第25話

「やっと起きたね。おはよう。」


「……ああ、おはよう。」


…ベッドの前に立っているメルマにそう言う。


「…どうしたの?」


「いや、最近俺が起きるといつも部屋にいるな~って思って。」


「ダメかな?」


「いや、別にダメじゃねーよ。お前が部屋に入ってくるのはもう慣れたからいいんだよ。ただ……」


「ただ?」


「いっつも何の用も無いのにさ、入ってくるのは何でかなーって思ってさ。」


「それは……まぁ、なんとなくだよ。」


「そっか、まあそれならそれでいいけど……。」


俺はまだちょっと眠たいのでまた横になる。

するとまたメルマが話しかけてきた。


「ねえ、今日一緒にお買い物に行きたいんだけど、付き合ってくれないかな…?」


「ん?町に行くのか?俺は構わないぞ。」


「そう。良かった。……どうせなら皆で一所に行きたいし、クライエットも見掛けたら誘ってみる。10時にまた部屋に来るね。」


「おう。分かった。」


そしてメルマは自分の部屋に戻っていった。


「10時ね……それまでに起きりゃいいか。」


俺は二度寝を決行することにした。


_______


9時まで寝ていた俺は、身支度を整えてメルマが来るのを待った。


そして…10時をほんの過ぎた頃になって来た。


扉を開ける音がしたのでそちらを見ると、そこにはメルマとクライエットがいた。


「おはよう、キヨト。」


「ああ、おはよう、クライエット。」


挨拶されたので、返しておく。


クライエットは相変わらず動きやすそうな短パン姿。


…で、メルマはというと……朝とは違う格好をしていた。


いつも着ているゴスロリ系の服装とは違う服装だ。

なんかこう…いつもより落ち着いた感じがする。

スカートを履いていて、上はブラウス。

髪は後ろで纏めていてポニーテールになっている。


「着替えたんだな。」


「うん。いつもとはちょっと傾向を変えてみたくなって。どう、変じゃないよね?」


「いや、別に変じゃないぞ。」


「そう、なら良かった。」


そんな他愛もない会話をしながら、3人で寮を出る。

外に出ると、日差しが眩しい。

天気が良くて絶好のお出かけ日和である。

俺たちは町の中へと歩き出す。


「でよ、今日は何処に買い物へ行くんですかい?」


「えっとね……まずは服屋さんに行って……」


「そのまま、外でお昼も食べちゃうんだよね。」


「うん。その後は、雑貨店とかアクセサリーショップとか見て回りたいな。」


「可愛い服とか沢山あるかな。」


「……今日はそういう日なのね。」


3人でワイワイ話しながら歩く。


やがて目的の場所に着いた。

そこは洋服屋。


店内には色とりどりの服が大量に並んでいる。


俺もたまにここで新しい服を買ったりする。

女子2人は早速気に入った服を探し始めた。


…時間かかるだろうなぁ…なんて思いながら、とりあえす適当に見ながら時間を潰すことにした。


しばらく見ていると……気になる服を見つけた。


「……なんか、ロックな感じがしてカッコいい服だ…。」


その服を手にとってみると……なんだか気分が高揚してきた気がした。


試しに試着室で着てみて、鏡の前でポーズをとってみる。

なかなか似合っているような気がしないでもない。

少しの間その服を着たまま、自分の姿を眺める。


「……よし、買おう。」


そして、俺は会計へと向かい、この服を買った。


……後の時間は、店の前にあるベンチでメルマ達の買い物が、終わるのを一時間以上待った。


…そしたら、ようやく店の中から上機嫌な二人が出てきた。

両手に紙袋を持っている。


「よぉ、楽しめたみたいだな。」


「いやぁ~お待たせ。」


「服を見るの楽しすぎて、時間忘れてた…。」


「はは、そりゃあ何よりだ。」


「…あれ?キヨトも何か服買ったの?」


クライエットが、俺の買った服が入っている紙袋を見ながら聞いてきた。


「おう、1着だけ買ったぞ。」


「へぇ……どんなの?」


「これだよ。」


そう言って、買ってきたばかりの服を取り出して見せる。


「お、おお…随分とはっちゃけた服を買ったねぇ。」


「ふふん、カッコいいだろう。」


「…さぁ?私にはちょっとよく分からないかな。でも、キヨトがそれでかっこいいと思うなら、それで良いと思うよ。」


「まあ確かに、感性は人それぞれだからね。」


「…まぁ、そうだな。」


俺が持っているのは、パンク系と呼ばれるジャンルのファッションだった。


メルマ達にはいまいち理解されなかったようだが……俺は結構気に入っている。


「とりあえず、昼食済ませちまおうか。」


「うん、そうしよう。」


「じゃあ、あらかじめ決めておいたレストランで。」


そのままちょっと豪華なレストランへと向かった。


_________



「ウ~ム。なんか、慣れんなぁ。」


いつもの生活にはない雰囲気のレストランだ。


……テーブルの上には既に注文をした料理が置かれている。


普段は寮の食堂で食べるのだが、こういうところに来るとまた違う気分になれる。


ちなみに頼んだものは、ステーキ等の肉類。


クライエットとメルマはパスタを、頼んでいる。

因みに、メルマはそれ以外のものも大量に頼んでいて、料理が机の上から溢れてしまいそう。


「なんでそんなにソワソワしているの?」


メルマが不思議そうな顔をする。


「なんかこう……落ち着かないんだよ。普段こんなとこ来ないし。」


「なるほどね。気持ちは分かるよ。」


「確かに、慣れない場所に来るとそわそわしちゃうよね。」


「…そうだろ?……ってか、お前らはよく平気だな。」


「あたしはもう何度かここに来てるからね。」


「私も何回か来てる。」


「え?そなの?」


「うん。ここで皆と一緒に食べるのは初めてだけどね。」


「……そうか。」


俺が知らない内に、メルマ達は何度もこのレストランに来ているみたいだ。

……なんか、仲間外れ感があるな。


「とりあえず、早く食べようぜ。」


「それもそうだね。」


というわけで、俺たち3人は食事を開始した。


しばらく無言で食べ続ける。


…うん、確かに美味い。

味は最高だ。

少し値が張るだけの事はある。


「うんうん、やっぱりここの料理はおいしいね。」


「ああ、これは本当にうまいな。」


「うん。」


3人とも満足しながら食事をしている。


たまにはこうして外食もいいかもしれない。


そんなことを考えながら、俺はフォークを動かし続けた。


「……そういえばさ、皆なんでギルドに入ったの?」


唐突にメルマが質問してきた。


「どした急に?」


「…いや、ふと思ってさ、なんで皆ギルドに入ったのかなって。」


「そっか。……俺は、まぁ成り行きかな。前にも話したけど、俺、アイナのとこでしばらく世話になってたんだよ。あいつはさ、ずっと家に居ていいって言ってくれたけど、流石に居座り続けるのも悪いと思ってた。そんな時に、グラゴルさんのスカウトがあったから入った。そんだけ。」



「ふーん……。クライエットは?」


「あたし?あたしは、単にお父さんの後を追ってるだけだよ。今は引退してマスターになって執務室でふんぞり返ってるけど、あたしがまだ小さい頃は現役でバリバリ依頼を受けてたんだ。しかも、SSランクのモンスターまで相手出来るぐらい強かったんだよ。」


「へぇ、そうなのか。」


「あたし、そんなお父さんの姿に憧れて、ギルドに入ったんだー。」


「なんとなくな俺なんかより、よっぽどいい理由だな。」


「そかな?キヨトはキヨトなりにちゃんとした理由だと思うよ。」


「まあ、それはありがたいが……。」


「それで?メルマは?」


「私は……お金がすぐに稼げる場所が良かったから。」


「金?」


「どうして?」


「……言ってなかったけど私、孤児院の出なの。……孤児の私を、育ててくれて、王立魔法学校にまで通わせてくれた。だから、少しでも恩返ししたいの。それに、あそこにいる子供達に、少しでも贅沢してほしくて。」


「え、何それ、初耳なんだけど。」


「メルマ……孤児だったの?」


「……まぁ、そうだね……。隠すつもりはなかったけど、言う機会がなかったから。」


「……そっか。」


メルマが孤児だったとは知らなかった。

……言われてみれば、彼女の家族については、聞いたことがなかった気がする。

……まぁ、聞かれたくないことの一つや二つはあるだろう。


…俺は黙ったまま、ステーキを口に運んだ。

___


……飯を食った後は、アクセサリーショップ等の店を回り、買い物を楽しんだ。


そして日が沈み始めた頃に、寮へと帰ってきた。


「今日は、楽しかったね。」


「ああ、そうだな。」


「うんうん。」


メルマは、買ってきた服を大事そうに抱えている。

クライエットは、買ってきたものを部屋に片付けに行った。


「……なあ、メルマ。」


「なに?」


「困った事があれば、何でも言えよ。出来るだけ、協力するからな。」


「うん。……ありがとう。」


その後、俺の部屋でどうでもいい様な事を喋った後、解散した。


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