第39話 妹
「ちょっ、お前、近っ」
黒ローブ男の顔を縛られたままの両手でガシッと押さえ、診察をする。
「大人しくしなさい!瞼に傷があるのよ。良かったわね、もう少し下だったら失明か、視界狭窄になるところだったわよ。」
「だから、今そんなことしてる場合じゃな…、おい!」
わめく黒ローブを無視し、持っていたシワクシャなハンカチに水差しの水を浸し、それで傷口を覆う。勿論両手は縛られたまま。器用な私で良かったわね。
「雑菌を入らなくしなきゃダメだから、あ、シワクシャだけど、使ってないから綺麗なはずよ、このハンカチ。ってかいい加減このロープほどいてくれない?やりづらい。」
「俺の傷なんかいいんだよ!いい加減にしろよ!大人しく縛られとけ!」
「おにーちゃん?どうしたの?」
消えそうなか細い声がし、私は声の主を探す。
ビスが取れかけたドアに寄りかかるように、少女が立って居た。
「エリンヌ!」
黒ローブが少女の名前を言ったと同時に、少女がその場に崩れ落ちる。
「大丈夫か!ちゃんと寝てなきゃだめじゃないか、さあ、つかまって。」
「おにーちゃんの声が聞こえて…目が覚めたから…」
なにやら苦しそうだ。
「パンは食べられたか?肉は?しばらく何も食べてられてなかったから、精のつくものをしっかり食べなきゃだめだぞ。」
「待ちなさい黒ローブ!私の縄を今すぐ外しなさい!」
「………少し大人しく待っていろ。逃げようとは思わないことだ。」
黒ローブは唸るように私に言う。
「違うわよ!その子、病気ね。貧血もあるでしょ。診察させて」
「うるさい!お前には関係のないことだ!」
「あるわ!私は薬師よ!しかも医術の心得もある!目の前に患者を見て、知らないフリなんて器用なことはできないの!」
黒ローブは、しばし考えてから
「……油断させておいて、逃げるつもりだろう。」
「さっきっから、逃げないって言ってんでしょうが!!その子、妹なんでしょ!?早くしないと手遅れになるかもしれないのよ!」
剣呑な雰囲気が消えた。
「そんなに心配なら、私の肩を掴んでなさいよ。走って逃げないように!」
しばしの沈黙。少女の苦しそうな呼吸音だけが何にもない部屋に響く。
そして、黒ローブはナイフを取り出し、勢いよく振り下ろした。
「……ロープを切ってくれてありがとう。さぁ、私は薬師のリタ。少し体を看させてもらうわね。」
「はぁ……はぁ……」
「どれどれ……。顔はやつれてるけど、手足。特に両下肢がパンパンに浮腫んでいるわね。脈も……不整脈か。」
私は少女の体を診察しだした。
「多分……心臓病ね。もしかして小さい頃から走ったり、体を動かすと息が切れたりしなかった?あと過度な労働、ストレス。」
「そうだ、俺たちは孤児だったから物心つく頃には金を稼ぐ事を一番に考えていた。」
「食べ物も、キチンとバランスよく……とはいかなかったわよね。生まれつきのものと、生活習慣で悪化ということか。」
ふむ。……リタはしばらく考え込み、ポンと手を打った。
「黒ローブ、私の家に行くわよ。妹も連れてね。」
「な!なんでだ!ここからかなり距離はあるし、移動なんてできないだろう!やはり逃げる気だな!」
「私を拐ったときの魔術はどうやったの?」
「……以前、お前が持っていた魔方陣を見よう見まねで作ってみた。が、不安定なもので多量の魔力を必要とする。そして一人用だ。お前を拐った時は、夢中で完成間近の物を使った。」
ということは、もしかしたら私、体半分しか転移出来てなかったかもしれないのね。こわっ!
コホン とわざとらしく咳払いをして、黒ローブにニヤッと笑顔を見せ、スカートのポケットから紙切れを取り出し、ヒラヒラさせた。
「ふっふっふっ、これな~んだ。」
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