第8話味方その一

宰相さんの部屋から出て、長い廊下を歩いていると、懐かしい声がした。


「お、まだ生きてたか!しばらくは姿が見えなかったから、とうとうくたばったかと思ってたぞ。」


ガハハハと豪快な笑い声。

振り返ると頬から首筋にかけ、大きな傷のある顔が見えた。もう傷は古傷となっていて、やや皮膚がつれている。


「もういい大人なんで、ちゃんと生命維持くらい出来てます。」


「そうかそうか!」


とまたガハハハと笑い、私の頭をガシガシ撫でた。


「ゼルギール様もお変わり無さそうで、何よりです。」


「まぁな、俺は変わりない。ここのところ平和だしな。身体が鈍って仕方ないわい!」


彼はゼルギール閣下。帝国第一騎士団団長。


この人の顔の治療を、以前私が担当した。


『顔の傷なんて放っときゃ治る!余計なことをせんでもいい!!』


私がまだ帝国医療団に在籍してた時、戦争で瀕死の重体を負った。


自分だけのうのうと治療なんて受けていられない!と散々暴れ、他の治療師が手に負えなくて、私に担当が回ってきたのだった。


『顔の傷は男の勲章とか言うタイプですか?案外カッコつけなんですね、閣下は。』


最初は一応丁寧に対応してたんだけど、あまりのぐずり加減にプチっと切れちゃったんだよね、あの時。それなりに忙しかったし…


『いいですか、首まで伸びた刀傷は、放置すると破傷風といって傷口から菌が入り、ゆくゆくは脳にまで達し、剣を持てなくなります。最悪、死に至ります。今、戦地で戦っている部下たちを見捨てて死ぬおつもりですか?』


烈火の如く怒りまくる閣下に、小娘が淡々と説教をする姿は、今でも誂いのタネだ。


『あ、それとも奥様に優しく慰めてもらいたいから、そのままがいいんですか?熱いですね。』


怒りに身体が震えて、動きが止まったところで、一気に治療する。


消毒液をたっぷりかけ、傷口を洗う。


『!!!!!!』


『あれ?痛いんですか?これくらいも我慢できないくらい痛いですか!やれやれ。天下のゼルギール閣下も大したことないですね。』


『い!痛くなどないわっ!』


そして淡々と治療する。


時々、ぐぅっ! とか うぅぅぅ!! とか声が聞こえたけど。


なんとか治療が終わり、私は深々と頭を下げた。


『緊急時とはいえ、閣下に大変失礼な態度をとりました。治療は終わりました。あとは他の治療師でもできますので、私を処して頂いて結構です。』


ギロッと私を睨み付けた閣下は、突如


ガハハハハハ!!


と笑い、


『いい根性だ!そして手際もいいし、腕もいい!気に入った!』


と、私の頭をガシガシ撫でた。


それから、何かと気にかけてくれる。


私の数少ない味方だ。



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