第28話 猫の女の子

とある日の街に繰り出した時のお話。

俺が一人で街を歩いていた時の話である。


「ね~、見て見て、このお花綺麗なの~。」


「…ん?」


……道行く人に、紫の綺麗な一輪の花を自慢する様に見せている…猫耳と腰の付け根辺りから尻尾…が生えている小さな女の子がいた。


格好は、首もとにリボンがついた可愛らしいブラウス。

下は、白のふわっとしたスカート。

そして、肩から小さなポーチをかけている。

髪の色は、キャラメルブラウンのショートボブ。

瞳の色は、綺麗な水色。

で、顔立ちはまだ幼さを醸し出している。


そんな見た目の子は、ほとんど相手にされていない様子。

そして、その子は段々と俺に近づいてきて……。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん、このお花綺麗でしょー?」


そう言って、その子は俺に花を見せてきた。


「確かに、とても綺麗なお花だね。」


「えへへっ、ありがと~。おんなじ事思ってくれる人がいて嬉しいなぁ。」


「そっか。……でも、知らない人にはあんまり声かけない方がいいよ。」


「どうして?」


「もしかしたら拐われちゃうかもしれないからね。」


「お兄ちゃんは、私の事拐っちゃうの?」


首を傾げながら聞いてくる猫耳の女の子。


「まさか。そんな事はしないさ。」


「じゃあ、安心なの。ミーニャは、ミーニャっていうの。歳は7なの!お花を見てくれてありがとう、お兄ちゃん。」


笑顔で自己紹介してくるミーニャ。

…可愛い。


「そうか、ミーニャって言う名前なんだ。可愛らしい名前だね。」


「えへへ、ありがとう。お兄ちゃんは、何ていうお名前なの?」


「ん?俺?俺はキヨトって言うんだ。」


「そっかぁ。よろしくね、キヨトお兄ちゃん!」


元気いっぱいに挨拶をするミーニャ。

……本当に可愛らしい子だ。


「……ところで、親御さんはいないのかい?一人で遊んでるの?」


「いないよ、今はミーニャ一人なの~。」


キョトンとした顔で答えてくる。


「あ、せっかくだから一緒に遊んでほしいの。」


「え?俺と?」


「うん、だって、お兄ちゃんいい人だもん。お花に興味持ってくれたから。」


「うーん……。」


「ダメなの?」


悲しそうな顔をするミーニャ。


「いや、そういう訳じゃないんだ。…さっきも同じ事を言ったけど…知らない人とはあまり関わらない方が……」


「お兄ちゃんは知らない人じゃないよ。もうお名前も知ってるし。」


「……。」


「お願いなの。私と一緒にあそぼー?」


そう言って上目遣いをしてくる。


…この子、こんな風に誰にでも喋りかちゃうのだろうか……。

いや、さっきの様子からしてそうだろうけど…。

……変な奴に連れてかれちゃうよりは、俺が一緒にいた方が安全か…?


「……わかったよ。」


「やった~じゃあ、付いてきて~」


「わっ、ちょっと!」


彼女に手を引っ張られて、路地裏から出て、また入ってを繰り返した。


そして、辿り着いた場所は…公園だった。


だが、人がいない。


年期の入った遊具を見ればわかる。

ここは、あまり人の出入りが少ない場所なんだろう。


「こんな場所あったんだ。……静かな所だね。」


「うん、お気に入りの場所なの。ほとんど人が来ないから、自分だけの秘密基地みたいな気がして楽しいの~。」


「そうか。……でも、そんな場所を俺に教えちゃって良かったの?」


「もちろんなの。だって、お兄ちゃんは、もう私のお友達になったんだもん。だったら、楽しい事はきょーゆーしたいの。」


そう言ってニコッと笑う…。

……可愛いな……と思った。


「そっか……。」


「ねぇねぇ、ブランコ乗ろ?」


「あぁ、良いよ。」


「あ、でも乗る前にこのお花を片付けなきゃ。持ったままじゃお花さんが可哀想なの。」


そう言うと、肩にかけているポーチから、四角い突起物のある箱を取り出した。


「お、アイテムボックス。」


「それ、ポチっとなの~」


彼女が突起物を押した瞬間、それがある面が開いて、お花を吸い込んでいく。


「これでよしなの。……じゃあ、今度こそ乗るの~。」


そう言って、ミーニャは年期の入ったブランコに座った。


「お兄ちゃんも、早く早く~。」


「ああ、うん。」


…俺も彼女の隣のブランコに座ってみた。

ギィ……ギィ……と音を立てて、前後に揺れる。


「早速始めるの~。」


そう言うと、少しずつ勢いを付けてブランコを漕ぎ出した。


「……じゃあ、俺も。」


少し漕いでみる。

キコ……キコ……という音が耳に心地よい。


…懐かしいなぁ。

こうやってブランコに乗るのなんていつぶりだろう…。


小さい頃はこうやって、妹と一緒に遊んでいたっけ。


「イヤッホーー楽しいの~!!」


彼女は、漕ぐスピードを上げて、より高くブランコをこいでいる。

楽しそうだな……。


そんな様子を眺めているうちに、いつの間にか俺も楽しくなって、ついつい年甲斐にもなく…彼女の様にはしゃいでブランコを漕いでいた。


「イヤッフゥーーー!!!」


「イヤッホーー♪」


そして、ミーニャと同じ様に叫んでいた。


……しばらく楽しんでブランコから降りた。


「楽しかったの~。お兄ちゃんも楽しそうで良かったの。」


「……ああ、うん……。」


…はしゃぎすぎたなぁ。


「イヤッフゥー!!」とか叫んじゃったし。


俺は、少し恥ずかしくなっていた。


……久々だからといって、この歳の子と同じ様にはしゃぐのはないだろう…。

……この子以外、人が居なくて本当に良かった…。


「お兄ちゃん、どうしたの?顔が赤くなってるよ?」


「……大丈夫。何でもないよ。心配しないで……。」


「そうなの?……じゃあ、今度は滑り台で遊ぶの、いこっ。」


「うん、行こうか。」


その後、二人で砂場や鉄棒で遊んでいる内に…夕方になった。


「あ、もう夕方なの。お家に帰らないと。」


「そっか。……一人で帰れる?」


「大丈夫。ちゃんと帰れるの!」


「そう。……でも、ちょっと危ないから送ってこっか?」


「ホント?じゃあ、お家の前まで一緒に行くの♪嬉しいの♪」


そう言って笑う彼女を見てると、不思議と心が温かくなるのを感じた。


それから、彼女の後についていき、しばらくしゃべりながら歩いていると……花のいい匂いがしてきた。


……そして、一軒の花屋さんの手前でミーニャは足を止めた。



「ここがミーニャのお家なの。ついでに、お花屋さんでもあるの。」


「……へぇ。」


店頭には様々な花が置いてあり、どれも綺麗だ…。


「……俺はそろそろ帰るよ。じゃあ……」


そう言って別れようとしたら……


「あら~ミーニャ。お帰りなさい~。」


店の中から、エプロンを付けた、ミーニャと同じキャラメルブラウンにゆるふわな長髪ロングをした猫耳が生えた女性が出てきた。


「あ、ただいまなの~お母さん。」


「今日もちゃんとお夕飯前には帰ってこれて偉いわね~。……ところでそちらの方はどなた?」


「今日出来たお友達なの♪いっぱい遊んでくれて、とっても優しいお兄ちゃんなの。仲良くなりたかったから、家に帰るまで付いてきてもらってお喋りして来たの。楽しかったの~。」


「そうだったの。それは良かったわねぇ~。」


そう言ってニコニコ笑う母親らしき人。…そして、こちらの方を向いてくる。


「私の娘と遊んで下さったんですよね、それに、わざわざこの子を送ってくれてありがとうございます~」


「いえ…あの…じゃあ、自分はこれで……」


「まぁ、待ってください。まだ、お名前も伺ってませんよ~。」


「あーと…」


…何だろう、このお母さんのフワッとした感じ…。

今まで、会った事のないタイプだ…。


「……えと、キヨトです。」


「キヨト君って言うんですか~。私は、ミーニャの母のラミネと言います~。」


そう言って、ペコリと頭を下げる彼女。俺も釣られて会釈する。


「キヨト君は、今、何歳なんですか~?もう働いてるの~?」


……何だろう、質問攻めされている……。


「十七です。一応、ギルドで依頼受けながら暮らしてます…。」


「まぁ、まだお若いのにギルドで。危険なお仕事が沢山あって、大変なのに、頑張り屋さんですね~。」


「…いや、頑張り屋さんだなんて…。」


…会話のペースが、この人に飲まれてる気が……。


「そうだ、お礼にお茶でも飲んでいってくださいな~。夕飯もこれから準備するつもりだったので、ご一緒にどうです~?」


「それいいの、お夕飯も一緒に食べるの♪」


「いや……そんな…。」


「ご遠慮なさらずに~。ささ、上がって下さい~。」


「そうなのそうなの~。上がるの~。」


「あ、ちょっ…」


ミーニャに引っ張られ、半ば強引に店の奥にある居間に上げられてしまった。


「……。」


居間では、テーブルを囲うように座布団が敷かれており、俺はその中に内の一つにポツンと座っている。


向かい側には、ミーニャが笑顔でこちらを見ながら座っている。


「はい~、粗茶ですがどうぞ~。」


「あ、どうも……。」


目の前にお茶が出された…。

ミーニャの前にも同じ物が出される。


「では、しばらくお待ちくださいね~。」


そう言って台所へと消えていくラミネさん。


……とりあえず、湯飲みに入っている茶を一口飲む。


「…うまい。」


とても深みのあるものだった。

なんてお茶なんだろ?


「お母さんが淹れてくれるお茶、どう?」


「…とっても深みのある、良いお茶だね。」


「そうなの。美味しいよね~。」


「そうだなぁ……」


そう言って、二人でゆっくりとお茶を飲む。


「そういえば、さっきお兄ちゃんはギルドで働いてるって言ってたの。」


「ん?ああ、そうだね。」


「普段は、どんな事やってるの?」


「主に、モンスターの討伐…とかかな。」


「討伐ってなぁに?」


「あー……まぁ、人に危ない事をしてくるモンスターをやっつけちゃうんだよ。」


「お兄ちゃん、モンスターをやっつけられちゃうの?」


「うん、それは勿論。魔法とか使っちゃってね、パパッと、シュババっとね。」


「へぇ~。すごいの!お兄ちゃん強いんだ!」


「あはは……そうでもないよ。」


そう言いながら、苦笑いをする。


「ねぇ、他にはどんな事してるの?もっとお兄ちゃんの事教えて欲しいの~」


「ああ、うん…他には…」


しばらくの間、私生活の話をした。

そして……


「お待たせしました~。」


台所から戻ってきたラミネさんは、お盆の上に料理を乗せていた。


「今日はお客さんが来ているから、腕によりをかけて作ったわ~。」


そう言って、テーブルの上に置かれた数々の品々。


「おお……これは凄いなぁ……。」


「わぁ~。美味しそうなの~。」


二人揃って、感嘆の声を上げる。

メインのおかずであるハンバーグっぽいものには、デミグラスソースみたいなものがかけられていて、付け合わせにはニンジンとポテトサラダがある。

他にも、白米、味噌汁、サラダ等、バランス良く並べられている。


「冷めないうちに食べましょう~。」


「いただきまーす。」


「……いただきます。」


ミーニャと一緒に手を合わせてから、早速料理をいただく。

まずは、メインのハンバーグっぽいものからだ。


ナイフを入れると、中からは肉汁が溢れ出してきて、食欲をそそってくる。


そして、一口サイズに切り分け、口に運ぶ。


「どうですか~?」


「……ええ、とっても美味しいです。」


「良かった~。おかわりもあるので、沢山召し上がって下さいね~。」


……それから、俺達は楽しく食事をしながら談笑をする。


「お兄ちゃんね、ミーニャと一緒にブランコに乗ったの~。それで、お兄ちゃん『イヤッフゥー!!!」って叫んでてとっても楽しそうだったの。ミーニャも一緒に叫んだの~。楽しかったの。」


「あっ、ちょっ、それは言わないで!!この年になってまで、ブランコではしゃいでたなんて事言わないでー!!」


「あら~そうなんですかぁ?」


ニコニコと笑って、こっちの事を見てくるラミネさん…。


「いいじゃないですかぁ。元気があって、とっても素敵ですよ~?」


「いやいや……流石に恥ずかしいですよ……。」


「まあまあ、照れ屋さんですね~。可愛い。」


「か、可愛い!?」


「そうなのそうなの~。お兄ちゃん、照れてて可愛いの~」


「ふふっ。」


そう言って笑う、ミーニャとラミネさん達…。……そんな感じで、楽しい夕食の時間は過ぎていった。


「ごちそうさまでしたー。」


「ご馳走様でした……。」


「はい~、ご馳走さま~。」


皆で一緒に手を合わせる。


「それじゃあ、お皿片付けるわね~。」


そう言って、ラミネさんは食器を重ねて台所へと持っていった。


「あ、手伝いますよ。」


「いえ、大丈夫ですよ~。キヨト君はお客様なので。」


「でも……。」


「お兄ちゃんは、ミーニャとお喋りするの~。」


「あら、そう?……なら、ミーニャのお相手…お願いしてもよろしいですか?」


「ああ、はい。分かりました。」


「ありがとうね。……それにまだ、夕飯を食べ終わった後なんだから、しばらくゆっくりしていって下さい。」


「ありがとうございます。」


……そうして、俺とミーニャは居間に残ってしばらく雑談した……。

そして、そこに食器を洗い終わったラミネさんが参戦してきて大分長い時間が過ぎた…。


「……あら、もうこんな時間なんですね。」


「本当だね~。お兄ちゃんと話してるの楽しくて、時間経つのを忘れちゃうの~。」


「あはは……そう?」


「うん、お兄ちゃんと話すのとっても楽しいの~。」


「…そっか。そう言ってくれて嬉しいよ。」


そう言いながら、俺は微笑む。

すると、それを見ていたラミネさんが……


「あらあら、すっかり仲良くなっちゃいましたねぇ~。」


「そうなのそうなの~。」


「……。」


ミーニャが嬉しそうに笑顔を浮かべる。


「あ~と…もういい時間ですし、そろそろ、俺帰りますね……。」


「…それもそうですね。長い時間引き留めてしまってごめんなさいね。」


「いえ、こちらこそ楽しかったです。ご飯、とても美味しかったです。」


「それは良かったわ~。……良かったらまた遊びに来てくださいね~。」


「はい、是非。」


「バイバ~イ。」


そうして、俺はラミネさん達とさよならをして、寮に帰った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る