第29話 猫の女の子とジラウス

あれから、暇な時間があれば、ミーニャと遊ぶ様になった。


一緒に公園で遊んだり、追いかけっこをしたり……とりあえず、あいつらが来ない日に、今まで一人でボーッとしていた時間をミーニャと共に過ごしていた。


そんな日を続けていたある日……


「ねぇ、最近、キヨト部屋に居ないよね。…今日はいるけど…。」


「確かに……。……ねぇ、最近何してるの?」


昼頃。

部屋に来ていたメルマとクライエットが、そんな話をふっかけてきた。



「……ん?ただ、外に行ってるだけだけど。」


「外に行って何してるの?」


「いや?特に何も。」


「……ホント?いっつも部屋でゴロゴロしてたのに…。」


「何か隠してない?」


二人は、俺の事を問い詰めてくる。


「いや、本当に何もやってないって。」


「え~、怪しい~。」


そう言いながら、クライエットはじとー…っと俺に視線を向けてくる。


……あまり、ミーニャの話はしたくない。

だって、7歳の女の子と一緒になって遊んでるなんて知られたら、何て言われるか分かったもんじゃない。


…それに、公園でミーニャと遊んでる時、よくハイテンションになって「イヤッフゥーーー!!!」なんて叫んでいる所も知られたくないし。


……だから、俺は、特に何もしていない…という事を貫き通す。


「別に……普通に散歩だよ。」


そう言ってみるが、ジトー……と俺の事を見つめてくる二人。


その目には疑いの色がありありと浮かんでいて、嘘を見抜こうとしているのが分かる。


「……あぁっと、そういえば、今日用事があるんだよね、じゃ!」


「え?」


「あ、ちょっと!?」


二人の追求から逃れるために、取って付けたかの様な嘘を言って、部屋を飛び出した。


…寮を出て、しばらくして…後ろを確認してみたが……誰も付いてきている気配はなかった。


「はあ~……なんか疲れたぁ。」



俺はため息を吐いた。


……それから、いつも通り、公園へと足を運ぶ。


「お兄ちゃん、遅いの~。」


「悪い、悪い。」


公園に着くと、既にミーニャが一人で遊具で遊んでいた…。


…そしえ、頬っぺたを膨らませて、俺に近付き、プンスカ怒っている。


「あー、ごめんな。」


そう言いながら、ミーニャの頭を撫でる。


「むぅ……。」


すると、ミーニャは目を細めて気持ち良さそうにする。


「よしよ~し。」


「むふ~。」


そうして、しばらくミーニャの頭や耳を撫でる。


すると、ミーニャの機嫌が直ってきたのか、表情が柔らかくなってきた。


「それじゃ、ブランコ乗るか?」


そう言うと、ミーニャはパァッと明るい笑顔になる。


「うん!乗りたいの~。」


そう言って、嬉しそうに俺の手を引っ張ってくる。

そして、二人で仲良くブランコに乗った。

ギィ……と音を鳴らしながら、ゆっくりと揺れる。

俺は、立ちこぎしながら、風を感じる。

そして、隣を見ると、楽しそうに笑っているミーニャ。


そして、前方には…変な物でも見ている様な顔をして、こちらに視線を向けている

ジラウスの姿があった。


「……ファッ!?」


変な声を出しながら、慌ててブランコの速度にブレーキをかける。

そして、ブランコから飛び降り、猛ダッシュして、ジラウスの元へと駆け寄る。


「おい、何でお前がここに居るんだよ!」


「え、いや……なんかさ、焦って走ってくお前の姿見かけてから、追っかけた。したら……この公園にたどり着いた。」


「……は?」


「……んで、見てたら、お前、あの小さな女の子と楽しそうにしてるじゃん?気になったから……ずっとここで隠れてみてた。」


「……」


俺は絶句した。



「……それより、あの子誰だ?まさか……誘拐とかじゃねーだろうな?」


「するか!!!」


「じゃあ、どういう関係なんだよ?」


「それは……。」


……と、俺が言い淀んでると……


「キヨトお兄ちゃんは、ミーニャのお兄ちゃんなの。」


…と、いつの間にか側に来ていたミーニャがジラウスにそう言った。


「……お兄ちゃん…?」


「そう、お兄ちゃんなの。」


「………。」


…ジラウスは、じと~っと、鋭い視線を送ってくる。


「な、何だよ……」


「お前…こんなちっちゃい子に自分の事、お兄ちゃんって…呼ばせてるのかよ…。」


「違うわ!!!ミーニャが、勝手にお兄ちゃんって呼んでくんだよ!!勘違いすんなよ!!」


「……本当なのか?」


「本当だって。」


「ふーん……ま、いいけど。」


「何だよ、その反応は。」


「別に?ただ、ちっちゃい子が好きなんだな~と思って。」


「だから、違うっつーの!!」


「はいはい。分かった分かった。」


「ぬぅ………。」


……そんなやり取りをしていると、ミーニャが俺の服をクイクイッと引っ張った。


「ん?どうした?」


「ねぇねぇ、キヨトお兄ちゃん、この人誰なの?」


「ああ、こいつはジラウス。モテたい癖に、大人の女性を前にすると緊張して、上手くしゃべれなくなる俺の友達だ。」


「おいこら!余計なこと言うんじゃねえよ!それに、最近ちょっとはマシに、なってきたぞ!!」


「んなことゆーても、まだメルマとクライエットの二人ぐらいとしか喋れんだろ?それも……目を反らしながらしか。」


「ぐ……そ、そんな事は……」


「あるだろ?」


「……うぅ、そうだよ……。」


ジラウスは、ギリギリと歯軋りをさせながらこちらを見てくる…。


「二人とも、仲良いんだね~。」


「「どこが!?」」


「ハモってるの~。」


「「……。」」


「あははははは、おもしろ~い。」


…ミーニャは、心底楽しそうにこちらを見て笑っている。


「……すっげー笑われてる……。てか、結局この子とは、どういう関係なんだ……?」


「…あーと…この子、ミーニャはさ、道行く人に声かけてて危なかったんだよ。…だから、誰かに付いてっちゃないか心配で…ちょっと見守ってた…。…で、そのまま遊んであげたら、懐かれちまって……ってのがきっかけかな。」


「ふ~ん……そうだったのか。」


「何だよ。」


「いや?随分と、面倒見が良いなって思ってよ。」


「そりゃ、こんな小さい子が危ない目にあうかもしれねーんだから、ほっとく訳にもいかないだろ。」


「…まぁ、確かにそうだな。」


「……だろ?」


…ジラウスは、納得した様に見える。……だが……


「でも、お前、なんか小さい子が好きっぽそうだし。」


「おい!」


俺は思わずツッコむ。


「あはは、冗談だって。」


「お前のは冗談に聞こえねーんだよ。」


「あははは。」


ジラウスは、愉快そうに笑っている。


「はぁ……もういいよ。」


俺も、ため息を吐きながら、苦笑いする。


……すると、ミーニャが口を開いた。


「ねぇ、ジラウスお兄さんも、遊ぼ?ミーニャ、三人で遊びたいの!」


「え……?」


ジラウスが戸惑った表情をする。


「……なんだよ、嫌なのか?」


「いや……そういうわけじゃないけど……」


「じゃあ、何なんだよ?」


「いやぁ……小さい女の子と一緒に遊んだ事なんてないからさ、どう接すればいいのか分からないっていうか……。」


…と、深刻そうな顔で言う。


「何も悩む必要なんてないだろ?その子と一緒になって、楽しめばいーんだ。」


「簡単に言ってくれるな……。」


「難しく考える必要はない。習うより慣れろだ。」


「なんだよ、それ…。」


ジラウスが困った様な顔をしていると……


「お兄さんも、ミーニャと遊ぶの。」


ミーニャがジラウスの手を握ってそう言った。


「ああ……まぁ、別に…暇だしな。遊ぶか。」


「やったの~!」


…そのままジラウスはミーニャに連れられて…砂場に向かっていった。


それから、ミーニャが砂山を作り始めたので…それを、ジラウスも手伝い始めた。


「お山さんをたくさん作るの~。」


「はいよ。」


そして、二人で仲良く砂を集めて山を作っている。

そんな様子を眺めていると……


「キヨトお兄ちゃんも早く来るの~。」


「あ、俺も?」


「そうなの~。みんなでやるの~」


「おーし、なら、俺はでっかいの作ろっかな~」


俺は、二人の側へと駆け寄っていった。……しばらく、三人とも無言で、黙々と砂を集め続けた。


「……なぁ、キヨト。」


「ん?どした?」


「お前……随分とはしゃいでんな。ミーニャちゃんと同じくらい楽しそうに遊んでる。」


「そうか?」


「そうだろ。だって、お前、鼻唄とか口ずさんじゃってるし。」


「え、マジ…?」


「何だよ、お前、無意識か。」


「……。」


言われてみれば、確かに俺、テンション上がってた……けど、鼻唄まで歌ってたのか…。

……ちょっと…恥ずかしい。


「これじゃあ、面倒見てるんじゃなくて、一緒に遊んでる子供じゃねーか。」


「……うぐ。」


俺は言葉に詰まる。


「ははは、図星みたいだな!」


…と、ジラウスは笑う。


「……。」


俺は、恥ずかしさのあまり…下に俯いた。

すると、ミーニャが…


「お兄ちゃん達、こっちに来るの!次はトンネルを作るの~。」


と、楽しそうに言う。


「……あはは…分かったよ。」


俺はそう返事をして、再びミーニャの元へと向かった。

……こうしてしばらくの間、俺たち三人は……砂場で遊んだ。



*********


ミーニャが疲れて眠ってしまったので、俺は彼女をおんぶして、家まで送ってあげる事にした。


…もう、夕方だ。


「……ふぅ……やっとおとなしくなった……。」


「随分と元気な子だなぁ。」


ジラウスがそう言った。


「……だろ?一緒に遊ぶと、いつもこんな感じなんだよな。」


「……大変そうだな。」


「まぁ……な。でも、悪い気はしないよ。……ミーニャの笑顔を見るとさ、なんかこう……癒されるっていうか……なんというか…。」


「癒される…か。」


「うん。そうそう。」


……と、俺は素直に思った事を言った。


「まぁ、分からん事もない。……あんな風に笑われたら、誰でもそう思うだろうぜ。」


ジラウスはそう言いながら、優しい目つきで眠っているミーニャを見つめた。

…その後、俺の方を向いてきて…


「……まぁ、お前もミーニャちゃんと、同じぐらい楽しそうにしてたけどな。」


「な、も、もう良いだろ、その事は…!」


少し怒った様に言う。


ジラウスは「あはは、そう怒るなって。」と、言って笑った。


「……。」


「あ、おい!何でそんな早歩きになるんだよ!!……ってか、速!!人を背負いながら、そんなに速く歩けるか普通!?」


「…へっ。」


……魔操術を使って、ほんの少しだけ身体能力を上げた。

ちょっとムカついたので、置いてくことにする。


「ちょ、待ってくれよ~!!」


スタスタと先を歩くと、後ろからジラウスの声が聞こえたが、俺は無視しながら歩いた。



…しばらく歩くと、ミーニャのお家の花屋さんが見えた。

俺はそこで立ち止まる。


「おーい、キヨトー、おいてかないでくれよー!」


…すると、追い付てきたジラウスは、息を整えている。


「ったく、いきなり走り出すなんてひどいぞ!」


「……お前が余計な事を言うからだろ。」


俺がジトッとした視線を向けると……

「……あ~…悪かったよ。……謝るから、もう置いてかないでくれ。」


「……。」


ジラウスは反省している様なので、許すことにした。


「……それで、ミーニャちゃんのお家はどこなんだ?…もう、着いたのか?」


「ああ、あそこのお店だ。」


と、指をさす。


「あそこか。」


「ああ。」


俺が答えると……


「よし、なら、起こさないようにそっと入っていこう。」


と言って、ゆっくりとお店の扉を開けた。


「すみませーん。」


俺が小声で呼び掛けると、奥の部屋からラミネさんが出てきた。


「いらっしゃい~。……あらまぁ、ぐっすりと眠っちゃってるわね~。わざわざ送ってくれてありがとう、キヨト君。…ええと、それと…もう一人の方はどなた?キヨト君のお友達かしら。」


「あ~と…まぁ、そっすね。こいつはジラウスです。」


「あら、やっぱりそうなのね~。よろしくお願いします、ジラウス君。私は、ここの店主のラミネと言います~。」


「あ、……はい、こちらこそ………。」


……と、ジラウスは、顔を反らして挨拶をする。


「あら~?そっぽを向かれちゃったわ。……私、何かしちゃったのかしら?」


「…気にしないで下さい…。コイツ、女性を前にすると、緊張して話せなくなるタイプなんで。」


「あらまぁ、それはまた可愛いらしい子ですね~。」


…と、ラミネさんは、ジラウスに向かって言う。

ジラウスは、顔が真っ赤になっている。


それを見た俺は、笑いそうになるのを抑える。


「え~と…じゃあ、ミーニャの事…お任せしますんで…俺達はこれで失礼します。」


ミーニャの事をラミネさんに預けて、硬直しているジラウスを連れて帰ろうとすると……


「待って、キヨト君、ジラウス君。せっかくだから、お茶でも飲んでいって下さいな~。ミーニャも、起きた時にキヨト君が居てくれると、きっと喜びますから~」


と、ラミネさんは言った。


「あー……そうですか……。じゃあ、ちょっとお邪魔させていただきます。」


俺はそう返事をした。

…ジラウスはまだ固まってるので、とりあえず、そのまま引っ張って中まで連れていに

きその日を過ごしたのだった。

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