第24話 実験体が
しばらく時間が経った。
そんな時……エレベーターが動く音がした。
そして、扉が開かれる。
そこには、アイナとサメロアと先程の白い奴が居た。
「うわぁ!?何でアイナと一緒に上がってくんだよ!?」
訳の分からない状況に思わず声を上げる。
調査隊の人々も困惑している。
護衛の人達は、既に構えを取っているが……
「お主ら、そう興奮せんでもよい。……この子は、恐らくもう何もしてこん。」
とアイナが言ってきた。
「……どういう事でしょうかな?」
バルバさんがアイナに問いかけてきた。
他の者達は、いつでも動けるように身を構えていた。
「そのままの意味じゃ。この子は何もしてこない。コテンパンにしてやったらな、力の差を実感したのか急に大人しくなりおった。……何事かと思ったら……敵意も殺意も見せずに…近付いてきて……何かを訴えかけてきたのじゃ。……我じゃこの子が何て言おうとしておるのか、分からん。じゃから、連れてきた。」
「つ、連れてきた…?エレベーターに乗っている間に、何もされなかったんですか?」
調査隊の人達がざわつき始める。
「ああ、大丈夫じゃ。危害を加えるような素振りは一切見せておらぬぞ。」
「…………。」
「……どういうつもりなのか、本当なら自分自身でこの子と会話がしたいが、生憎、我には言葉がわからからの。……だから、お主……通訳してくれんかの?手が出せぬ様に我が見ておくからの。」
…と、眼鏡の人に言った。
しばらく考える素振りをして、
「……分かりました。自分も、その子の事は、気になりますしね。」
と、了承をした。
「すまぬの。」
アイナが、エレベーターから降りてきた。すると、白い奴もアイナに続くように降りてきてこちらに向かってきた。
そして、眼鏡の人の前までやってきた。
すると、突然白い奴が何かを喋りだした。
何を言っているのか、俺には全く分からないが、その言葉を聞いて眼鏡の人は驚いた表情をしていた。
……そして、しばらく会話が続いた後、眼鏡の人が口を開いた。
「……皆さん、安心して下さい。この子は、もう私達に危害を加えるつもりは……ない様です。」
……と、言った。
「……この子は、アイナさんに負けて戦意を喪失しています。……それに、今ここで争っても意味がない事も理解しています。開口一番が“殺さないで“……でしたからね。」
と、眼鏡の男は言う。
「そうですか。」
「そうなのかの?」
「はい。……とりあえず、敵意はない事は分かったので、色々とこの子に聞いてみたいと思います。」
「そうかの。」
そう言うとアイナは、白い奴の方を見た。
すると、白い奴もアイナの方を見た。
……自分をのした奴が目の前にいるのに、平然としていやがるし。
敵意はないらしいが、一体どうするつもりなんだろうか?
…まぁ、そこんところはあの眼鏡の人に聞き出してもらおう…。
俺にはどうしようもないんだし。
__________
…あれから、白い奴に話を聞いたがコイツは、古代の事なんてほとんど知っていなかった……らしい。
何でも、ここで生まれてから一回も外に出た事はないらしく、情報は全く持っていない…とか。
何の為の実験かは分からないが、それだけの為に生まれた存在らしく、体を弄くられていた……とか。
そのせいかは知らんが、別に食糧や水分を摂らないでも生きていけるらしい。
因みに名前は、エルラ・ガバナンス。
……で、一通り話を聞いた俺達は、一応コイツも連れて地上へと戻った。
……遺跡の探索はこれで終わりだ。
____で、地上に戻った後は、白い奴の処遇を決める事になった。
まず、結果から言ってしまうと……しばらく現代の事を学んでもらう事になったとか。
理性があり会話も出来る知性もあるみたいなので、どれぐらい出来るものなのか見てみる事にしてみたらしい。
それに、せっかくの古代の遺産を失くしてしまうのももったいないので……との事。
因みに、もしもの時の為にアイナもそれに同伴する事になっている。
もしこの子が、暴れだしたらアイナぐらいしか止められる奴がいないから。
…で、俺はギルドの寮に帰ってきていた。
今はクライエットとメルマが部屋に突撃してきて遺跡はどうだったか聞かれたので、一通りあった事を全部話した。
「……凄いね。まさか、古代で生まれた生命がまだ生き残ってるなんてさ。」
と、クライエットが言った。
「あぁ、そうだな。」
「……なんだか、素敵だね。」
「そうかなぁ。」
素敵かどうかは分からんが…まぁ、でも確かに少し面白かったかも。
…また遺跡が見つかったら行っみてぇなぁ。
_____
……1ヶ月半後。
いつも通りの生活に戻って、ギルドで依頼を受ける日々を送っていた。
ある日、俺が部屋で休んでいると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
誰だろうと思いながらドアを開けるとそこにはアイナがいた。
「おっ、アイナじゃねーか。お役目が終わって帰ってきたんだな。」
「まぁの。それなりに大変じゃったわ。……と、そんな事よりお主に紹介したい者がおるんじゃ。」
「……紹介?誰だよ?」
アイナはそう言うと、後ろを振り向いて誰かに合図を送った。
すると、後ろに隠れていたらしい一人の女の子。
身長は大体160cmいくかいかないかぐらい。
服装はサメロアと同じ系統のフリルの白いワンピース。違う所は、ところどころに赤の刺繍があること。
髪の色は白色で、肩にかかる位のセミロング。瞳の色は赤色。
「……誰だ?……なんかどっかで会ったことある様な気もするけど……。」
「確かに、お主とこの子は会ったことがあるの。」
「やっぱり?」
「何処で会ったか分かるかの?」
「いや……会ったことあるかな~って気がするだけど……分からん……。」
俺が頭を悩ませていると、女の子は答え合わせをするかのように喋りかけてきた。
「エルラだよ。……あんまり覚えてないけど…この前はいきなり襲おうとしちゃったらしいみたい……だね。…だから、ごめんなさい。」
「へ?襲う………あ、お前まさか!?」
頭の中に古代遺跡で会った白い奴の事が頭に思い浮かんだ。
「お前、あの時の奴なのかよ!何でアイナと一緒にいんの!?てか、全然雰囲気違うな!?肌白くなかったっけか?後、なんで現代の言葉そんなに流暢にしゃべれてんの!?」
俺は驚きながら聞いた。
「それは、こやつが体の細胞を弄っておるからじゃ。肌の色を変えたり、体の形を変えたり…髪を伸ばしたり短くしたり……と、ある程度の範囲内なら、色々出来るんじゃな。」
「……へぇ~……。」
「言葉に関しては、現代の事を学ぶ際についでに覚えおったぞ。結構あっさり習得してしまいおったわ。」
「…あっさりって……。」
「まぁ、とりあえず中にお邪魔するぞ。色々話したい事があるからの。」
「……ああ、どうぞ。」
二人を招き入れ、ソファーに座ってもらった。
俺は、近くのベッドに座る。
「……あれ、そう言えばサメロアは今日はいないのか?」
「ああ、あやつなら……」
「ここにいますわーーー!!!!」
「ひゃっ!?」
地面から急にすり抜けてきたサメロアが俺の目の前に現れた。
……思わず変な声が出てしまった。
そんな俺を見てサメロアはニヤニヤニヤと笑っている。
「キヨトを驚かしちゃえ作戦成功ですの~。」
「なんだよそれ……。」
俺が呆れているとサメロアは、俺の横にちょこんと座ってきた。
「なんだよ?」
「何でもありませんのよ~。」
サメロアが俺の横でニコニコしながら俺の顔を見つめてくる。
何だ、この勝ち誇ったようなウザい視線は……。…とか思っているとアイナがコホンと咳払いをした。
「そろそろいいかの?話をしても。」
「ああ、うん。どうぞ。」
俺がそう言うと、アイナはエルラの方を見て、喋り始めた。
「エルラの処遇は我に任される事になった。こやつの事を手におえる者は今の所、我しかおらんみたいじゃからな。こやつのお目付け役みたいなものじゃ。…そんなものは、必要はないと思うがの。こやつは、もう人を襲ったりはしないはずじゃからな。」
「うん。しないよ。だって、誰も僕の体を弄くろうとしてこないから。それなら、人間の事を恐がって襲う必要もないしね……。今の人間とは仲良くなりたいって思うよ。襲うだけ、非効率的だし。」
「……ふ、ふ~ん。」
…確かに、初めて見た時より、大分落ち着いた雰囲気を感じる。
あの怯えた感覚が一切ない。
「これから、ちょくちょく連れてくるからの。どうか仲良くしてやってくれ。」
「ああ、うん。それは別に構わないんどけどさ……なんでそんな服装させてんの?……その子って女の子だったの?」
「いいや、性別はないらしい。無性じゃ。顔も、どっち付かずな顔付きじゃしな。……じゃが、どっちかと強いて言うならば、女の子っぽくないかの?」
「うーむ?」
エルラの顔をじーっと見てみる。
確かに可愛い系の顔立ちだとは思う。
今、エルラが着ているフリルのワンピースだって、結構似合っている。
「……まぁ、そうなのかな?その服装も似合ってるし。」
「じゃろ?」
「あ、因みにその服装は、わたくしが作って差し上げましたの。おそろいですわ。」
「……最初はちょっと恥ずかしかったけど、慣れると案外可愛くて好きな格好かも。」
「……やけに似てるとは思ってたけど、そういう事だったのね。……てか、お前サメロアの事見えてんのか。」
「見えるよ。細部までちゃんと。」
「そ、そうか。」
「……そんな事よりさ、君もこの格好してみない?サメロアとおそろいの格好になれるよ?」
「は?いきなり何言い出すんだよお前は……俺に女装して欲しいのか?」
俺が少し怒り気味に言うと、サメロアはニヤニヤしながら俺の肩に手を回してきた。
「キヨトならきっと似合いますわ。」
「んなわけあるか!?そんなカッコして似合うもんか!!お笑いものにされるのがオチだね!!」
「そんなことありませんわ!きっと可愛いですの!」
サメロアは俺の言葉を聞き流しながら、目を輝かせて、自分の世界にトリップしていた。
「ふむ、キヨトの……のぉ。……よし、今度くる時にでもそれっぽい物を持ってくるかのぉ。」
「アイナ!?」
まさか、アイナがこのノリに乗っかってくるとは思ってなかった。
「可愛いから着れば良いのに。」
「嫌だよ……。」
「絶対似合いますのに~……。」
サメロアはまだ諦めていないようだ。
そんな彼女に俺はため息を吐いて言った。
「俺に女装の趣味はねーよ。ぜってーやらねーからな。」
「…そこまで拒否するなら残念ですけど今は諦めますわ。」
しゅんとするサメロア。
それを見たエルラが呟いた。
「そんなに拒む事ないのに。着たら着たで、新しい道が拓けるかもしれないよ。実際、僕がそうだったし。」
「そんな道拓きたくないぞ!!!」
「えー?」
エルラは不満げな声を上げている。
……この後、メルマやクライエットも部屋の中に入ってきて…エルラの事紹介したり、クライエットがサメロアに怯えたり……と色々大変だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます