第19話 話は戻りまして

「…騒がしいと思って来てみたら…なに、この状況…。」


…クライエットが丁度良く気絶している場面でメルマが部屋の中に入ってきた。


「よ、メルマ。」


「あら、こんにちは、メルマさん。」


「こんにちはじゃ、メルマ。」


「あ、うん、こんにちは。…これ、なにしてるの?なんで、サメロアちゃんは…クライエットのお腹から顔を出してるの?なんで、クライエットは気絶してるの?」


色々と混乱している様子のメルマ。

そりゃそうだろな。

いきなり、こんな状況に出くわしたら誰だって驚く。


とりあえず、メルマにどうしてこうなったかの経緯を説明した。


「へぇ……そんな事が…。」



メルマは何とも言えない表情をしている。


サメロアはクライエットの身体から出てきて、アイナの隣に座っている。


そして気絶したクライエットはとりあえず、ベッドに寝かせた。


メルマは俺の隣に座った。


「…てか、クライエットって、見えてたんだ。…中途半端だけど。」


「そうみたいだな。……まぁ、今はそれよりも…」


俺は、サメロアの方を見る。


「…はい。ちょっと調子に乗りました。怖いはずなのに、わたくしに接してくれるのが嬉しくてつい…。」


しゅんとしたサメロア。


「あー…まぁ、そう落ち込むなって。クライエットの奴もこんな事じゃ怒らんし、お前の事を嫌いになったりなんてしねーさ。」


「そうですかね…?」


「だから、元気出せって。な?」


「はい!」


サメロアはニコッと笑った。

やっぱり、コイツは笑ってる方が良い。


「…ところでさ…さっきから気になってたんだけど…そこのテーブルに置いてある食べかけのケーキは何?食べないの?」


「あー、これな。クライエットの奴が、皆で食べようと思って買ってきてくれたんだ。その食べかけの奴の横に紙箱が置いてあるだろ?その中にお前の分も入ってる。」


「ホント!?」


「ああ、ホントホント。」



その事を聞いて、急にテンションが上がったメルマ。

現金な奴め。


「…あーと、でも…食べるのはクライエットが起きてからかな。勝手に食べるのはちょっとね。」


「まぁ、そうだな…。」


「あ、キヨト達はささっと食べた方がいいよ。食べかけだし。」


「ん、そうだな。」


とりあえず、クライエットが起きるまでの間、食べかけのケーキを食って雑談をした。


__________


「…う、う~ん…?」


「ん?…ああ、起きたか。」


しばらくしたら、クライエットが目を覚ました。


クライエットは、少しボーッとした状態で周りを見渡す。

そして、自分が今どこにいるのかを理解したようだ。


「よ、おはよう。」


「あ、うん…おはよう。…えと、あたし…なんでベッドで寝てるの?…てか、いつの間にかメルマがいる…。」


「覚えてねーか?…お前、サメロアの奴に何回も体すり抜けられて…気絶したんだよ。」


「あーと…?」


そう言うとクライエットは何かを思い出したような顔をする。

そして、ゆっくりとサメロアの方に視線を向けた。

すると、サメロアは…何とも言えない表情をしている。


「ひゃっ…な、なんか怒ってない?…サメロアちゃん…。」


「んーとな…怒ってるんじゃなくて、気にしてるだけだぞ。お前の事を怖がらせてよ、気絶させちまったからさ。」


「そうなの……?」


「おう。」


クライエットは再びサメロアの方を見て、

「あーと…別に気にしてないから大丈夫だよ。」

…と言った。


「ほらな?」


サメロアの顔がパァッと明るくなる。


「ねぇ…やっぱりサメロアちゃん…怒ってるんじゃないの?なんだか、黒いモヤの下で凄い不敵な笑みを浮かべてる気がするんだけど…。」


「いや、ただ笑顔を浮かべてるだけだぞ。」


「そ、そう。なら、良かった。」



クライエットは安心したようにため息をついた。


「…ねぇ、クライエット?」


「…ん?…なに、メルマ?」


「…そこにあるケーキ…食べてもいいかな?」


「あ、うん。いいよ。」


「よし。」


メルマは箱の中からケーキを取り出して…パクッと一口で食べた。


「ふぅ、おいしい。」


幸せそうに…嬉しそうにしている。


「それなりにサイズがあるのに一口でいきおった…」


「あ、圧巻の食べっぷりですわ…。」


「いつも通りだなぁ…。」


…この後、クライエットも加わって雑談する事にした。


________


しばらく話していたら…クライエットが、

「…そういえばさ、遺跡の話って結局どうなったの?」

…と聞いてきた。


「多分ムリだ。俺じゃ、まだ実績不足だとさ。」


「…あー…まぁ、そうなっちゃうよね…。」


「ドンマイ…。」


「あーあ…行けたらいいのになぁ…。」


…そんな事をぼやく俺。

すると、アイナが俺の方を向いてきて

「…そんなに行きたいかの?」

…と聞いてきた。


「そりゃ行きたいけどさ……。でも、無理なんだもん。」


「…そうか…。仕方がないのぉ…。…しばし待っておれよ。」


「え?どしたのアイナ?」


「ちょっとな。」

そう言って、アイナは俺の部屋から出ていった。



そして、一時間もしない内にアイナが戻ってきた。


「待たせたのう」


「どこ行ってたんだ?」


「グラゴルの所にじゃ。」


「え?どして?」


「キヨトの願いを叶えてやる為じゃよ。」


「……おぉ?」


アイナのその言葉に……俺は呆けた声を出した。


「なに…お主も遺跡に行けるように、計らっただけの事よ。」


「え?…は?……どゆこと!??」


突然の出来事で、思考が追い付かない。

メルマやクライエットも目を見開いてどういう事?と言わんばかりにアイナの事を見ている。


「まぁ、詳しく言うとの…最初の遺跡の探索から我…毎回推薦されとったんじゃな。」


「え?最初の遺跡発見の時から?」


「ああ。じゃが、そんなものに興味はないしの。いつも断っておったんじゃ。それに、SSランクの依頼を成功させる程の者が6人も推薦されるからの。我がいなくてもどうにでもなる。」


「な、なるほど?」


「で、先程グラゴルの所に行って確認してきた所、やはり今回も我に直接お呼ばれがかかっておった。面倒臭いから、此度のも断ろうと思っておったが、どうしてもお主が行きたいと言うからの。…キヨトが同伴…という要望を飲めば行ってやる…という事にしたのじゃ。」


「そんな無茶…通せんのかよ…。」


「まぁ、通せるからこうなっておろう。」


「…やっぱり私とはやれる事の次元が違うなぁ…。」


「…スゴ…。」


メルマ、クライエットは尊敬の目でアイナを見ていた。


「……なんじゃ…そんな目で見て………照れるからやめい…。」


少し顔を赤くしながら、顔をそらすアイナ。

…反応の仕方がいちいち可愛い。


「……で、あーと…本当に俺が行っても大丈夫…なのか?」


「…ん、ああ、勿論じゃ。グラゴルも了承してくれたぞ。」


「…そっか。なら、行かせてもらうよ。…わざわざ俺の我儘の為に動いてくれありがとう。」


「なに、礼には及ばん。なんせ、一度目をかけたからには、最後まで面倒見てやるつもりの心意気じゃったしの。そんな事、今更じゃ。」


「…え?最後までって…?」


「ぬ?無論、お主が寿命で亡くなるまでじゃが?」


「えぇ!?……マジで言ってるのそれ?!?」


「本気じゃよ。嘘はつかぬ。お主が家を出て行こうとしなければ、ずーっと面倒見てやるつもりじゃった。」


…そんな事を恥ずかしげもなく真顔で言うアイナ。



「本当にお人好しですわね…貴女は。」


「…ああ。なんと言うか…損する生き方じゃねーか?」


「ぬ?そうかの?我は全くそうは思わぬが。」


「…ふふ。まぁ、それが貴女らしいんですけどね。」



サメロアは、アイナに向かって微笑んでいた。


「…羨ましいな。凄い人にそこまで気にかけてもらえてるなんて…。」


「確かにね。」


メルマとクライエットは俺の事を

チラリと見てくる。


「…恵まれてんだな…俺。」


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