国はかなり傾いているらしい。
「我が帝国は、シュリアリアの国境にある鉱山から出るサファイアを輸出しています。取引は良好ですがね……」
殿下が顎に手を当て、考え込む。
「女王の戴冠式に殿下が呼ばれ、私も護衛の一人として訪問しましたが、なかなか帰国を許されず、大変でしたね。」
ウィスがため息まじりで言う。
「そうそう、ウィス副隊長が気に入られて、彼だけ置いて私達は帰国しろと脅された事もありましたね。」
そのまま置いておけばよかったな……と殿下が小声で呟いた。
聞こえたのか、ウィスの私の腰を抱いている腕に力が入ったけど………
「で、肝心の我が帝国の裏切り者ですが……目星は付いています。そこで!」
アダライト殿下が私の手を取り、満面の笑みで
「明日の舞踏会で決着を着けましょう!リタさん!」
へ?なんで私?
「リタさんに作ったドレスをリーリア嬢が朝イチでこちらに持ってきてくれます。準備はうちのメイドにさせますので、リタさんはゆったりくつろいでください。」
「は?なんでリタが舞踏会に出る必要がある?それにドレスを作った?いつの間に!?」
段々と腰に巻き付いているウィスの腕がギュウギュウ締まる。
「裏切り者を断罪する為に、リタさんに協力して頂きたいんです。あ、ワルツは私と踊りますよ。」
「殿下……私が言った事、忘れてません?また壁に吹っ飛ばしますよ?」
「いえいえ、もう勘弁していただきたいです。折角ドレスを着るんですから、ワルツを踊られたらいいかと思っただけです。出来れば私と。」
懲りてないな、この人は……
今晩は宮殿に泊まるように言われたけど、エリンヌが心配だからと強引に自宅に戻った。
「よく寝てるわね。よかった。」
私のベットでスヤスヤ心地いい寝息をたて、エリンヌは寝ていた。
「本当に、本当に感謝しかない。ありがとう。薬師殿。この恩は必ず返す。」
ザガンの目が潤んでいたけど、気がつかないふりをした。
ザガンはエリンヌの側に居ると言うので、何かあったら声を掛けるよう伝え、薬品の調合室に入る。
ここには薬草を焼いたり、茹でたりする用に簡易の小さいストーブがある。
火を入れ、床にストールを引き横になる。
怒涛の展開で、既に体はクタクタ。
このまま泥のように寝てしまおう。
「リタ?床に寝ると体が冷えるぞ。ちょっと待て。」
ウィスが部屋に入ってくるなり、くるくると巻いた物を床に敷きだした。
「一応、寝袋を持ってきた。そのストーブだけじゃ、暖を取るには厳しいからな。」
流石ウィス。用意いいね。と半分眠りの国に入っていた私は虚ろに言った。
ら、ウィスも私の背中にピタっとくっつくように寝袋に入って来た。
「な?なにしてんのウィス?」
「俺も寝るから。リタは小さいから、俺が入ってもきつくないだろ?」
いやいやいやいや、そう言うことじゃなく、って小さいってなんだ!程よく大きいわ!
「明日の舞踏会には俺も参加する事になったから、一緒に行こう。」
「駐屯地は?戻らなくて大丈夫なの?」
「あぁ、事態が事態だからな。速達で団長には殿下直々に連絡が入っているはずだ。」
私が誘拐されたと殿下から連絡が来て、急いで駆けつけてくれたんだよなぁ。
顔見た時、嬉しかった。
けど、お気に入りのウェルカムベルを壊されたのは腹立ったけど。
さっきからウィスの息が耳にかかる。
疲れてすぐ寝られると思ってたのに、なかなか寝付けない。
「リタ?寝たのか?」
耳元でいい声で囁かないでー!
寝たふりをしようと思ったのに、「うっ」と声が漏れてしまった。
「リタが居なくなったと聞いたとき、心臓が凍った感じがした。命令違反でも、すぐ戻ろうとしたら、殿下から帰国の許しが出て……よかった。無事で……本当によかった……」
キュッと後ろから抱き締められた腕は、少し震えていた。
「来てくれてありがとう。」
なんだか、胸が熱くなって、きゅっぅぅっとなった。
愛しい ってこんな気持ちなんだろうなぁと思った。
本当に胸がいっぱいになって、チョロチョロと手が……
ん?
手が?
震えていたウィスの手が、いつの間にか不埒な動きになっていた。
耳に掛かる息も、熱を帯びている。
「リタ……愛してる。」
「ウィス待った待った待った!今日は疲れたでしょ!?私もクタクタなんだよ。」
なんとか不埒な手を胸から退けようとすると、
「大丈夫。リタは寝てていい。俺が好き勝手にするから。」
好き勝手すなーー!!
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