第16話お呼びでないヤツ
「交換隊員、配置につきました!」
「ご苦労。引き続き周囲の見回りを怠るな。」
「はっ!」
ミレーヌ王国国境付近、チェルシーでは出向を命じられた王国第二騎士団が駐屯していた。
「もう半年か……」
第二騎士団副司令の大役を任されたウィスは、夜間の引き継ぎを終え、自分の割り当てられたテントに入る。
「……今日も返信はなし……か。」
綺麗に整頓された、副司令用の机を見ながら、深いタメ息を吐く。
この地に来て半年。月に何度もリタ宛に手紙を魔道具で飛ばしてきたが、一度も返信は無かった。
「あの馬鹿、返事くらい出せよ。短い手紙でもいいから。ちゃんと食べてるとか、ちゃんと寝てるとか、仕事はどうとか…」
自分の休憩時間に、リタ宛に手紙を書くのがウィスの習慣になっていた。
毎日書くものだから、送る時、まあまあな量になる。
それを自分の魔力を込めた、鳥形の魔道具に託し、愛しい人の元へ飛ばす。
ペンを取り、今日も手紙を書く。
明日はもしかしたら、返事が届くかもしれない。
『ウィス、手紙多すぎ!暇なの!?』
なんて、文面と共に。
想像して、フフッと笑みが溢れる。
「ウィス様、失礼します。」
鈴の音のようなコロコロとした、可愛らしい声がして、入り口の幕が上がった。
「このような時間に、何用でしょうか」
手紙を書いていた時とは、まるで違う氷のような表情のウィスに、
「夜分に失礼かと思いましたが、昼間、ウィス様のお手に傷が見えましたので、治療しに参りました。」
腰まである、ふんわりとしたウェーブのかかった髪の小柄な女性が入ってくるなり、そう言った。
「治療は結構です。もし治療が必要なら昼間にお願いしてます。お引き取りを。」
「放っておいてはいけませんわ!大事な御身をもっと大切に為さるべきです!」
ずいっとウィスの方に寄っていき、
「あっ!」
何故かつまずき、ウィスの胸目掛けて倒れる。
が、
寸でのところで腕を掴まれ、一瞬表情が固まる。
「リンデアロート男爵令嬢、既に他者のテントに訪問する時間は過ぎています。分別のある行動を望みます。」
周りの温度がぐっと下がった気がした。
「さ、支えて頂いて、ありがとうございます。私の事はシャルネリド…シャルと呼んでくださいませ。」
「リンデアロート男爵令嬢、お引き取りを。あと、そんなに治療を気にしているのでしたら、部下の手当てをお願いします。先程の報告で、治療を断られた者がいたそうです。何故でしょうか?」
「あ、そ、それは失礼いたしました。昼間は数多くの治療をこなすのに手一杯で……」
「明日はそのような報告が無いよう。大事な部下ですので。」
「そ、そうですわね!承りました。で、安眠用のお茶をお持ちしたのですが、一緒に召し上がりま……」
ガンッ!と剣の鞘で床を叩く。
「男爵令嬢は、今の状況を分かっていらっしゃらないのですか?敵が近くに居るのに、司令が安眠してどうすると?私はまだ仕事が残っているので、早々に立ち去って頂きたいのですが。」
額にひくひくと血管が浮き出て、眉間のシワが一気に増えたウィスの表情に、慌てて令嬢がテントから出ていく。
あーーーーくそっ!
お前なんて眼中にないんだよ。
俺に構うな!!
何かにつけて、ウィスに寄ってくるこの令嬢、いい加減うんざりして、上官に報告したら、
「面白いじゃないか、娯楽もなにもないここで、喜劇が観られるなんてなぁ。」
と、逆に面白がられるようになってしまった。
ふざけるなっ!
気を取り直し、心落ち着かせて恋文を綴る。
俺が愛するのは、リタだけだ。
他の女なんて、要らない。
明日は返事が届きますように。
祈るように、ペンを走らせた。
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