第21話 わくわくする夜

今日はもう暗くなり、夜中になってしまった為…探索は明日…という事になった。


各々の用意されたテントで休憩という形になった。


…が、俺は遺跡に行きたくて落ち着かないので、とりあえず外に出て一人で散歩をしていた。


「っかぁ~…! 早く入ってみてぇなぁ…遺跡…。」


そんな独り言を言いながら、空を見上げると雲一つない夜空が広がっていた。


そしてキラキラと輝く星々。

その光景についつい見惚れてしまう。


「キレイだなぁ…。」


「ええ、綺麗ですね。」


「……ん?」


横を向いてみる。

そこには…クロエさんがいた。


それも無表情で。


い、いつの間に…

全く気付かなかったぞ……?



「えと…ど、どうも。」


俺がそう言うと彼女はコクリと小さく首を縦に振った。


「…な、何かご用でしょうか?」


「ええ。」


彼女は表情を変えずに答える。


「少し、話をしてみたくてですね。」


「は、はなしですか?」


「はい。貴方が、アイナさんのお弟子だと言うことらしいので。」


思わず、目を逸らしてしまいそうになる程の視線だった。


「…貴方は、何処までの魔法が使えるのですか?魔操術は使えるのでしょうか?」


「え?…えと、とりあえずアイナが知ってる全ての魔法は使えますよ。…魔操術も、一時間程度なら維持出来ますよ。…まぁ、アイナと比べるとまだまだ中途半端なんですけどね。」


「…なるほど…。因みに…それら全てをどれぐらいで使える様になりましたか?」


「えっと……多分3ヶ月ですかね?それ位で、一応扱えるようになりました。」


「…そうですか。……やはり、師が師なら弟子も弟子ですね。」


「えと…どういう意味ですか?」


「お二方とも化け物じみている…とだけ言っておきましょうか。…そもそもとして、全属性の超級魔法まで扱えると言われる彼女のそれを3ヶ月で習得するって…。……何ですかそれは、私の今までの努力を舐めてるんですか?私なんて、氷属性の超級魔法を使える様になるのに一年かかったのに……。」


そんな事をクロエさんは無表情で淡々と俺に呟いた。


彼女は俺の顔を見る。

感情を読み取る事が出来ない瞳。

ただただ、真っ直ぐに見つめてくる。


「いや……そんな事言われてもですね……」


俺は少し困り顔で言う。


……クロエさんの視線が怖いのだ。

別に睨まれてる訳じゃないんだけどなぁ……。

何考えてるか分からないし、目力が凄いし。


「…まぁ、いいです。妬んだ所で何も変わりませんし。…アイナさんが弟子に取るという事はそれ相応の何かがあるという事でしょうし。」


「…。」


「…とりあえず…聞きたい事は聞けたのでもういいですよ。」


「は、はぁ…。」


「…にしても、それだけ出来て…弟子か…。…なら、あの人が負けるハズだ…。」


「え?」


「…ああ、ただの独り言です。気にしないで下さい。それでは、私はこれで失礼いたします。」


彼女はそう言うと、俺の横を通り過ぎて行った。


「……なんかよくわかんねぇ人だったなぁ……。」


俺はクロエさんが去って行く後ろ姿を見ながら呟く。


無表情だし感情読めないし。

一体何を考えているのか全く分からなかった。


「…まぁ、いいや。」


…そう言って俺は散歩を再開した。


すると、目の前に誰かがいる事に気付く。


「…アデルバードさん?」


俺が近づくと、彼はこちらに振り向く。


「おや?…君は確か…」


「キヨトです。」


俺がそう名乗ると彼は微笑む。


「そうそう。アイナさんの弟子だったよね。」


「あー…まぁ、はい。」


「何してるんだい?」


「ああと…散歩です。」


「そうかい。」


彼は爽やかな笑顔を浮かべながら言った。


こうして近くで見てみると、随分といけてる顔立ちしてるなぁ…と思った。


「……そうだなぁ…せっかく会ったんだし、散歩の途中で悪いんだけど…お話でもしないかい?君の事、少し気になってたんだ。」



と、アデルバートさんは言う。

特に断る理由もないから、俺は首を縦に振る。


「ありがとう。」


彼は嬉しそうな顔をした。


「じゃあ…そうだなぁ…君は、どうしてアイナさんの弟子になったんだい?」


「ん…弟子ですか。魔法を教えてもらった事は確かですけど…弟子と言われてもあまりピンときませんね。」


「どういう事だい?」


俺はそう言って不思議がるアデルバートさんの疑問に応える様に言葉を続ける。


「アイナは俺にとって恩人で……姉みたいな存在なんですよ。なんたって、一文無しで彷徨ってた俺を拾って面倒を見てくれたんですから。」


「へぇ…そうなんだ。……って、一文無しで彷徨ってた!?どうしてそんな事になってたんだい!?」


「あ、あーと…そこには触れないで頂けると…」


俺が目を逸らしながら言うと、アデルバードさんは何やら察してくれた様だ。


…まぁ、遠慮される程に大変な思いはしてないけど。


「と、とにかく……俺とアイナは師弟なんて大した関係じゃないですよ。」


「……なるほど。…うん分かったよ。」


アデルバートさんは納得がいった様な表情をする。


「…俺からも一ついいっすか?」


「いいよ。なんだい?」


「自己紹介の時に…王都の騎士団にいたとか言ってましたよね?…なんで、そんな凄そうな場所をやめちゃったんですか?」


俺はふとした疑問を彼にぶつける。

すると彼は少し困った表情をした。


「あぁ…それか……。まぁ、大した理由ではないんだけどね…。」


アデルバートさんは苦笑いをしながら答える。


「まぁ、簡単に言えば……ちょっと上の人と揉めちゃってね…。」


「揉めた…?」


俺は首を傾げる。

すると、アデルバートさんは小さく息をつく。


「ああ。まぁ、色々あったんだよ。」


彼はそう言って、話を濁す。

俺はそれを見てこれ以上聞くべきではないと思い、口を閉じた。


「…ああと、僕はもう行くね。君も、明日に備えて早く寝た方が良いよ。付き合ってくれてありがとね。じゃ。」


アデルバートさんはそう言うと、俺に背を向ける。

そして、そのまま歩いて行った。


……さて、俺の方はどうしようかな?


…とりあえず、もう少しだけこの辺りをぶらついてみる事にして、うろちょろした。


で、歩き続けて三十分ぐらい経った。


で、まだ散歩でもしよっかな~…なんて考えていたら…


「あ、いましたわ。…もう、探しましたのよ…。」


「おん?」


…後ろを振り向くと…サメロアがプカプカ浮いていた。


「なぁんだ。お前か。」


「なぁんだとはなんですか!こっちは貴方の事探し回ってたんですのよ!!」


彼女はプンスカと怒りながら言う。


「探し回ってたの?……なんで?ちゃんと散歩してくるって言って出てきたよな…?」



「そうですけど、もう二時間以上経ってますのよ!こんな夜中に、しかも遺跡の近くだから何かあったんじゃないかと心配しましたの!!」


そう言って頬を膨らませる。

俺は頭を掻きながら…

「いやまぁ……ごめんなさい。」

と平謝りした。


「全く……気を付けてくださいまし…。」


サメロアは呆れた様子で言う。


「はい、すみません。」


俺が素直に頭を下げると、彼女はため息をついた。


「はぁ……まぁ良いですわ。それよりも、アイナもテントで心配して待ってますの。早く戻りましょう。」


「おう…分かった。」


俺はそう返事をして彼女の後に付いていく。


……で、暫く歩くとアイナの居るテントが見えてきた。


中に入る。

…アイナは、椅子に座って茶を飲んでいた。

そして、こちらに気づいた。


「やっと帰ってきおったか…。遅いぞ。」


「あーっと…すまん。気が付いたら

結構時間が経っていたみたいだ。」


俺がそう言って軽く謝罪すると、彼女はジト目で見つめてくる。

そして、はぁ……と小さく溜め息をつく。


そんな様子を見て、俺は苦笑いをした。


「呑気に笑いおってからに…。まぁ、良い。もうそろそろ夜も更けてくる。眠くなくても、寝る準備をするんじゃ。明日に備えての。」


「はーい。」


…アイナに言われた通りに就寝の準備を進め、俺は横になった。


すぐには眠くならかったが…段々とまぶたが落ちてきて眠りについた……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る