第19話 企み
「お嬢様、もう止めましょう。そろそろ戻らないと、マズイですよ。」
身の丈まである草をかき分けながら、二つの影が進んでいた。
「ここまで来れば大丈夫かしら。はぁはぁ……。ロザリア、水、頂戴。」
「本当にやるんですか?無理だと思いますよ、絶対失敗しますよ、必ず。」
言ったとたん、ビリビリッと派手な音と共に、スカートの裾が小枝に引っ掛かって破れてしまったロザリアは「ぎゃっ!!」と蛙の潰れたような声を出した。
「ロザリア!さっきから五月蝿いわよ!いい!これはウィス様の為でもあるの!」
「副団長様の私信を盗むのって、窃盗罪ですよ。洒落になりませんよ。」
「この私がここまでウィス様の為に、色々心を砕いても全く気付いてくれない……。あまつさえ、眼中に無いってくらいの扱い………耐えられないわっ!」
「この私がって…どこをどうやったらそんな自信が出てくるのやら、不思議です…」
「だから、考えたの。もしかしたら禁じられた恋をされているのではないかって。例えば……夫のある方とか、男色だったりとか。」
「……相変わらず斜め上いきますね、お嬢様は。」
シャルネリドの侍女になって3年。この主人は、世界が自分を中心に回っていると、本気で思える人物だ と分かった時には時既に遅し。辞めるんだったら、紹介状は書かないわよ!と早々に宣言されてしまった。
それから腹を括って、側仕えをしている。
ある程度の無茶振りは経験していたが、今回は今までのものとは違う。
「では、どうして副団長様の私信を窃盗する事が、副団長様の為なんです?」
「ここは帝国からかなり離れている地。普段の活動報告なんかは、量がかなりあるから大きな魔導具で送るんだけど、個人で私信を送る場合は、限られた方しか送れないの。そして、個人用の魔導具はその方特有の “色“ をもってるのよ。」
「はぁ。」
「で、ウィス様は瞳と同じ薄紫色…とても素敵なのよ!そしてウィス様は必ず毎日手紙を書いてるわ、誰かのために。」
「うわっ!お嬢様、なんでそんなこと知ってるんです?覗きですか!?こわっ!」
「う、うるさいわね、話の腰を折らないで頂戴。で、その誰かの為に、手紙を魔導具で飛ばしてるのよ。小鳥型の魔導具で。」
「はぁ。」
「で、その手紙を拝借して、どんな内容か、誰に宛てたものなのかを確認するのよ。」
「犯罪ですね。」
「だーかーらー!人並みの幸せをウィス様に差し上げたいの!私と共に!!……内容が分かれば、対処の仕方も変わってくるし、脅しにもなるかも……ふふふっ」
ロザリアは思った。
この主人はダメだ。
しかし、今の時点では自分も共犯だ。
見つかればシャレにならない。
下手すれば打ち首もあり得る。
一瞬の内に頭で計算する。
「お嬢様、そんな事をせずとも大丈夫です。要はタイミングなんですよ。物事は。
だってこんなに綺麗で、可愛らしくて、庇護欲かきたてる女性を無下に出きるはずがありませんもの!ここは帝国から遠く離れています。しかもあと2年はここに止まらなければなりません。ということは、その手紙のお相手よりもお嬢様の存在が近いって事ですよ!器は熟すまで待つって言葉がありますでしょう!」
と、早口で捲し立てたロザリア。
顔は必死である。
今までのロザリアの雰囲気とは違う、真剣な様子にシャルネリドは、
「そ、そうかしら、そうよね!そう!そうよ!!私が近い存在になればいいだけの事ですものね!」
草の中で、稚拙な企みをしている二つを見下ろし、ため息をついた者が居た。
(あれは、違うな。)
黒い影が、そっと暗闇に紛れていった。
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