第27話 わちゃわちゃ

ある日、俺の部屋にて……。

アイナ達が訪ねてきて、少しの間雑談していたのだが、この前の女装の話をぶり返してきて…


「エルラ、そのままキヨトを押さえてるんですのよ!!」


「オッケー。」


「うぉい!!!ヤメローー!俺は、俺は男だーーーー!!!!」


…俺はエルラに羽交い締めされて身動きが取れない状況にある。


…で、サメロアはフリルのワンピースを片手にこちらに詰め寄ってきている……!!


「さぁて、観念してくださいまし!今日こそは着てもらいますの!!」


「いやだぁあああ!!!!」


「……この前はサメロア達の意見に賛同してみたが……無理矢理着せる必要はないんじゃないかの?」


…とアイナは、この地獄絵図な光景を見てそんな事を呟いた。


「いいえ、ここまできたら最後までやり遂げますのよ!ね、エルラ!」


「うん。」


「ぬ…そ、そうか……」


「おいこら!!そうかで終わるなー!!」


「……じゃって……あまりにも真剣な表情をしてるから、強く言えないんじゃもん。それに、興味があると言えばあるからの。」


「結局アイナもそっち側なのかよ!!!」


「ほれほれ〜、観念して下さいませ〜」


サメロアが少し、また少しと俺にそれを近づけてくる……!


「くっ……誰か助けてくれぇえええ!!」


俺はそう叫ぶも、誰も助けてくれる人はいなかった……。


_________


「絶望的に似合ってねぇ……。」


結局、無理矢理白いフリルのワンピースを着させられた。

その姿を等身大の鏡で見ているが、そんな感想しか浮かばない。


「ふむ、これはこれで……アリなんじゃないのかの?」


「確かにそうだね。似合ってるよ、キヨト。」


「何処がだよ!!違和感ありまくりだし、似合ってねぇ!!てか、似合ってたまるかぁ!!!」


俺がそう言うと、エルラは首をかしげながらこう言った。


「結構可愛いと思うけどなー。」


「可愛くなくていいんだよ!!お前ら楽しみやがってぇ……!」


「ごめんごめん。そんな怖い顔しないで。」


「…ったく、これっきりにしてくれよなぁ……。」


「それはどうでしょうね?」


「もう二度と御免だからな!?」


サメロアの言葉に対して、俺は声を大きくしてそう返した。

すると、彼女はクスリと笑ってこう返してきた。


「さて、次は何をどうしましましょう♪」


「次なんてあってたまるかってんだ!!」


「あ、だったら髪の毛をどうにかしてみたら?今、キヨト髪短いから、長くしてみるとか。」


「ああ、それいいですね。ウィッグとか使ってみましょう。」


「それは良いが、我の家にはそういった物はないぞ。」


「じゃあ、今度買いに行きましょう!」


「さんせーい。」


「ふむ、良いな。」


「勝手に話を進めるなっての!というか、まだ女装させる気満々かよ!!」


「当然ですわ!」


「いや、即答すんな!!」


そんな調子で俺がツッコミを入れると、今度は部屋の入り口からガチャりと扉が開く音がした。


その音に反応し、部屋にいる全員がそちらを振り向くと、そこにはジラウスの姿があった。


「……特訓しに来たんだけど、何でそんなフリフリしたワンピース着てるの?」


彼はそう言って、目をパチクリさせた。


「…………。」


俺は言葉を失い、その場で固まった。


「おお、知らぬ内に友達が増えたのかの?お主は誰じゃ?名は何と言うんじゃ?」


アイナはそう言いながら、ジラウスに近づいていく。


「え?……わ、え…メルマとクライエット…じゃない女の人……?わ、わ……」


ジラウスは、目の前に立つアイナを見た途端、ピクピクし始めた。

……そして、顔が赤くなっている。


「ど、どうしたんじゃ!?調子でも悪いのかの!?」


「え、いや…その……」


ジラウスは、さらに顔を赤く染めて俯いた。


「あー……そいつはジラウス。最近出来た友達で、極度のあがり症なんだよ……女性の前限定で。……それを治そうとして、メルマとクライエットを相手に対面で喋れる様になる練習させてるんだよ。……まだ、全然喋れねーけどさ。」


俺はそう説明すると、アイナは納得したようにこう言った。


「なるほどのう……。」


「とりあえず、そいつから離れてやってくれ。緊張でまともに話もできんくなっちまってるから。」


「ホイ、分かった。」


アイナが離れエルラが座っているソファーに行くと、ジラウスは深呼吸をしてからこちらを見て、近付いて来た。



「おい、どういう事だよテメー、あの二人以外にもまだ女の子の知り合いいやがるのかよ、しかも全員可愛いじゃん。後、何でそんな格好してんの?」


「色々とあったんだよ。…まぁ、このカッコは、そいつらに着させられた。嫌がってるのに無理矢理。」


「ナニィ!?無理矢理!?つまりそういうプレイを楽しんでいたということか!?うらやまけしからんぞ!!キヨトコノヤロー!!」


「違うわー!!頼むから変な方向に解釈しないでくれぇ~!!!!」


…と、俺が悲鳴に近い声で懇願すると……


「お、おう……?な、なんか勘違いして悪かったな……。」


と、素直に謝ってきた。


「……まぁ、誤解が解けたんならそれでいいよ。」


俺はため息をついてそう言った。


「……ところで、あのお三方は、どちら様でしょうか?」


「……ああ、アイツらなら………お三方?お前、何でここに三人いると分かってやがる?」


「え?…だって、三人いるじゃん。ソファーに座ってる狐の人と、その隣にいる子とそこでプカプカ浮いてる子。……待て、何であの子宙に浮いてるんだよ……まさか幽霊か?てか、よく見てみりゃあの狐の人、なんか尻尾が九本生えてるな。……なぁ、あの人の名前ってなんだ?」


「……アイナだけど。」


「フルネームは?」


「アイナ・リヴァリスココン。」


「…………。」


ジラウスは、しばらく考え込んだ後でこう言い放った。


「最強の魔法使いじゃねぇか!?この街に住んでたって話は聞いた事あるけど、何でここにいんだよ!?一体どういう関係なんだ!?」


「……どういう関係……まぁ、知り合いみたいな感じか?」


…俺は、少し悩んで返答した。

すると、アイナが俺の返答の後にこう返してきた。


「知り合いだなんて冷たいのぉ。お主とはもう家族みたいなもんじゃろ?一つ屋根の下で暮らした仲ではないか。」


「…ん、まぁそんなもんか。」


「なんじゃそりゃあ!?何で!?なんで一緒に暮らしてたの!?説明!説明プリーズ!」


「あ、ああ…分かった…分かったから、そう興奮しなさんな。」


ジラウスを宥めて、俺達の関係性を一つずつ、丁寧に説明していった。


「へぇ……じゃあ、アイナさんはキヨトの師匠的な存在なのか。で、恩人と。」


「ああ、そうだ。」


「……で、そこのプカプカ浮いてる子が…幽霊。名前はサメロアちゃん。…そっちの子が、古代遺跡にいた…エルラちゃん?」


「そうそう。」


「…う~ん、面子の色が濃い。てか、お前古代遺跡に行ってたんだな。スゲーや。…でも、そんなペラペラとそこであった事話していいのか?……機密事項なんじゃ?」


「いや、別に話しちゃいけないってルールは聞いてないけど……。そーゆーの大丈夫だっけ、アイナ?」


「うむ、特に問題無い。……それに、あの遺跡の内部の事を知った所で、現代の者にはどうする事も出来んと思うがの。」


「そっか。」


「ふぅ……なら良かった。」


…ジラウスは安堵の息を付いている。

そんな彼の近くにサメロアが近寄ってきた。


「ジラウスさんは、わたくしの事が見えてらっしゃるんですのよね?」


「あ、はい。見えてますよ。バッチリと。」


「……う~ん…最近、わたくしの事を見える方が増えてらっしゃいますの。キヨト、メルマさん、中途半端に見えてるだけだけど、一応クライエットさん。エルラにそしてジラウスさん。キヨトと出会ってから、こういう出会いが増えたんですのよね。」


「……偶然にしては多いな。」


「そうですの。……ですので、もしかしたら何かあるのかと思いまして。…心当たりってあったりします?」


「……んー…いや、ない。」


「まぁ、ですよね。」


……もしかして、本来俺が転生するはずだった生物の力だったりして。


何らかの事故で、前世の姿のままこの世界に転生してしまった。

詳細は何も教えてもらえなかったけども……その可能性はあるかもしれない。


……そうなのだとしても、今更考えたって分かるわけもない…か。


と、俺がそんな事を考えながら黙っていると、ジラウスが口を開いた。


「ところで、キヨト。今日はメルマとクライエットは来ないのか?俺が来る時、毎回いるからいつもこの時間帯は、ここにいると思ってたんだけど……。」


「ああ…まぁ、確かにこの時間ならあいつらほぼ、俺の部屋に入り浸ってる。でも、来ない時もある。自由だからな、あの二人は~。今は何してるんだろーな?」


俺は首を傾げた。


「私達なら、ここにいるけど。」


「うん、いるいる~。」


「うん?」


扉の方を見てみると、メルマとクライエットがいた。

そして、彼女らは何やら紙袋を持っており、中身が何かは知らないけどパンパンになっている。


「……いつの間に入ってきたんだよ。」


「ついさっき。」


「あたし達抜きで楽しそうにしちゃってさ、ずるいよ~。キヨトはなんか、サメロアちゃんと同系統の服着ちゃってるし。」


「う…こ、これは色々と事情があるんだ。俺が好きでこんなカッコしてる訳じゃねーからな!」


「ふ~ん……まぁ、いいや。とりあえず、これあげる。」



そう言と、クライエット達は持っていた紙袋をこちらに差し出してきた。


「なんじゃこりゃ……」


中には大量の菓子が目一杯に詰め込まれていた。


「お土産。」


「何でこんな大量に買ってきてんだよ。」


「お腹すいてるかなぁって思って。それに、ジラウス君も来るかもって思ったから、多めに買ってきたの。」


「……だとしても、多すぎるだろ…。これ全部、俺とジラウスとお前達二人で食うつもりだったのか?」


「うん。でも、アイナさん達もいるみたいだし、結果オーライだよ。」


…と、メルマは言う。

……アイナの方を向いて、受け取った袋を指して聞いた。


「……だそうだ。……お前ら、食うか?」


「食べて良いのなら、もちろん食べるぞ。」


「僕ももらうよ。そういうものってまだあんまり食べたことないし。」


「そうか。」


「……おいしそうですわね~…。この体では、食べられないので残念ですわー。」


サメロアは少し落ち込んでいる様子だ。


「ひっ……何かウーウー呻いてるけど……サメロアちゃんなんて言ったの?」


「あー……そのお菓子コイツ食べれねーからな。実体化して口の中に食いもん入れても味がしないし、それを解いたら解いたで体から食ったもんがすり抜けるらしいから…。」


「あ……そーなんだ……。」


「まぁ、皆さんの美味しそうに召し上がってるところを見て楽しみますわ。」


サメロアは、笑顔を浮かべてそう言った。


……その後、ジラウスのあがり症を治す特訓をしがてら、貰った菓子を分けて楽しく過ごした。

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