第20話
あれから一週間…俺は遂に遺跡に行く事になった。
その日は、朝早くからギルドに行き準備をしてそれから出発となった。
フーゼロッタの街のギルドから遺跡探索に行くのは、アイナと付き添わせてもらった俺だけ。
そして現在、馬車に乗っているのだが……。
「緊張しとるようじゃの。」
「当たり前だろ…何があるかも分からない未知の場所なんだぜ?…まぁ、それ以上にドキドキやワクワクも止まらんが。」
「わたくしも初めての体験に心が踊ってますの。」
「ハハハ、喜んでもらえているようで何よりじゃ。面倒事を引き受けた甲斐があったというものよ。」
そう言うと、アイナは俺達に向かってニコッと優しい笑顔を向けた。
「…相変わらず女神みたいな笑顔ですわね。見惚れてしまいますわ…。」
「なんじゃいきなり…。」
「ただ思ったことを言っただけですので、気にしないでくださいまし。」
「ん?うむ……気にするなというなら、そうするが…。」
アイナはその言葉に首を傾げた後、再び前を向いた。
そして馬車を引いている馬をジーッと見つめこんな事を呟いた。
「魔操術を発動して走った方が早く着くの。」
「…確かにそうだけどよ、わざわざ馬車を寄越してくれたんだし…ゆったり行こうぜ。」
「そうそう、ゆったりですわ。急いだって良いことは特にありませんもの。」
「それもそうかのう。」
そんな会話を目的地に到着するまで続けた。
………………
それからかなりの時間が経って、ようやく目的の遺跡に到着したようだ。…辺りはもう暗い。
馬達が足を止めて止まったことから察した。
…周りには、沢山のテントが張ってあり、そこかしこに人がいる。
遺跡の入り口付近には、簡易的な柵が設けられていて、地下へと続く道を重装備の兵が守っていた。
入り口付近にいる兵達は皆、武装していて屈強そうな男達…。
「随分と大掛かりだなぁ…。」
「当たり前じゃな。何があるか分からんからのぅ。準備はどれだけでも念入りにした方が良いに決まっておろう。」
「ふーむ…。」
「この探索での意気込みが感じられますわね。」
…そんな会話をアイナ達としていると、近くに張ってあるテントから少し老いた男性が出てきて、こちらへ歩いてきた。
そして、俺たちの前で立ち止まると一礼してから話し始めた。
「ようこそおいで下さいました、アイナ・リヴァリスココン殿。そして、弟子のキヨト殿。私は、探索のリーダーを務めさせていただくバルバと言います。遺跡探索には何度か赴いた事があります。以後お見知りおきを。」
「ああ、よろしく頼むの。」
「宜しくお願いします。」
お互いに挨拶を交わすとリーダーであるバルバさんは、俺の方を見て話しかけてきた。
「…今回は特例で貴方の同行を認めていますが、くれぐれも邪魔にならないように気をつけて行動するようにお願い致します。実力はあると伺っていますが…何分、まだそこまでの実績がないようで…。」
「はい、分かっています。」
「…ならば結構です。…では、あちらのテントに。今回の遺跡探索についての詳細についてお話ししますので。他の推薦された方々は、既に集まられていますから。」
「はい。」
「分かったのじゃ。」
俺はアイナと一緒にそのテントへと向かった。
中に入るとそこには、4人の精鋭がいた。
1人は黒髪の青年。
真面目そうな顔をしていて、腰には剣を携えており、その佇まいからかなりの実力者だと分かる。
そして、二人目は頭に兎の耳が生えている金髪の女性。
特に防具らしいものは身に付けておらず、動きやすそうな服装をしている。
手甲と脚絆を付けているところを見ると……拳闘士だろうか?
三人目は、銀髪で頭に黒いねじれた角が2本生えている綺麗な女性だった。
ローブを羽織っていて、杖をついている。
そして、羽織っているローブの尻の辺りから、悪魔の尻尾の様なものが生えている。
最後は、白銀の長髪を後ろで結んでいる少年。
見た目は幼いのに、その瞳からは強い意志を感じる。
…普段ギルドにいる人達からは感じられない、威圧感。
そういうものをこの人達から感じる。
「……どうやら、全員揃ったみたいですね。」
黒髪の青年が全員を見渡した後、そう言った。
「ええ、これで全員揃いました。…では、早速説明を…とも思いましたが、まずは自己紹介でもして頂こうか。これから、遺跡探索を行う仲間となるのですし……。」
「…それもそうですね。」
黒髪の青年は納得すると、自分の名前を名乗った。
「僕はアデルバートといいます。…昔、王都にて国王直属の騎士団に所属していました。色々あって…今
はギルドで活動させてもらっています。……まぁ、僕のことはこれぐらいにしておいて…他の皆さんも…」
黒髪の……アデルバートと名乗った彼はそう言うと視線を残り3人に向ける。
その視線を受けて、兎の耳をした女性が一歩前に出て名乗った。
「私の名前はライリーです。体を動かすのが好きで…ギルドに入りました。武器は脚力を生かした蹴り技が得意です。…今回の探索では、皆さんの役に立てるよう頑張りたいと思っています。」
そう言ってペコリと丁寧にお辞儀する。
そして、それに続くように今度は頭に黒いねじり角が二本生えた少女が進み出て、名乗った。
「…クロエと申します。種族は魔人族で…こんな見た目ですが一応120年は生きてます。得意な魔法は雷系と氷系です。」
クロエと名乗った彼女は、無表情のままそれだけを告げるとスッと一歩下がる。
…それに続き白髪の少年が口を開く。
「……自分は、シルマって言います。得意な事は…相手の急所をつくこと…ですかね。……よろしくお願いします。」
そう告げると軽く会釈した。
そして、まだ自己紹介をしてないのはアイナと俺だけになった。
そして、アイナはゆっくりと進み出る。
視線が自然とそこへ集まる。
「我の名はアイナ。…好きなものはリラ草の茶葉で作ったリラ茶じゃ。嫌いなものは特に無いのう。今回の遺跡探索、任されたからには皆の力になれる様に尽力するつもりじゃ。…よろしく頼むの。」
アイナの自己紹介が終わると、今度は皆さん俺の方へと視線を向けてくる。
先程から感じている威圧感が全て自分にのし掛かってくるような感覚に襲われて、全身がビクビクしてしまう…。
そんな様子を見かねたのか、アイナの隣で浮いていたサメロアが、俺の耳元で
「…キヨト、落ち着いて下さいまし。そんな調子では自己紹介も出来ませんの。ほら、一回息を吸って吐いて下さいまし。」
…と呟いた。
…言われた通りに一回息を吸って吐いた。
……うん。少しは気が紛れた。
「…え~と…俺の名前は清人って言います。今回、特例として遺跡探索に参加させてもらう事になりました。なので、皆さんのように大した実績とかはないんです。ですが、出来る限り足を引っ張らない様に努めて行きたいと考えてます!よろしくおねがいします!」
…俺がそう言い終わると…視線が四散した。
「…これで全員、自己紹介が終わりましたな。では、早速詳しい事を話していきます。」
それから、バルバさんから今回の目的である遺跡についての説明を受けた。
その説明は至極簡単なものだった。
まぁ、ざっくり言ってしまえば調査隊のメンバーを護衛しながら、遺跡探索を行うというものだ。
バルバさん含む、選ばれた調査隊数人とギルドから推薦された五人プラス俺が主のメンバー。
そして、俺以外のメンバーは全員が実力者。
…まぁ、俺は俺でやれることだけやりゃあ良いだろう。
…アイナだっているんだし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます