第38話 そしてここは何処?

「副団長、アダライト王太子殿下より私信が届いております。」


「ご苦労様」


ウィスは、先日潜入していたミレーヌ王国の間者の捜査に忙しかった。


発覚後、直ぐ様殿下に報告し、殿下の “影 “と呼ばれる特殊部隊を数名借りて、ミレーヌ王国へ忍ばせていた。


調べでは、ウィス宛の私信の全てを、その間者が他の人物へ渡していた事が分かった。


そして、その人物は………


「殿下からの私信か…。珍しいな。はっ!まさかリタと何かあったんじゃあ!」


急いで手紙を開けようとするが、手がワナワナと震え、なかなか封が切れない。


まごつく手が恨めしい。


ざっと見て、すぐにテントから出ていった。


私信には


【リタさんが何者かに拐われた。】

とだけ、書いてあった。


「団長!失礼します!」


真っ先に向かった先には、今回の討伐隊の団長のテント。


「あぁ、ウィスか。丁度よかった。呼びに行かせようとしていたところだ。今、殿下から報告があり、お前は一旦テラスバイトに戻る様に命令があった。よかったな、勝手に軍を離れたら、懲戒処分だったぞ。」


「そう…でしたか。頼む手間が省けました。命令、了解しました。」

くるっと踵を返し、団長のテントから出ていこうとした時、


「まさか今から行くのか?おいおい、友人が心配なのは分かるが、冷静になれ。」


「友人ではなく、妻です!!」


くわっ!と歯を剥き出しにして怒鳴り返し、走って行ってしまった。


「若いなぁ……。ふむ。しかしキナ臭いもんだ。イヤな予感しかしないな。」



「リタ!くそっ!なんでリタが拐われるんだ!」


さっきから最悪の場面が、頭をよぎる。

殿下の手紙には、以前リタがここに来た時と同じ魔方陣の紙も一緒に入っていた。


「今回は殿下には感謝半分、怒り半分だな。」


手に集中し、自分の魔力を練っていき魔方陣に注いでいく。


「リタ、俺が必ず助ける。もう少し頑張っていてくれ。」祈るような呟き。

瞬間、ウィスの姿が消えた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「痛たた、もう少し丁寧に扱って欲しいもんだわ。」


誘拐された本人は、両手両足を縛られ、冷たい床の上に転がされた。


周りを見ると、随分古い小屋だった。

暫く誰も住んでいないような感じがした。


「潮の匂い?ここはテラスバイトでもミレーヌでもないわね。」


微かにすきま風から、海の匂いがする。


「なかなか鋭いじゃないか。」


気配もなく後ろから話しかけられた。


内心ビクッとしたが、冷静を装ってゆっくり顔だけ振り返る。


そこには黒いローブを羽織った、男が居た。


「あなたは……。あ!ウィスのテントに来たミレーヌの魔術師だ!」


「……そうだ。お前に術を破られて、作戦が大幅に変更になった。」


そう言うと、黒いローブの男は顔を近づけた。


「お前は餌になってもらう。」


「あら?怪我してるじゃない。歯も欠けてる。」

ぐいっと顔を起こし、まじまじと身を乗り出して見た。

職業柄、傷や怪我が気になる。


「なっ!?何をする!」

狼狽える黒いローブ男。


「手も足も縛られてたら、何も出来ないでしょ。怪我の具合が気になっただけよ。薬師だもの、私。」


「……お前、俺に拐かされてここに居るんだぞ?なんでそんなに落ち着いて居られるんだ?」


「今、この状況じゃ、騒いでも暴れても無駄だと思うから、静かにしてるんじゃない。」

まったくもー!と、ため息を吐く。


「……なんか調子狂うな……。と、とにかくもう少し静かにしていろ。」





















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