第39話

アイナがこの街に越して来て、一週間程が経った。


相変わらず、アイナはお茶が好きな様で、いつも嗜んでいる。

俺が部屋を訪ねると、色んな種類の茶を出してくれた。


なんか、変な匂いがするけど美味しいモノもあれば、普通に飲める味で美味いモノもあったりと、色々な種類があった。


そして、そんな茶好きの九尾さんは、今どうしているのかというと……


「ほ~れ、どうじゃ~凄いじゃろ~。」


「わー!!なにそれなにそれ、何がどうなってるの~?」


……いつもの公園でアイナは、ミーニャに魔法を見せてあげている所だ。


アイナの指先から放たれた光の玉が宙に浮き上がって、ゆっくりと回っている。

それを見て、ミーニャは楽しそうにピョンコピョンコ跳ねている。


アイナがミーニャに会ってみたいと言うので、連れてきたけど……もうミーニャにデレデレである。


あんな事があった後なので、あまり外に出してもらえなかったらしいミーニャ。俺達が同伴してやっと外に出られて、その事もあいまってか、いつもより楽しそう。


俺は、ベンチに座ってそんな光景を眺めながらボーッとしていた。


「可愛らしい子ですわね。別にそこまで難しい魔法でもないはずですのに、あんなにはしゃいじゃって。」


横にいるサメロアはニコニコしながら、ミーニャを見ている。


「それにしてもよ、まさか、ミーニャやラミネさんが、お前の事見えるとは思ってなかった……。」


「ホントですわ。何でこうもあなたの周りには見える人が集まるんですかね?不思議ですわ。」


「知らね……。」


でも、本当に、不思議な話である。

俺がこの世界で今まで仲良くなってる人達は、ほとんどが幽霊が見える奴らばっか。


「わたくし、アイナに声をかけてもらえるまで、三年もの間、誰にも構ってもらえなかったんですよ?たまに見える人がいてもクライエットさんみたいな人がほとんどで、「ギャーーーッ」とか言って、怖がられる始末でしたから……。その時の事を考えれば、今はちょっと異常なくらいですの。アイナと一緒にいて10年間、わたくしの事を見える人なんて現れなかったのに……。まぁ、貴方達が見えているおかげで、こうしてお話しできますし、寂しくないから。不思議だとは思いますけども、幸せですから、なんでもいいんですけどね。」


「なんでもいいのかよ……」


「はい。今が幸せならば、全て良しですの。」


サメロアは笑顔でそう言う。


「そ、そうか。」


「キヨトは今、幸せですか?」


「え?あぁ……うん、そうだな。……結構幸せなんじゃないかな?多分。」


いきなり聞かれて戸惑うものの、今の自分の状況を考えると、そう思った。


「そうですか。」


「ああ。」


「……スー……。」


「……コイツはコイツで幸せそうな顔してんな…。」


俺にもたれかかってきて静かに寝息を立てているエルラ。……気持ちよさそうな顔しやがって……。


「そうですわね。何か、夢でも見てるんでしょうか?」


「見てるんじゃないの?知らんけど。」


俺達がそんな会話をしていると……エルラは「……待ってよぉ……僕は、蛙にはなれないよぉ……。」と寝言を言い出した。

……どんな夢見てんだ?

……俺は苦笑いを浮かべて、その様子を見つめるのだった。


___________


夕方になった。


「はぁ~…それにしても…可愛らし幼子じゃなぁ、ミーニャは……。」


アイナは、俺が背負ってるミーニャの頭を撫でながらそう言う。遊び疲れて、ぐっすりと眠ってしまったので俺がおぶっている。

さっきまでぐっすりだった、エルラも起こして、全員でミーニャの家に向かっていた。


「まぁ、そうだな。……無邪気すぎて、知らん人に声かけちゃうのは、ちょっと危なっかしいけど。」


「そうなのかの?……まぁ、元気が有り余ってる年頃じゃからの。仕方がないと言えば、それまでじゃが、しっかりと言い聞かせておくべきじゃと思うぞ。」


「ん~……一応、何回かは言ってるんだけどな。まぁ……諦めずに言ってみるよ。」


「そうするといい。」


そんな感じの会話をしながら、ミーニャの家に向かう。


「それにしても、お主らのその姿を見ていると……なんだか仲の良い兄妹に思えてくるの。」


「そうか?」


「ああ。種族の違いがあるとはいえ、仲睦まじい兄と妹といった印象を受けるの。」


「ふ~ん。……じゃあ、エルラとサメロアもそう見えるか?」


アイナの言葉を聞いて、なんとなく二人に聞いてみた。


「兄妹かどうかは分からないけど、仲良さそうだなとは、思ったよ。」


「わたくしは、アイナみたいに兄妹の様だなと思いましたわ。……わたくしにとっても、妹みたいなものですわね~。」


「そうじゃな。キヨトの妹なら、我の娘みたいなものじゃ。」


「じゃあ、僕は……なんだろう?」


「なんでもいいじゃないですか?あなたは性別が無いらしいので、お姉ちゃんでも、お兄ちゃんでも。自分の思う様に言えばいいんですのよ、家族なんですから。」


「そう?……う~ん……じゃあ、僕は……」


「……。」


そんな事を話しながら歩いているうちに、ミーニャの家にたどり着いた。


家の前には、ラミネさんが立っていた。


ミーニャをおんぶしている俺に気づくと、こちらへと駆け寄って来た。


「キヨトくん、それにアイナさん達も。今日はミーニャと遊んで下さってありがとうございました~。」


「いえいえ。今日は別にやる事は、なかったんで、気にしないで下さい。」


「そうじゃの。……こんな可愛らしい子と、一緒に遊べたんじゃ。我としても、楽しかったぞ。」


「まぁ、それは良かったです~。……あんな事があった後ですから……しばらく外出させてあげてなかったんですけども……今日は久しぶりに外に出れて、楽しかったみたいね……。」


「そうですね、今日一日、いつもよりはしゃいでましたよ。」


俺の背中で気持ち良さそうに寝ているミーニャを見て、ラミネさんは嬉しそうにしている。


少しの間、そうしていたらラミネさんはこっちの方を見てきて……


「よければ皆さん、お夕飯をご一緒しませんか?」


…と言ってきた。


「えっと……」


「おお、良いのかの?なら、せっかくじゃし、頂いていこうかの。」


俺が返事をするよりも先にアイナが答えてしまった。


「そうですわね。せっかくですし、頂いていきましょう。」


「そうだね。」


「良かった。では、どうぞ中に。」


ラミネさんの案内で、家の中に入っていく。


そして、居間にまで通されて……座布団に座って待っていると……しばらくして、料理を持って、ラミネさんが出てきた。


そしてミーニャも起こす。

すると、目を擦りながら起きた。

……目の前のご飯を見た途端に、

目を見開いて……「あれ……もう、お夕飯の時間なの?」と言った。


「お前、寝てたろ。そりゃ、時間経つのも早いだろうな。」


「うん……寝てない……?寝てない……寝てない……寝たような気もするけど……寝てないの……。」


ミーニャは眠そうな声で、そんな事を言っている。


「……まぁ、いいけど。ほら、ラミネさんが作ってくれたんだから、早く食べようぜ。」


「はーい……。」

俺達は手を合わせて、「いただきます」と言うと、それぞれ箸を手に取った。


「それじゃあ、冷めないうちにどうぞ~。」


「はい、じゃあ早速……」


「……おおっ、なんじゃ、この茶!!うまいの!!」


「おわっ!?」


アイナが急に大声で叫んだのでびっくりした。


アイナの声に反応してか、ミーニャもビクッとしている……けど、すぐにホケ~っとし始めた。


「アイナ、声が大きいぞ……!」


「すまん、つい興奮してしまっての……!しかし、これは……本当に美味しいのう……こんなに美味しい茶は久しぶりに飲んだのじゃ……!」


「本当ですか?嬉しいです。お口に合って何よりですよ~。」


「これ、なんと言う茶なんじゃ?」


「私特性のハーブティーです~。色んな効能があるんですよ~。」


「ほぉ、お主特性のとな?」


アイナの言葉にニコニコしながら答えるラミネさん。


アイナはラミネさんの言葉を聞くと、ラミネさんに質問をし始めた。


アイナとラミネさんが会話をしているのを横目に見つつ……俺はエルラの方を向いてみた。


エルラは、唐揚げを箸でつまんで、口に運ぼうとしていた……けど、俺が見ている事に気づくと、首を傾げる。

……そして、少し考える素振りをして「ああ、唐揚げが欲しいんだね。はい、あーん。」……と言って、

俺の方に寄せてきた。


「いや、別にいらないんだけど……。」


「遠慮しなくてもいいんだよ。」


そう言って、また近づけてくるので……俺は、その唐揚げを口に入れる。


噛むと肉汁が溢れ出てきて、とてもジューシーだ。


味付けも濃いめの塩味で、食欲をそそる感じになっている。

俺も、思わず頬を緩ませてしまう。


「どう?」


「うん、美味い……。」


「そうなんだ。じゃあ、僕も一口……。」


そう言うと、もう一度箸で唐揚げを取り直し、エルラは自分の口に運ぶ。


「これは……うん、凄い美味しいね。」


「だろ?」


そんな会話をしながら、俺達も食事を続ける。


ちなみにミーニャはというと……まだ寝ぼけているのか、ボーっとしたまま、ただひたすらにご飯を食べていた。


「おーい、ミーニャ~?大丈夫か?起きてるか?」


「ふぇ?……うん、起きてりゅの……。」


「……まぁ、いいか。」


とりあえず、返事が出来るくらいには目覚めているみたいなので、そのままにしておいた。


「まぁまぁ、ほっぺたにご飯粒が付いてますのよ。」


「ふぇ?」


そう言いながら、俺の横にいたサメロアは、どうやらミーニャのほっぺについていたらしい米粒を指ですくってとってあげた。


「ありがと~……」


「いえいえ。」


そうして……皆で楽しく夕飯を食べたのだった。


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