第38話
エルラ達が帰ってきてから……色々あった。
サメロア達は、ガイゼスの部屋に忍び込んで、証拠になるような映像を撮ってきてくれたみたいだった。
……それを見せてもらおうとしたが、エルラが、頑なに見せてくれなかった。
何でも……刺激が強い内容なので見ない方が良いとのこと。
一体どんな映像なのか気になったが……見せられないなら、仕方がない。
とにかく、これであいつを追い詰める準備が整い……奴を訴訟する事になった。
……面倒事は多々あった。
そもそもとして、訴訟事態が無くなりそうになったが……そこは……まぁ、アイナが何とかしてくれた。うん。やり方がちょっと荒っぽかったけど。
そして……裁判を起こせて、映結晶の映像が決め手となって、奴を有罪にする事が出来てしまった。
ガイゼスがボロギド組との繋がりがあった事も発覚して……奴はその場で拘束される形になった。
……この後、発覚しただけでも60件以上の誘拐に関与していて、余罪含めて追及していくとの事だった……。
これで少しは、アイツに捕まって亡くなってしまった子の無念が少しは晴れたのだろうか。
……分からないが……こんな事は今後一切起こらないでほしい。
_______
自室にて。
アイナとサメロアにエルラの三人が、俺の部屋で休憩している。
「……う~……終わったのぉ。あやつ……最後まで足掻きおってからに。」
俺の隣に座っているアイナは、伸びながら、そんな事を呟いた。
「ああ……そうだな……。」
俺はそれに相槌を打つ。
今回、奴に有罪の判決を出させるために……アイナがかなり奔走してくれていた。
ガイゼスが、今回の訴訟を無かった事にする為に、賄賂を渡していた奴を突き止めて……圧力をかけてくれた。
そのおかげで、奴は有罪になり、その罪を償わせる事が出来た。
「お前のお陰で、全部色々丸く収まったよ。……ありがとな。」
「……礼には及ばぬよ。奴には、散々嫌な思いをさせられたからの。それを何倍にもして返してやっただけの事じゃ。……奴の事を敬遠して避けておったが……それが裏目に出てしまったのぉ……。もっと早く奴について調べておれば、少しは犠牲者を減らせていたかもしれんというのにな……。」
「……そうかもだけど……過ぎちまったことは、もうどうしようもない。……今は、犯罪の芽を摘むことが出来た。それを喜ぼうぜ。」
「そうかもしれぬが……のう?」
アイナは、浮かない顔をしている。
未然に防げたかもしれない犯罪を、阻止出来なかった。……そんな考えがあるんだろうな……。
「もう、そんな暗い顔しないで下さいな。せっかく事が収まったというのに、そんな顔していたらダメですのよ?もっとパーッと、明るい顔をしなきなゃですわ。」
サメロアが、アイナの肩にポンと手をおいて励ましていた。
「……むぅ~……。」
サメロアに諭されても、アイナは中々、気持ちを切り替えられない様子だった。
「もぉ~、仕方がないですわね~。わたくしが、アイナに浮かない顔が吹き飛ぶおまじないをして差し上げますわ。」
そうして、サメロアはアイナの顔を両手で包み込むように持ってから自分の方に向かせた。
「な、なんじゃ?何をする気じゃ?」
「それはもちろん、わたくしから、愛のキッスを。」
そうして、サメロアはアイナの唇に……自身の唇を重ね合わせようとする。
「ちょ!?やめんか!?」
「むちゅ~~。」
嫌がるアイナをよそに、そんな音をたてながら、アイナの唇めがけて吸い付く様にサメロアの唇が近付いていく……。
「むわぁーーーー!!!!!」
「ぐべぇ!?」
アイナのグーパンが、サメロアの顔面にクリーンヒットした。
そのままサメロアは倒れこんで、床をすり抜けていった。
そして、数秒経ったら床をすり抜けて戻ってきた。
「な、ななななななななにするんじゃいきなり!!」
アイナは、顔を真っ赤にしながら声を荒げている。
そんな彼女に対してサメロアは、笑顔で
「ほら、浮かない顔が吹き飛んだじゃないですか。」……と言う。
「も、もっと他に方法があるじゃろうが!!!よりにもよって、なんでキスなんじゃ!!!?」
「それはもちろん、わたくしがアイナを愛してるからですわ!!!!」
……と、自信満々に答える。
それを聞いて、アイナは更に、顔をさらに紅潮させる。
「あ、愛ぃっ……!!?い、意味がわからんぞ……!?」
アイナは、目をグルグルと回して、動揺しまくりだ。
「アイナ、愛が分からないの?……愛っていうのは、大切な人に向ける感情の事だよ。……好きだとか……恋だとか……?の感情とも一緒なんだとか。」
……と、エルラは、アイナに真顔でそう言う……。
「愛の意味は分かっておるわ!!わ、我が意味が分からないのが……サメロアの行動じゃっ!!……な、なぜ、我に……き、キスなどしようとするのじゃ!?」
「だって、好きな人に愛情表現するのは当然のことではありませんか。だから、アイナの事を好いているわたくしは、愛するアイナとキ……」
「ああああああああ!!!!いい!!それ以上聞きたくない!!」
耳を塞いでアイナは喚く。
……さっきより、更に顔が赤くなっている。
「……確かに、浮かない顔じゃなくなったけども……これは違うんじゃないかなぁ……。」
ちょっと、アイナの事からかい過ぎじゃないか……と思う。
「さっきの顔に比べたら、こっちの方が遥かに良いじゃないですか。」
「そりゃ……まぁ、そうだけど。」
「それに、赤面してるアイナも可愛らしくて素敵じゃありませんか?うふふ。」
「……。」
アイナの方を向く。
彼女は、まだ顔を赤くして、耳を塞ぎ、更に目を瞑りながら悶えている。
「……うん。……まぁ、可愛いと思う。」
「でしょでしょ?」
嬉しそうにしているサメロア。
俺はそれを見て苦笑いを浮かべた……。
_______
アイナが落ち着いてから……会話を再開して、しばらく経った。
話題が膨らんで来た所に、アイナは
何かを思い出したようで、話を切り替えてきた。
「そう言えば、まだお主に言ってなかったことがあったな。」
「え?なに?」
「ガイゼスが、いなくなったじゃろ?」
「ああ、うん、そだな。」
「という事はじゃ、我がこの街を離れる理由が失くなったワケじゃな。」
「うん。……うん?」
「そう言う訳じゃからな、この街に帰って来る事にしたぞ。住む所は、この寮じゃ。前に住んでいた所は、ちと古臭いからの。」
「……え?」
「部屋は、お主の部屋の向かい側の部屋の一つ右にになっとるからの。これで、毎日会えるな。」
「おお、マジか!!」
アイナがこの街に来てくれるって聞いて、俺は喜んだ。
これからの生活が、更に楽しくなりそうだなと思ったから。
「ああ、来てくれるのは、ありがたいんだけどさ……あの森の中の家は、どうすんの?」
「それなら問題はない。魔除けの結界魔法でモンスターがそもそも寄れんし、新たに張った防御結界がある。そう簡単には、出入りできんからな。防犯対策もバッチリじゃて。」
「へぇ~……。」
「あそこの静かな雰囲気も嫌いじゃないからの。あの場所が恋しくなったら、いつでも戻れるように防犯はしっかりしてるんじゃ。モンスターに思い入れのある家を壊されたら一溜りもないからの。」
「まぁ、そだな。」
アイナの言葉を聞いて、納得する。
……俺としても、あの家が無事なのは嬉しい事だ。
「……まぁ、改めてよろしく頼むぞ、キヨト。」
アイナはニッコリ笑って、手を差し出してきた。
俺はそれを、握り返す。
「おう……こちらこそ、宜しくな。」
こうして……この寮に新たな住人が、また増えたのだった。
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