第3話違う、違わない

レンガ亭でたっぷり食べ、飲んだリタは大満足で絶賛酔っぱらい中。

店から出ても、ぎゅっと握ろうとするウィスの手を払いのけ、千鳥足で石畳を歩く。

「こけるぞ、酔っぱらい。」

「こけそうになる前に、ウィスが支えてくれるんしょー?」

にへへっと真っ赤な顔で笑うリタ。

「ほら、帰るぞ。」

「まだー!」

ウィスが捕まえようとすると、スルッと逃げるリタ。

「第二騎士隊もまだまだですなぁ。」

フラフラながらも、逃げる動作は機敏だ。

「舐めるなよっ。」

本気で捕まえに来るウィスを、ヒラヒラ、フラフラと翻弄する。

いつしか本気の追いかけっことなる。


ふと気がつくと小高い丘のフロージュの大木まで来ていた。

ここはリタの好きな場所。

「はい、わたーしの勝ちいっ!」

「こら、ご機嫌な酔っぱらい。途中ズルしたろ」

「あ、バレましたかー。護身用に持ってる“疾風の足“飲みましたー!」

リタは魔法が使えない。魔力は人一倍あるが、魔力を発動する器官に障害があり、子供でも使える簡単なライト(明かり)すら使えない。

だから護身用として、色々な薬品を常に携帯している。

今使ったのは、飲むと30分足が早くなる薬。暴漢に会った時用。

この世界で、魔法が使えないのは欠陥人として扱われる。

逆にウィスは、この帝国でも上位を争えるくらいの魔法使い。

将来有望なエリートだ。

そんなウィスが、何故自分を構うのか。

時々不思議になる。

聞いても

「リタは欠陥なんかじゃない」

と周りが凍るくらいの冷気を出すので、リタの中ではうやむやになっている。


丘からは街の明かりがキラキラと光って見えて、とてもキレイだ。

不意にウィスが腕を掴んだ。

「どうした?」

振り返るとウィスの薄紫の瞳が近くにあった。

「リタ、大切な話がある。」

さすがに、この雰囲気で茶化す言葉は出てこなかった。

「3日後、軍命でチェルシーに行かなくてはならなくなった。行ったら3年は戻れない。」

チェルシーはここから馬車で1ヶ月もかかる土地。

チェルシーは王都の最北端。すぐ隣は長年敵対しているミレーヌ王国。

最近ミレーヌ王国の動きが、活発になってきており、小さな小競り合いが国境付近で多発していると言う。

「3年、少し長いね。」

「…俺に拒否権はない。でも、この任務が終われば出世も出きるし稼ぎも多くなる。」

「軍隊は大変だね。命令には背けないもんね。」

「3年は確かに短くはない。だから、」

捕まれた両腕に力が入る。

「確かな約束が…欲しい。」

「約束?なんの?」

「リタが…リタが俺が居なければダメ人間になるって」

は?

なんですと?

「ウ、ウィスさん?なんですかそれ。」

「あ!違うっ!そうじゃなくて、その!」

ウィスが珍しくアタアタしてる。

「…確かに、私は仕事に夢中になると風呂も1週間入らなくても平気だし、干物みたいなパンでも口に入れられるし、真っ当なニンゲンとは言いがたいけどさ、」

「いや、その通りだけど、あ!ちがっ!それが言いたいんじゃなくて!痛いリタ、鳩尾殴るな!」

「残念ながら、元々ダメニンゲンです!ウィスが居ても居なくても!!だから心置きなく出世して稼いでくればいい!」

「落ち着け!リタをなじっている訳じゃない!」

「ウィスが居なくても平気よ、私。ウィスもお母さんみたく私の世話をしなくてもいいから気が楽でしょうよっ!どうせチェルシーには慰安隊も行くんでしよ!?キレイな女の人沢山いて良かったじゃない!慰めてもらえてさ!」

「他の女なんか要らない。」

「私もウィスなんて要らない。」

言ってからしまった!と思った。

勢いで言いすぎた。

ごめん!今のなし!と言おうとしたら、

「…頭来た。わからず屋にはきっちり分からせないとな。」

眉間にシワが3本できて、今まで見たこともないような、魔王の顔。

言うが早く、私を肩に担ぎ、ウィスは走り出した。魔法で加速して…。







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