天才薬師と寡黙な騎士のとある日常

bebop

第1話地味にいきたいんです

グリグリグリ。

カチャカチャ。

「もう少し香草足そうか。」

乱雑な机の上で、一心不乱にすり鉢と格闘してる姿は、パッと見はくたびれた中年女性。

何日風呂に入っていないのか、聞くも憚れる姿。誰も彼女がうら若き年頃の娘とは想像も出来ないであろう。

「よし、いい出来。」

ずっと中腰であった為、ぐぐぐっと背伸びをする。

待ってましたとばかりに、腹の虫が鳴く。

「お腹空いたか…。ナニかあったかな?」

ゴソゴソと机の上を探る。

干からびた元はパンであろう物体が出てきて…

食べた。

「ま、咀嚼を頑張れば食べられないこともない。」

玄関の呼び鈴がちりりんと鳴る。

彼女は干からびたパンを咥えながら、パタパタと向かった。


玄関には長身の青年が立っていた。

うっすら青みがかった銀髪。

古代の美術品から出てきたような、艶めかしい白磁の肌。

黒の軍服をカチッと着て、腰には装飾艶やかな剣を帯刀している。

顔の印象を決める瞳は薄紫色で、その瞳に見つめられたら、魂を抜かれてしまうのではないだろうか。


「リタ、何喰ってる?」

「パンだよ。」

「パンであった廃棄物だろ。いい加減まともな生活をしろ。風呂もいつ入った?」

咀嚼を頑張っていたパンであった物を奪われ、ゴミ箱に捨てられる。

「ウィスぅ、それしか今食べ物ないのに。頑張って噛んでたのにぃ!」

「メシ行くぞ。その前に風呂だな。」

暴れる少女の後ろ襟を掴み、引きずるように奥の部屋に入る。


一応風呂らしき湯船はある。

あるにはあるが、そこに張ってある水は緑色して異様な臭いを放っていた。

青年は深いタメ息をついて、手をかざす。

と、シュルシュルと緑色の水が手に吸収され、今度は綺麗な水が出てきた。

パチンと指を鳴らすと、湯船に入った水から湯気が立つ。

そしておもむろに少女の服を脱がし、湯船に投入する。

「ウィス、いつも言ってるけど、他の子にはしない方がいいよ。訴えられる。」

「他の女にはしない。」

ムスッとしながら青年が上着を脱ぎ、袖をまくって少女の髪を洗い出した。

「あ~いい気持ち。ウィス上手~」

髪が終わったら、背中を洗う。

背中が終わったら今度は…

「いいよ、前は自分でやるよ。」

「ダメだ。前そう言って洗わずすましたろ。」

少女は特に嫌がりもせず、青年に為されるままに体を洗わせている。

ボロボロのローブの下には、豊満な胸が隠されていた。

その胸を丹念に洗う青年。

胸が終わり、もっと下のほうに手が行く。

「なんだか、ウィスの赤ちゃんになったみたいね、私。」

イヒヒと笑う少女。無言で全身くまなく洗う青年。

洗い終わり、今度は丁度いい風で体を乾かされる。

「服、洗ってあるのないだろうとおもって、持ってきた。」

可愛らしい緑のワンピースを少女に着せていく。

「よし、メシ行くぞ。」

「はーい!」

二人は一緒に出ていった。


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