第26話 なんだコイツ?
ある日、俺はギルドに来ていた。
本当は、メルマとクライエットも誘って行こうかなとも思ったが、今日は珍しく誰も部屋に入って来なかったので一人で今はいる。
で、掲示板をさっきまで眺めていた。いい依頼がないかな~って。
そしたら、なんか知らん男に声かけられた。
「確かキヨトだったよな?一人だなんて珍しいな。いつもはカワイコちゃんを二人引き連れてるのに。」
背丈は俺とそんなに変わらんくらい。
そして、結構筋肉質な体型をしていて、腰にはポーチが付いている。
顔は平均位の普通の顔で、赤茶色の髪の毛の男。
「誰だお前?ナンパならお断りだぞ。」
「何で男にナンパなんかしなきゃアカンの!?てか、今の問答の何処にそんな要素あった!?ただ声かけただけなのに!?」
…と、知らない男はギャーギャーと騒ぐ。
「うるせぇな。騒ぐなよ。……んで、声かけたって事は俺に何か用でもあるのか?」
「ん?いや、いつもあの二人と一緒にいるのに、今日は珍しく誰も連れてなかったから、声をかけてみただけだ。」
「そうか。」
めんどくさい奴が来たなと思いつつその場を離れようとする。
すると、その男がまた話し掛けてきた。
「ちょっと待ってくれよ。今一人なんだろ。だったらさ、暇潰しに俺と話してくれね?ここで話しかけたのもきっと何かの縁だし、そう思わね?な?」
「何で初対面の暇潰しに付き合わなきゃいけねーのさ。」
「冷たくあしらわないでくれよ。ほれ、そこの椅子に座って話そう。」
椅子を二つ引きずってきてその一つを俺と対面する形で置き、そこに腰掛けた。
「……まぁ、いいよ。付き合ってやるわ。どーせ俺も暇だし。」
「あんがとな。じゃあ、まずは自己紹介から。俺はジラウス。年は18で好きなもんはとうもろこし。趣味は…人間観察だ。よく、人の事を見ててあの人今あーしてるか…とか見るのが好きだ。」
「ふーん……変人じゃんか。」
「変人とか言うなよ!!ちょっと傷つくだろ!!」
「わ、悪かったよ。」
あまりにも迫真そうな顔で言うものだから、俺もつられて謝った。
「…俺の事変人とか言うけどさ、お前、一部の男達からなんて言われてるか知ってるか?」
「さぁ?興味ないし。」
「お前さぁ、そういうの気にしたいた方がいいよ。」
「全然気にならない。」
「うーん、そう?でも一応言っとくわ。お前が何て言われてるかさ。」
「なんだよ。教えてくれるなら早く言ってみ?」
「お前、いっつもあの二人引き連れてるだろ?メルマちゃんと、クライエットちゃん。可愛いもんな、あの二人。そんな二人をいつも連れてるもんだから、女たらしだなんて言われてるぞ。」
「……え、マジ?」
「うん、マジ。」
「…………」
ショックだ。
確かにあいつらとほぼいつも一緒にいるが、そんな関係じゃないし、何もしていない。
なのに、そんな風に思われてるとは…。
「お~い、大丈夫か。」
少し固まってしまったようだ。
「だ、ダイジョウブダゼ……。」
声は震えていた。
「あーと、まぁあんま気にすんなよ。さっきも言ったけど、そーゆー事言ってるの一部の男だけだからさ。」
「……一部?」
「女性経験のない男達の私怨だよ。自分達がモテないからって、女の子と一緒にいる奴を嫉妬したり
「あー……そなの?」
「そうだ。てか、嫉妬してる暇があったら自分で努力すりゃいいのにさ。そしたら、一人くらいは振り向いてくれるだろーに。そんなんだからいつまで経っても彼女いねーんだよ。」
ジラウスがそう言うと、一部の男から「「「「グハッ!」」」」という声が聞こえてきた。
何人かが精神的ダメージを受けたらしい。
「心当たりのある奴らがそれなりにいるみたいだ。」
「………。」
「あ、ちなみに、俺も女の子の友達なんて今まで出来た事ないです。羨ましいな、こんちくしょうめ!!」
「偉そうなこと言ったのにお前、そっち側なのかよ!?」
「ああそうだよ、悪いか!でもさ、俺は努力したよ!出会いを求めて色んな事したよ!でも、見向きもされなかったんだよ!!なのに、お前は人の目の前であの二人と仲良さそうにイチャイチャしやがって……他所でやれってんだ他所で!」
「イチャイチャなんてしてねぇよ!勝手に妄想膨らませてんじゃねえ!?あいつらとはただの友達だっつーの!!」
「何ぃ!?嘘を吐くな貴様!!ホントは手を繋いだりとかいろんな事してんだろ!?」
「してねー!!」
いつもそれなりに騒がしいギルドで、今日は格別騒がしい言い合いがしばらく続いたそうな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
俺は今、街をウロウロしている。
さっきの言い合いで少し疲れてしまったので、気分転換に散歩をしているわけなのだが……
「……何でお前まで付いてきてんだよ……。」
「お前が、あの二人となんで仲良くなれたのかを知るためだ。二人も女の子を引き連れてる奴の行動を探れば、俺にも一人くらいは女の子の友達が出来るんじゃないかと。」
こいつは一体何を言っているのだろうか。
「そんなことのために、こんなとこにまで付いて来んなよ……。」
「そんなことだとぉ……?俺にとっては大事な問題なんだからな!!だから、ちょっと後つけさせてもらうからな!というわけでよろしく!」
「……もう好きにしろ。」
何か言い返すのも面倒なので、好きにさせる事にした。
俺なんかに付いてきたって、何も得るものはないのに…。
だって、あの二人とは成り行きで仲良くなったようなもんだ。
自分から仲良くなろうなんて、してなかったし……。
「んで、お前は今からどこに行くんだ?」
「別に、目的がある訳じゃねー。口論に疲れたから、気分転換に散歩でもと思って。」
「……ふーん。」
……何かを疑う様な顔をしている。
「何だその顔。」
「いや、てっきりいかがわしい店にでも行くつもりだったのかなーって。」
「行くわけねーだろ、そんなとこ。……てか、怖くて入れん。入ったらぼったくられるのがオチだって思ってるから。」
「行かないのに、何でぼったくられる事知ってるの?」
「……なんだその反応……。まさか、お前そーゆー店行ったことあんのか?」
「…一回だけ。夜歩いてたら、セクシーな人に声かけられてそのままホイホイ付いてった。…したら、水を何杯か飲んだだけで、そん時の全財産持ってかれた。」
「アホだろお前、ちょっとは警戒しろよ。」
「うっせ。こちとら女の人に免疫がねーんじゃい。ちょっと優しくされたりしたら、堕ちちまうかもしれねー純情ちゃんなんだぞ。」
「そーですか。」
「そうだよ。だから、もっと俺に優しくしてくれ。」
「…優しくねぇ。……お前は、俺に優しくされて嬉しいのかよ?」
「いや、全然嬉しくないな。優しくしてくれるなら、可愛い女の子か綺麗なおねーさんを所望します。」
「なら最初から言うなっての…。」
「ごめんちゃ~い。」
……どついたろうかな…とも思ったけど、ちょっと可哀想な気もするので、軽めのデコピン一発で済ます事にした。
「えい」
パチンと軽い音がする。
「いた……いや、あんまり痛くないな。」
「当たり前だわ。人相手に痛み与える程の力でやるわけないだろ。……一瞬どついたろうかとは思ったけど。」
「こわ……。」
「…………。」
「あ、おい!スタスタ歩いて行くなよ!」
……しばらくこんなやり取りが続けながら、ジラウスは後を付いてきた。
そして、夕方になった。
「……んで、どうよ。俺の行動を見てて、何かヒントでも掴めたのか?」
「いーや、全然。ただ散歩してるだけだから、俺が求めてるものは何もない。」
「あっそ。」
「……なぁ、お前って普段からこんな風に過ごしてんの?」
「ん?……まぁ、そだな。散歩したくなったら出歩いて、ボーッとしたかったら部屋でだらだらして。んで、依頼を受けよっかなって思ったらギルドに行く。それ以外の事は、基本してねーな。」
「…それだけ?」
「それだけ。」
「………行動してねーのに何で女友達が出来るんだ…。」
「知らねーよ、そんな事。成り行きで人生歩んでたら、いつの間にか友達になってたんだ。」
「いつの間にか友達になってたってなんだよ……それ。」
「だって、本当だぞ?メルマは、ギルドの寮の部屋がたまたま隣だったってだけ。クライエットに関しては、一度戦って気に入られたんだ。」
「ちょっと待て、クライエットちゃんと戦ったのお前?」
「あん時ギルドにいなかったのか?クライエットが、グラゴルさんと言い合ってたあの日。」
「え、マスターさんと?何、あの二人親子だから、喧嘩でもしてたの?」
「親子って事は知ってるのか。…まぁ、細かく説明するとだな……」
あの時の出来事を詳細に教えてやった。
「……マジかよ。そんなことあったのか。」
「おう。もう、ホントに凄かったからな。地面が抉れるわ、大剣を振り回して斬撃を飛ばしてくるわ…。」
「それを対処出来るお前もお前だと思うけどな。」
「……そうか?」
「そうだよ。俺だったら、何回お亡くなりになってるか分かんねーレベルだわ。」
「ハハ、弱いな~。」
「魔操術を使える奴の次元と一緒にしなでくれ。俺は使えても中級の魔法ぐらいまでしか使えねーよ。」
「そうかい。」
「ああ、そうだよ。」
……そんな会話を続けながら、街を歩いていると……
「……ん?あれは……」
見覚えのある小さくてゴスロリの格好をしている奴が、一人でウロチョロしているのを見つけた。
「おい、あれってメルマちゃんだよな?」
ジラウスが後ろから覗き込むようにして、メルマの様子を見ている。
「そうだな。……一人でこんな所をウロチョロしてるって事はまた道に迷ってんのか?アイツ方向音痴だからなぁ~。」
「そうなのか?じゃあ、どっか行っちゃわない内に声かけた方が良んじゃない?」
「…そだな。」
メルマの方に近付いて行き、声をかける。
「おい、こんな所で何をやってんだ?」
「……あ、キヨト。」
ちょっと困っていた様な表情をしていたメルマガだが、安心した様な顔をした。
「お前一人か?」
「うん。……ちょっと近場のお菓子屋さんにでも行こうかなって…。でも、また道が分からなくなっちゃって。」
「……そうかい。」
「……ところで、後ろにいるその人は誰?」
俺の後ろにいるジラウスを見つめて首を傾げていた。
「……えっと、こいつはジラウス。色々あって、俺の後ろをつけてる奴だ。」
「……本人が気付いちゃってるなら、それは後をつけてるんじゃなくて、ただ付いてきてるだけじゃない?」
「ふむ、確かに。」
メルマの言葉を聞いて納得した。
言われてみれば、ただついて来てただけで後をつけるけてきてる訳じゃないのか。
「……その人って、今日会ったばかりの人?」
「おう。」
「……そうなんだ。」
ジラウスと目先を合わせて、軽く会釈をした。
すると、ジラウスは突然オロオロししながら会釈をした。
「……どした?」
「な、何でもねぇよ。」
「……そっか?」
「……おう。」
「……。」
さっきと比較してもどうも明らかに様子がおかしい。
……メルマに目線を合わせられてからか。
……目線を合わせられてから?
「……もしかしてお前、あんな事言ってた割に、いざ女の子を前にすると緊張して中々喋れないタイプ?」
「な、何で分かった!?」
「メルマに視線合わせられた瞬間、明らかにキョドってるんだもん。」
「……うっ。」
「……お前さぁ、女の子の友達が欲しいならまずそれを克服しようよ…。」
「……だ、だってよぉ……なんか緊張しちまうんだよ…。俺だってよ、直そうとしたさ。……だけどさ、無理なんだよ。」
「……うーむ……。」
さっき言ってた、いかがわしい店のどうのこうのというのも、単に女の人に声かけられて緊張してたのだろうか。
それで、ずるずる連れてかれて水を何杯か飲んだら全財産持ってかれたって事か?
そう思うと、可哀想だ。
そして、そんな事を考えている内に、自然とジラウスに送る視線が哀れみのものへと変わってくる。
「そんな目で俺を見るなよぉ…。可哀想な奴みたいじゃないかぁ……。」
「……すまん。」
とりあえず謝った。
「……この人、本当に今日会ったばかりの人?」
「そうだぞ。」
「それにしては、なんだか仲良さそうだね。」
「そうか?……まぁ、なんだかんだで一日ずっと喋ってたからな。」
「ふ~ん……じゃあ、もう友達だね。」
…俺にそう言うとメルマは、今度はジラウスの方を見つめる。
「あ、えと……な、何でしょう……。」
「友達になろ。」
「…えと………はい?」
「キヨトのお友達なら、私も仲良くなりたい。だから、はい。」
そう言いながら手を差し出す。
だが、ジラウスは困惑している様子だった。
しばらく無言の時間が続いた後、ようやく口を開いた。
「よ、喜んで!!」
…そう言いながらジラウスはメルマの手を掴んだ。
良かったな……と俺は心の中で思った。
数日後…。
あれから、ジラウスにはギルドに向かう度に絡まれる様になった。
そん時に、クライエットにも紹介した。
女の子と関われて、嬉しそうだった。
そして、そのジラウスは今、俺の部屋にいる。
「………お、おは、よう……!!」
「はい、おはよう。」
ジラウスがピクピクしながらクライエットに挨拶をした……。
「大丈夫か……?」
「だ、だいじょうぶ……。これも、女の子に対して限定のあがり症を克服するため……。」
……せっかくこの二人と関わりを持てたのに、緊張して喋れないんだったら意味がない。
なので、コイツのあがり症を治す為の特訓をしてやろうという事になったのだ。
…で、さっきからソファーに腰掛けてその様子を見守っているけれど、ほとんど喋れてない。
「まともに話せる様になるのは、一体いつになるのやら……。」
「それは、本人の努力次第……かな?」
「だよなぁ……。」
「あたしは頑張ってると思うよ。だって、ほら、タジタジしながらもちゃんと挨拶出来たからね。」
そう言って、クライエットがジラウスの肩に手を置いた。
「そ、そそそんなこと……!」
「……まぁ、 その内喋れる様になるか。」
ジラウスの様子を見守りながら、皆としばらく雑段をするのだった。
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