第2話おかしくなりそうなのは、どっちだ

夜の街は賑わっていた。

早々と酔っぱらって、道端に転がって寝てる人。

色街通りで、客引きをしてるキレイなお姉さん達。

そんな中を手をぎゅっと握られ、引きずるように歩かされているリタ。

「ウィス、ウィス!もう少しゆっくり歩いてよ。私3徹明け。」

「…ちゃんと寝ろって言ってるだろ、いつも。」

「だってさ、だってさ、宰相さんに頼まれた薬が出来そうで…って、さっき出来たけど。」

「仕事となると、周りが全くわからなくなるのは、リタのいあとこであり、悪いとこだな。」

「うふふ、楽しいんだもの。」

満面の笑みを向けられ、ウィスは若干整えられた眉毛が動く。

「ところで、なんかそわそわしてない?ウィス。いつもと違うよ?」

そう言ってウィスを見上げると、眉間に1本シワができた。

「…別に。」

握られた手が、益々ぎゅっっとなった。


「あ~ら、いらっしゃ~い!久しぶりねぇ二人とも。」

レンガ亭と掲げられた看板の店に入ると、ピチッとした服をカッコ良く着こなしている、美女が明るく声をかける。

「マチルダさ~ん!美味しいの食べたい~!」

カウンター席にドカッと座り、机をバンバン叩く。

「こら、リタ。行儀悪い。子供か。」

「だって久しぶりだもん、レンガ亭!ダーリンの料理!」

「…ダリンな。ダリン。その言い方止めろ。」

「あらあらあらぁ、相変わらずの二人で楽しいわぁ。」

マチルダさんはニコニコしながら、小鉢に

入った煮物を出してくれた。

「お酒はどうするぅ?」

「飲みたーい!キンキンのミカン酒!!」

「ウィスはぁ?ワイン?」

「…いや、今日は止めとく。」

「…頑張るのよぅ。うふふ。」

なにやら含み笑いを残し、マチルダさんは厨房へ入っていった。

「ウィス飲まないの?明日仕事早いの?」

「いや、明日は非番だ。」

眉間のシワが2本に増えてる。

「なんか悩みでもある?オネーさんが聞いてあげるよ?」

「誰がオネーさんだ。年下!!そんのことよりまともに生活しろ。」

リタはむうっ と頬を膨らまし、小鉢の煮物をつつく。


マチルダさんが美味しそうな料理を出してくれた。

「これは旦那からのサービスだってぇ。」

「ダーリン最高!いい男!」

「あらぁ、だめよ~、わたしのだからぁ」

女性二人がきゃっきゃと楽しそうに話をしていても、ウィスはなにやら考えていた。

無言でレアのステーキを次々と口に運ぶ。

リタも大盛りの卵料理をかっこむ。

「こら、そんなに一度に口に入れるな。むせるぞ。バカ!酒で流すな!ほら水。」

そんな二人をマチルダさんはニコニコしながら見てる。その後ろには、熊みたいな大きな体をぐっと屈ませ、これまたニコニコと見ている大男。

「ねぇ、今度二人がくる時は、ちょっと違っているかもねぇ。」

マチルダさんが大男に囁く。

うんうん。と頷く。

その頬にチュッとマチルダさんはキスをする。真っ赤になる大男。

「あ~甘酸っぱいぃ!いいわぁ~!…ねぇ、今日は少し早めに店閉めちゃお。ね♡」

ウルウルした瞳で大男を見上げるマチルダさん。

うんうん。とまた頷き、前屈みをもっとしながら厨房へ戻る大男。

今日もこの街は平和だった。



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