第36話 仲直り
私と殿下は、馬車の中で色々な話をした。
私が医療団にいた時の話、
干からびたパンは、咀嚼を頑張ればなんとかなる話、
行きつけの料理店のオーナー夫人が、やっと子供を授かった話、
殿下も、昔、一目惚れしたメイドにこっぴどく振られた話、
帝王学の授業が、イヤでイヤで仕方がなかった話、
仕立て屋のリーリア嬢が、何故か女物のドレスを自分にと持ってきた話……
他愛もない話を、宮殿に着くまでお互いに身振り手振り、効果音までつけて話した。
沢山話した。笑いすぎて横腹が痛くなったりした。
こういうの友達っぽいな。と友人が居ない私は、会話を味わっていた。
宮殿に到着し、仮の仕事場だった部家に向かう。
「荷物が多いので、何回かに分けて運んでもいいですか?」
「勿論いいですよ!プッテンバルク公爵は暫く居ないので、出くわして不快な思いはしないと思います。あ、ゼルギールが会いたいと言ってました。」
あぁ、ナニが小さい公爵か。
出くわすことがないのは僥倖。
ホント、あのおじさんネチネチと陰険なんだよね。
宮殿滞在中、仲良くなった侍女さん達が荷造りを手伝ってくれた。
「リタ様、またここで、お仕事されないのですか?街の自宅とこちらを行き来すれば、よろしいのに……」
一番良くしてくれた侍女さんが、ため息を吐きながら言った。
「うーん、魅力的な話なんだけどね、やっぱり宮殿って私には畏れ多いよ。それにまたプッテンのおっさんが絡んでくるのも、うんざりだしね。」
「本当に、なぜ公爵はリタさんを目の敵にしているんです?」
「前に、『ナニ』を大きくする薬を頼まれたんだよ。なんでも、夫人が公爵にご不満で、若い子爵子息と仲良くなってしまったんだってさ。」
やだー と侍女さん達がキャッキャッと笑う。
やっぱどこでも人気ないんだなぁ、あのおっさん。
第一陣の荷造りが終わり、殿下が用意してくれた馬車に荷物を乗せていたら、後ろからガシガシと頭を撫でられた。
「閣下……レディーの頭に何するんですか。」
振り向くと、熊のような巨体があった。
「ガハハハハハ、そいつぁ悪かったな。」
そう言うと、ゼルギール閣下は、私の横に積んであった荷物を、ヒョイヒョイ馬車に積んでくれた。
さすが力がある。次々に荷物の山が小さくなっていく。
「殿下から話は聞いたと思うが、残念だ。お前さんが娘になったら、毎日が楽しかっただろうなぁ。どうだ、やっぱりならんか?俺の娘に。」
「有難いお話ですが、畏れ多いですよ。それに、こんな娘を貰ったら、心労が増えますよ?」
「いやいや、そういう娘だからこそいいんじゃないか。ま、養女にならんでも何かあればワシを頼れ。いつでも力になるぞ。」
最後の荷物を乗せてくれて、また頭をガシガシ撫でて、閣下は「またな。」と宮殿に戻って行った。
カッコいいなぁ。熊だけど。
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