第10話 俺、お家を出てギルドに入る

つい先日初めて、この森から出て街に行き、様々な所を観光した。


それ以外にも…ギルドのお偉いさんに勧誘されたり、モンスターを倒したりと…色々あった。


この世界に来てからというもの、本当に退屈はしない。


…そんな振り返りを、ソファーに寝っ転がりながらする。


「お主は、相変わらずボケッとしとるの。」


「んぉ…?」


ソファに寝っ転がっていると…アイナが俺の顔を覗き込んできた。


「ま、別にいいんじゃがの。やる事はちゃんとやってくれとるしな。」


「…そりゃあ、俺はこの家の居候ですから。多少の家事くらいはするさ。…料理は作れねぇけど…。」


「この前お主に料理を作ってもらった時は、酷かったからのぉ。」


「ハハハ…。」


「レシピ通りに作っとるハズなのに、なんであんなに不味いものが出来上がるのか。これが不思議でしょうがないのじゃ。」


何故か、俺が料理するといっつもこうなる。見た目は良いんだけど味がとんでもなく酷い。


飯を作るのは楽しいから、是非ともやりたいんだけど、そのせいで俺が台所に立つと全力で家族に止められていた。


「…また、作ってやろうか?もしかしたら、次は美味しく作れるかもしれんぞ。」


「いや、遠慮しとくのじゃ。飯は我が作るからの。…お主は今まで通り、掃除をやっとればよい。」


「……そうか。」


…こっちの世界でも、どうやら俺は台所に立たせてもらえないらしい。

まぁ、仕方がない。

見た目が良いだけの料理を量産する奴に、炊事なんて任せられるかって話だ。


「…ところで、サメロアは何処におる?さっきから見かけんのじゃが。」


「アイツ?…それなら…」


俺は、テーブルの下を指を指す。

アイナは、そこをしゃがんで覗いた。


「…お主は、そこで何しとるんじゃ?」


「日陰ごっこですの。最近、日差しが強くなってきたので、こうして光が当たらない所にいるんですわ。紫外線はカットですの。」


「変な事するのぉ。当たっても、別にお主には何の影響もなかろう?」


「そうですけど…わたくし、眩しいのが嫌いなので。少し、曇っている位が好きですの。」


「そう言えば、そうじゃったな。」


今日も相変わらず、平和な一日だ。


掃除が、終わったら後はダラダラして、アイナやサメロアと、どうでもいいような会話で盛り上がる。


そうして…また1日が過ぎていく。

このサイクルの繰り返し。


…これ、やってる事がニートみたいだよな…。


一応、アイナに任された事は、やってるとはいえ、飯を食わしてもらって…部屋まで貸して貰ってる。

俺は、彼女に完全に養ってもらっている状態。


生きていくだけなのなら、このままでもいいかもしれない。


けど、誰かに頼ったままなのは気が引ける。


今まで、働き口はどうしようかと思っていたけど…つい先日、ギルドに入らないかと街で勧誘を受けた。


一応、俺でもSランクのモンスターを倒せることは、実証済み。

依頼を受けて、金を稼ぐ事ぐらいなら出来るハズだ。


…だから、俺は、そろそろこの家を出ていっても良いんじゃないかな…と思い始めていた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


2日後。



俺は…フーゼロッタのギルドへと赴いていた。

目的は、ここに所属すること。


そう。俺は、アイナの家を出てきていた。

二人にも、納得してもらっている。


…いつまでも、彼女の世話になっているだけではいけない。


少し名残惜しいが、ちゃんと自分で食っていかないと。


まぁ、 会おうと思えばいつでも会えるし、アイナ達も、この街には来るので寂しいとは思わない。


「…さてと…入りますかな…。」


扉を開け、朝っぱらから騒々しいギルドの中へと突入した。


とりあえず、受付の窓口へと向かった。


「すいませ~ん…。」


俺が、そう声をかけると…中で書類作業をしていた金髪でウェーブロングヘアーの受付嬢の人が、作業を中断して、ささっとこちらに来てくれた。


「おや、貴方は確か…アイナさんとご一緒に居た。何かご用でしょうか?」


「あ、はい。えっと…ギルドに入りたいんですけど…。」


「まぁ、それは本当ですか!?さぞかしグラゴルさんもお喜びになりますね!」


そこから、説明を聞き、色々な手続きをしてギルドへの登録を済ませた。


「登録完了です。では、これをお持ち下さい。ギルドに所属している証明になりますので、失くさない様に、お気を付け下さいませ。」


手渡されたのは、俺の名前と剣と盾の紋様が刻まれている、銅で出来た小さい板。


大事な物みたいなので…とりあえず、アイナから貰った、アイテムボックスの中に入れておく。


「ありがとうございます。」


「これで、何時でも依頼が受けれますよ。…早速、何か依頼でも受けてみますか?」


「それはまた、別の機会に。」


「そうですか。」


「はい……?」


……後ろから、視線を感じた。

振り返ってみると…すぐそばで、グラゴルさんが俺の事をじ~っと見ていた。


「グラゴルさん?」


「よう、キヨト。お前、ギルドに入ってくれたみたいだな。」


「はい。」


「そうかそうか。いやー、 まさか本当に入ってくれるなんて思ってなかったから嬉しいぜ。」


「あ、アハハ…。」


「…ところで、今日はアイナの奴と一緒にいないんだな。」


「ああ…それは……」


グラゴルさんに、経緯を説明した。


「ほ~ん…。養われてるだけじゃ、駄目だと思ってわざわざ家を出てきた…ね。…真面目な奴だなぁ。…あいつなら、何時までも面倒見てくれるだろうに。」


「そうでしょうけど…彼女に甘えたまま……という訳にはいかないので。」


「ヘヘっ、お前、良い根性してんな~。ますます気に入ったぜ~。」


そう言って、グラゴルさんは俺を見ながら「ワハハハ」と声を上げながら笑った。


「よし、まずは住む場所を提供してやるよ。この前、ギルドに入ってくれたらそうするって言ったからな。」


「ありがとうございます。」


「じゃあ、さっそく連れてってやるよ。」


「はい!」



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



グラゴルさんに案内されたのは、ギルドから少し離れた場所にある寮。


部屋は広いし、生活に必要な物は何故か普通に揃ってて自分で用意する必要もないし…ベットはフカフカ。


食堂で出てくる料理も、一目で分かる程に豪華で、おかわり可能という贅沢っぷり。


とにかく設備が整っていて、何も不満が出てこない。


まるで、高級ホテルに泊まっているみたいな感覚に陥る。


なのに、1ヶ月の家賃はたったの5千メリル。


たったそれだけで…高級ホテル並みに設備が整っている此処に、泊まり放題になる。


俺は、そんな素晴らしい寮の、一人には広すぎる部屋のベッドで寛いでいた。


「さてと…今日はどうしようかな…。」


ギルドに行って依頼でも受けるか、それとも今日はここで寛ぐか…。


一応、金ならある。

出ていく時アイナから、半ば強制的に渡された…アドムを討伐した報酬金の20万メリル。

これだけ持っているならば…別に焦って稼ぐ必要もない。


「だからって…ボーッとしてるのも違う気がする。」


…折角ギルドに入ったんだから、やっぱり何か依頼でも受けてみようか…。


そう思い立ったので、取り敢えずギルドに向かう事にするのだった。

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