第18話
しばらく雑談した後、二人を連れて俺の部屋に移動した。
ソファーに座って雑談中。
「……んー…今回は諦めるしかねーのかな…。」
「ちょっと行ってみたいですわよねー。どんな風になってるか気になりますの。」
「そんなに行きたいのかの?……だったら、過去に見つかった所にでも行け……と言いたいところじゃが、一般人が入れる場所じゃないしの。」
「……う~ん…。」
腕を組んで考えようとした。
……と同時に入り口の扉が勢いよくゴンッ!と開いてクライエットが侵入してきた。何やら、袋を持っている。
「やっほー!また来たよ……って、あれ?」
入ってきた途端、部屋の中にいた俺達を見てキョトンとした表情を浮かべた。
「……誰?」
「そっちこそ誰じゃ?キヨトの知り合いかの?」
「えと、知り合いっていうか、友達だけど……ちょっと待って。和服を着てて…狐の尻尾が9本……って事は!??」
そこまで言ったところで、クライエットは驚いた表情をしながら一歩後退った。
「あ、アイナ…リヴァリスココン…さん?」
「そうじゃが?」
「わー!!わーー!!」
クライエットはよく分からない声を上げながら、その場でぴょんぴょこ跳びはね始めた。
「お、おい、どうした?」
「どうしたもこうもないよ!!なんでこんな所に、最強の魔法使いがいるの!?今はこの街から離れてるって、お父さんから聞いてたのにさ!!」
……と、興奮気味に言うクライエット…。
「最強かどうかは知らんが、確かに離れてはいるの。」
「じゃあ、なんでこんな所にいるんですか!?キヨトと、どういう関係なんですか!??」
「むー……どういう関係?……子と親みたいなものかの?じゃから、今日は様子を見に来ておるというだけじゃが。」
「子と親!?」
クライエットは再び叫んだ後、今度は俺の方を向いてきた
「ねぇ、何で今までアイナさんと関わりがあるって教えてくれなかったの!?」
「いや、別に言う必要も無かったし、アイナ関連の話題……今まで無かったし。」
……それにしても、子と親か。
つまり俺は、アイナから子供だと思われてるという事。
……まぁ、出来る人から見れば俺は子供か。
そんな事を思っていると、
「もうー!来てみたら凄い人がいるんだもん!驚いたじゃんかー!!」
……とまたぴょんぴょん跳ねている。
「元気な方ですわね。この方は…わたくしの事は見えないのでしょうか?」
「さぁ?今の所……見えてる様には見えんけど…。」
「そうですよね……。」
サメロアは、少し残念そうに言ってきた。
……まぁ、メルマが見えたから、もしかして…と思ったのだろう。
「それで?一体、何用でここに来ておるんじゃ?」
「あっ、そうだ。すっかり忘れてた。」
そう言いながら、クライエットは手に持っていた袋を近くの机の上に置いた。
そして、紙箱を取り出して…更にその中からいちごのショートケーキを2つ取り出した。
「なんだか甘いものが食べたくてなって、これを買いに行ってたんだ。せっかくだから、キヨト、メルマの二人と一緒に食べようと思って、人数分買ってきたんだったよ。」
「おお~、うまそうだなぁ。」
「ほぉ…中々美味しそうではないか…。」
アイナは目を輝かせている。
その様子に気付いたクライエットは「食べますか?」と聞いた。
「食べてよいのか?人数分しかないんじゃろ?」
「ああ、それなら…」
クライエットはそう言いつつ、箱の中から一つケーキを取り出した。
「後で一人で食べようと思って買った分がありますから。どうぞ。」
「そうかの?……なら、遠慮なく…。」
アイナはケーキをテーブルに置き、内包されていたフォークを一つ取り、食べ始めた。
俺もそれに続いて、それぞれ目の前に置かれたケーキを食べ始める。
クライエットも俺の隣に座って、ケーキを食べ始めた。
やっぱりこういう甘味はうまいな……。
「そういえば……そち、名は、何と言うんじゃ?」
「クライエットです!」
「ふむ………む?クライエットとな?」
「はい!アイナさん!よろしくお願いします!!」
「クライエット……クライエット……どこかで聞き覚えのあるような……?」
アイナは首を傾げて、顎に手を当てた。
「ああ、思い出した。グラゴルの娘の名じゃ。」
「あ、はい。そうです。」
「ほぉ。やはりそうであったか。……あやつの娘じゃからとゴツい
「え、び、美人だなんてそんな~。」
……クライエットは照れ臭そうにしている。
「むー、それにしても…このケーキ、うまいのぅ……。」
アイナの口の周りを見てみると……クリームが少しついている。
「……アイナ、口もとにクリームがついてますの。」
サメロアがこそっとアイナの耳元で囁くように言った。
それに反応したアイナは手を伸ばして、指で取ろうとした。……が、なかなか上手くいかないようだ。
「んー……?」
「ここですよ。」
サメロアは、自分の口をとんとんと叩いて見せた。
すると、アイナは納得したようで、 ぺろりと舌を出して舐めとった。
「これで大丈夫じゃ。」
「もう。気をつけてくださいまし。」
サメロアは、苦笑いしながらそうか言っていた。
「ハハ……。」
そんなやり取りを見て俺は笑っていた。
そして、隣のクライエットは笑いながら……何処か怯えていた。
「……おい、どしたん?」
「ひぇぅ!?……い、いや、何でもないよ。」
クライエットは、慌てて手を振って否定した。
「……本当に、大丈夫か?」
「だ、だいじょぶだって!何もいないよ!うん!いない!!」
「いない?……何が?」
「えっ…と……」
クライエットは、黙り込んでしまった。
そしてチラッとサメロアの事を見た……気がした。
その視線に気が付いたのか、サメロアはクライエットの事をジーッと見つめている。
すると、クライエットの顔がどんどん青ざめていく。
「……お、おい…お前…ホントに大丈夫か?」
「へ、平気だよ……うん……」
クライエットは青い顔のまま、そう答えた。
「……見えてますわ、この人。」
「へ?見えてる?」
「なぬ?見えてるとな?」
俺とアイナは同時に声を上げた。
「なんだ、お前、サメロアの事見えてたのか?」
「さ、サメロア?……って、見えてるって事は、二人にも見えてるの?この……お化けが。」
「おう、見えるぜ。」
「もちろん見えておるぞ。」
「じゃ、じゃあ……何でそんな平気そうにしてられるの……?こんなおぞましいのが目の前にいるのに。」
「おぞましい?……こんな10歳前後ぐらいの見た目のやつが?」
「え?」
「え?」
互いの顔をまじまじと見る。
クライエットは目を丸くする。
お互い、その表現がおかしいとでも言うように。
「この方、見えてはいても……中途半端に見えてるんですの。…そういう人には、恐ろしい姿に見えてしまっているのですわ。」
サメロアは、ため息をつきつつ、そう言った。
「そういえば……そんな事言ってたな。」
「そうですの……。だから、この方が見たおぞましく怖いモノというのは、半分正解で半分間違いなのです。」
サメロアが、クライエットの方を向く。
クライエットは、ビクッとする。
「そう怖がらないで下さいまし。別に取って食ったりはしませんから。……そんな顔されると傷付いてしまいますの。」
そう言いながらサメロアは、優しい笑顔をクライエットに向けた。
「ひえっ!!な、なんか凄い低い声でオーオー言ってるんだけど!?」
「声まで聞こえ方が違うのか……。」
「な、なんて言ってるのか分かるの!?なら、翻訳!!」
「あー……はいはい。」
とりあえずサメロアについて軽く説明した。
すると、クライエットは怯えた様子から一変……安心したような表情を見せた。
「そっか、あたし……中途半端にしか見えてなかったんだ。」
「そうなるな。」
「……でも、このおぞましいのが、白いワンピース着た女の子……なんだよね?」
クライエットは、サメロアの方を見る。
サメロアは、自分の格好を見下ろしてから、首を傾げた。
そして、両手でスカートの端を持ち上げると、くるりと回って見せた。
その姿は、まさに純白のドレスを着たお姫様といった感じだ。
「……あたしには、黒いモヤのかかったおぞましい何かが一回転した様にしか見えなかったけど……本当なら、女の子がくるっと回ってるんだよね?」
「そうだな。」
「ふむぅ。見えとるが……中途半端か。ちゃんと見えれば苦労ないのにのぉ。」
「まぁ、仕方ないんじゃないか?……俺達とは見えてるものが違う訳だし。」
「出来ればあたしもサメロアちゃんの姿見てみたいな。だって、話聞く限り可愛い姿してるでしょ?」
「可愛い……まぁ、可愛いな。」
確かに見た目は文句無しに可愛い。
幽霊ってのが信じられなくなるくらい。
浮いてたり、壁とかをすり抜けたりさえしなければ、普通の女の子となんら変わりはない。
「やっぱり、そうなんだね。て余計に見たくなってきちゃった。」
「ふむ……だったら、触れ合ってみたらどうじゃ?もしかしたら、化学反応的な何かが働いて、ちゃんと見えるようになるかもしれん。」
「え?……幽霊って、触れるもの……なんですか?」
「ああ。こやつ、実体化とか言う妙な事が出来たりするからのう。それを使えば、物体をすり抜けたりせずに触れるんじゃな。」
「へぇ~!そんな事が出来るんですねぇ!」
「うむ。……というわけで、やってみると良いぞ。」
「……分かりました。……あの……触ってみてもいいかな?」
クライエットが、恐る恐るサメロアに聞いた。
「いいですわよ。」
サメロアはニッコニコの笑顔でそう言った。
「ものすんげ~ニッコニコしながらいいって言ってるぞ。」
「そうなんだ。じゃ、じゃあ…。」
クライエットは、ゆっくりと手を伸ばす。
サメロアは、その手を掴んで握手をした。
そのまま、2人は手を繋いだまま見つめ合う。
「どうじゃ?何か変化はあったかの?」
「いえ……特に何も……。」
「そうか。」
「むー……だったら、もっと別の形で触れ合ってみましょうか。」
そう言ったと思ったら、サメロアはクライエットの身体を何回もすり抜け、最終的にお腹から顔を出した。
「……あら?クライエットさん?」
そして、既に彼女は意識を失っていた。
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