第9話 あっさり片付いて拍子抜け
アイナが見守る中、アドムとかいう狼みたいなモンスターと戦う事になった俺。
「グルルルル…」
「来い!」
「グギャアアア!!!」
突然が立ち上がって、出鱈目に前足の爪をとんでもない速度で振り回して攻撃してきた。
「お前立つのかよ!?」
「グギャシャーーー!!!」
その攻撃を避けつつ、とりあえずファイアーボールで牽制をする。
……が、「小さい火の玉なんかどうってことないぜ!!」と言わんばかりに突っ込んでくる。
…当たっても全然反応がない。
「あれぇ…?」
…効いてなさそうなので、とりあえず攻撃を避けながら…次は雷属性魔法「サンダーディスプレス」を放つ。
モンスター目掛けて雷が一筋、二筋と乱れる様に降ってくる。
「グギャ!?」
その内の一つが奴に命中した。
今度は結構なダメージが入ったようで、フラフラとしている。
雷に打たれたのに、それだけで済む時点で、生物として大分おかしい気がするけど…まぁ、いいや。
「最大出力で終わりにしてやる!」
限界まで魔力を凝縮させ、放つのは超級雷属性魔法。
「サンダーボルトバースト!!」
直後、超巨大な一筋の光がアドム目掛けて降り注ぎ、轟音を辺りに鳴り響かせた。
……そして、雷を直で受けたアドムは丸焦げになってピクリとも動かない。
「終わらせるっつったけど…本当に終わっちまった。」
「ビクともしませんわね。これは、お亡くなりになられてますわ。」
「なんか……あっけなかったな。」
「それだけ、貴方が強いということですのよ。」
「そ、そうなのかなー……?」
Sランクという、如何にも強そうな難易度を誇っている割に、あっけなさ過ぎて……どうもピンとこない。
「ほら、我の言った通り簡単にやれたじゃろ?」
気が付いたら隣にアイナが来ていた。
「ああ、うん。確かにやれたけど……こいつって本当に強いモンスターなのか?なんか、あっさりすぎて……達成感がないというか…。」
「何を言うとるか、こやつはSランクに分類されておるモンスターじゃよ。気性が荒く、放っておけば街の一つや二つを簡単に壊滅させかねない力を持っておるのじゃ。」
「そんなに……?」
「ああ。」
思いの外ヤバいやつだったらしい。
俺は、そんな危険な奴を相手にしたのか……
「……それにしては、楽勝だったけど」
「そりゃ、そうじゃろう。魔操術で身体能力や魔法の威力を上げとるからな。それが無かったらお主は今頃、綺麗にスライスされておったじゃろう。」
「……え?」
恐ろしい事をさらっと言うアイナ。
……聞かなかった事にしておこう。
「さて、討伐も済んだ事だしの。ささっとこやつの死体を回収し、ギルドに戻って報酬を頂くとするかの。」
アイナはそう言うと、袖の下から何かを取り出した。
「お、アイテムボックスか……。」
「ああ、そうじゃ。」
突起物のある四角い箱。
それは、アイテムボックスと言って、生きているもの以外で一定の質量内なら、いくらでも収納できてしまうと言う、不思議な箱。
食材等も中に入れておけば、どういう原理かは知らんけど、長い間腐る事もなく安全に保存しておける。
結構高価な物らしい。
高価な物らしいが、アイナの家には何個も置いてある。
「ほれ、ポチっとな。」
……アイナはその箱の突起物を押した。
するとその面が開いて……あら不思議。
アドムの死体が、箱の中に吸い込まれてしまった。
「本当にいつ見ても不思議だな~…。」
「死体も回収したことじゃし、戻るぞ。」
「おう、そうだな。」
「はーいですの。」
____
ギルドに戻ってきた俺達は、さっそく報酬を受け取りに来た。
アイナが、アドムの亡骸が入ったアイテムボックスを提出し、それを受付の人が確認すると、大量の金貨が入った袋を二つ渡してきた。
「……それだけで、大体どれぐらいの金が入ってるんだ?」
「ざっと、20万メリルくらいかの。」
「に、20万!?」
たったあれだけの事で、そんなに貰えるのか。確かに危険度の事を考えると、これぐらいが妥当なんだろう。
だったら、ギルドに入って、かなり稼げるのでは……?
「お、いつの間にか戻ってきてるじゃねーか。」
「……ん?」
…いつの間にか、グラゴルさんが俺の後ろに立っていた。
「その様子を見るに、アドムは既に討伐が済んだみたいだな。」
「あ……はい。」
「やるじゃねーか、Sランクのモンスターをやっちまうなんて。ますますその戦力が欲しくなってくるな。もし、ギルドに入ってくれるってんなら、三食付きの住居も紹介するぜ。」
「あ、アハハ…。」
「それに加えて、アイナが戻ってきてくれれば、万々歳なんだが……。」
「やじゃよ、どうせ、またあの領主にしつこく付きまとわれるからの……。」
「そうか。…ま、仕方ないな。」
「……?」
「キヨト、金も受け取ったし、もう帰るぞ。」
「え、あ、うん。」
「また、来るからの。…何かあったら、知らせてくれ。」
「ああ。身体に気を付けてな。」
「うむ。お主もな。」
アイナは、それだけ言うとそそくさとギルドを出ていった。
俺とサメロアもそれに続いた…。
_____
「…なぁ、アイナ?」
「ん、なんじゃ?」
「さっき言ってた領主がどうのって、何の話なんだ?そいつに、何かされたのか?」
「…そうか、お主は知らなんだな。…別に、何かをされたという訳ではないのじゃが…いかんせん、そやつがしつこくての。」
「しつこい?」
「ああ。ガイゼスという、ここら辺りを治めている領主なのじゃがな…。我に…しつこく迫ってくるのじゃ。もう、何度も断っとるのに…わざわざギルドにまで訪ねて来る始末…。それが嫌で仕方なくてのぉ…。…偉い立場の者ゆえ、下手な事は出来ぬし…。…だからこの街を離れて、人目に付かなそうなあの森で暮らしておるのじゃよ。もう、そうして3年になるか…。」
「…え、なに、それ…。」
人が嫌がって何度も断ってるのに、しつこく迫ってくるってどういう神経してるのだろうか…。
「まぁ、こんなスタイル抜群の美人だったのなら、隣に置いておきたくなるのも分かりますわ。」
「美人のぉ…。…言う程、我は美しくはないと思うが…。」
「そんな事ないですわ!アイナは、誰が見ても綺麗だって思いますの!もうちょっと、その事を自覚して下さいまし!貴方もそう思いますわよねっ、キヨト!!」
「…なんで俺に…って、そ、そんな顔を近づけながら、同意を求めないでくれ…。」
詰め寄ってくるサメロアを、落ち着かせながら…アイナの方を見る。
…確かに彼女は、誰もが振り向く様なとても整った顔立ちだ。
それに加えて、男なら自然と目が行ってしまうであろう、反則級な物も持っている。
髪だって艶々してて綺麗だし…お腹も引き締まってるし…脚だって流れる様にスラッとしていてるし。
更に、モフモフの尻尾が9本も付いてる。
…最高じゃねぇか。
確かに、こんな美人がいたのなら、隣に置いておきたくなるのも分かる。
しつこく何回も迫るのは、どうかと思うけど…。
「…さっきから、我の事を真顔でじっと見とるが…どうかしたかの?」
「…常日頃、ずっと一緒にいたから忘れかけてたけどさ…お前の事を改めて見ると…やっぱスゲー美人だなって。」
「なっ…。」
「ほら、キヨトもそう言ってるじゃないですか、やっぱり貴女は美しいんですのよ。」
「む、むぅ…何を言うとるか…我は……そんなに…」
アイナは、顔を赤くして…少し照れ臭そうにしている。
「可愛いな。」
「可愛いですわね。」
見たことのない彼女の照れ顔に対する感想が、つい口から漏れてしまった。
それを聞いたアイナは、更に顔を赤くして…口をパクパクさせた……と思ったら、俺とサメロアを置いて、走って街の出口方面へと向かってしまった。
「なっ!?ちょっ、待ってくれよー!!」
「お、置いていかないで下さいましー!」
…慌てて、俺達はアイナの事を追いかけるのだった。
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