第15話仕事
ウィスが居なくなってから、私は仕事に没頭した。
風邪薬、胃腸薬、痛み止め、避妊薬……
価格は押さえても、効き目はバツグンなリタの薬は、街で評判である。
「リタちゃん、ちゃんと食べてる?これ余り物で悪いけど」
パン屋のおばさんが、旦那さんの水虫の薬を取りに来たついでに、差し入れをもってきてくれた。
「ありがとう。はい、これいつものね。たまには風通しよくして、よく指間を石鹸で洗ってね。タオルは使いまわししちゃダメだよ。」
おばさんは「ちゃんと食べなさいよー!」と言いながら帰っていった。
からんからん
来客を告げるベルが鳴る。
「リタさん!こんなにやつれて!大丈夫ですか!?」
金髪の青年、もとい殿下が両手に大きな花束を持って入って来た。
「あ、殿下。今日はどのような用件で?」
振り向きざま、グラッと視界が揺らぐ。
倒れそうになったが、フワッと支えられた。
あ、いい匂い。
これはフローラル系?それに少しスパイスのような刺激が入って……なんだろう………
ぼーっと考えてたら、頭上から声がした。
「リタさん、無理してますね。こんなにフラフラで……。」
殿下の瞳って、よく見るとエメラルド色なんだ。へー、なかなか綺麗だな。しかし、この香り、なんだろう……
急に顔が赤くなった殿下はふいっと横を向き、
「リ、リタさん、そんなに近くで見つめられたら……」
んームスク……とはちょっと違う………それじゃあベルガモット?いや、それも違うな……
「あ、あの、リ、リタさん?その、」
スンスンと殿下の胸に鼻をつけて、匂いを嗅いでみる。
「!!だ、大胆ですね!リタさんもしかして、私の事……」
スンスンスンスン……
「ウィスさんがいなくとも、私がリタさんの事を……」
抱き締めようとした瞬間、
「わかったーーーー!!」
ガバッと身を翻し、調剤室へ走る。
ゴリゴリゴリ………すりこぎを一心不乱に動かす。
「これだー!ラベンダーに少しペッパーを入れて、甘ったるくない香りになった!これ使えるな。」
ふと外を見ると、もう薄暗くなっていた。
「あれ?そういえば、誰か来てたような?」
「殿下、よかったのですか?」
城に向かう馬車の中で、護衛の騎士が聞いてきた。
「仕方ない、リタさんの邪魔はしたくない。また日を改めて来るとしよう。時間はたっぷりある。………私の方が有利だよ……」
最後の言葉は、呟くようで護衛の騎士の耳には届かなかった。
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