第8話 なんか、実力を試す事になった

「…やっと辿り着きましたわ…。ここですのよ…。」


…ギルドに辿り着いた。

結構大きな建物で、中が広い事も簡単に想像できる。


「…着いたぞ。」


「…うん、ありがとう。助かった…。」


「あ、ああ…。どういたしまして。」


彼女は、俺に頭を下げるとそのまま中へと入っていった。


「…凄かったな…、あの子。」


「ええ…。何故、私達が行こうとする逆の方向に進もうとするんでしょうか。」


「しかも、素でやってたからね。全然、悪意とか無くて。」


「…あの子、相当な方向音痴ですわ。」


「…あれは、そういうレベルなのか…?」


もはや、方向音痴という次元を超えていた。

放っておいたら、本当にさまよい続けてしまうんじゃなかろうか…?


「…まぁ、それはそれとして 、こんな場所に何の用なんでしょう?もしかして…依頼でも受ける気なのでしょうか?」


「…依頼?」


「ギルドでは、モンスターの討伐や採集など、様々な依頼が各所から届くんですの。ギルドに所属する方々は、その依頼を受け達成して受けとる報酬で生計を立てているんです。その報酬は、高額のものばかりですわ。…まぁ、それだけ常に危険も付き纏うんですけど…。」


「へぇ~…。」


「…あの娘、ここで働いているんですかね…?あんなに小さいのに。」


「子供もギルドで、働けるのか?」


「気になります?…だったら、入ってみますか?関係者以外の立ち入りが禁止されているわけではありませんし。」


「…そうだな。いっちょ入ってみるか。」


さっそく扉を開けて突入した。

中は、まぁ、想像通りだった。


鎧を着た人や弓を持っている人まで…武装した人達が大勢いる。よく、異世界に出てくるギルドのそれだ。

昼間だと言うのに…少し騒がしい。


…そして、その物騒な人達の中に見慣れた人物が混ざっている事に気が付いた。


「あれ…アイナ?」


…端っこの方で背の高い男の人と仲良さそうに喋ってる。

その男の人は額から角が一本あって、…鱗がたくさん付いたぶっとい尻尾が生えている。


「あら、これは、ばったりですわね。」


「何で、アイナがここにいるんだ?」


「彼女は、一応ギルドに所属していますから。街に来る度に、顔を出してるんですの。」


「え?そなの?」


「はい。そして今、アイナと喋っているあのお方は、このギルドのマスターですわ。お名前はグラゴルさんです。種族は、見て分かる通り竜人ですわね。」


「…へぇ…。」


…しばらく、彼女の方を見ていると俺達に気が付いた。

すると、こちらに来い…と手でひょいひょいっとやってきた。


とりあえず、アイナの方へと向かうことにした。


「よっ。」


「よっ。ではないわ。なんでここにおるんじゃ?街の観光をしていたのではないのか?」


「うん、してたけど…ちょっと色々あって…道案内してたらここに着いた。」


俺がそう言うと、どういう事だ?と言わんばかりにアイナは首を傾げる。

すると、サメロアが続けて


「ここに来たがっている娘がいましたので、わたくしが先導して連れてきてあげましたの。」


…と言った。


「…ほう…そういうことかの。」


アイナは、納得した様に頷いていた。


その横で、何故か俺の事をジーッと見てくるギルドのマスターの人。


「な、なんでしょうか?」


「お前がキヨトか?」


「は、はい?そうですけど…。」


「俺は、グラゴル。ここのマスターだ。…アイナから話は聞いてるぞ。お前、コイツの知ってる魔法、全部覚えちまったんだって?しかも、魔操術まで使えるんだとか?」


「え、ええ、まぁ…使えますけども…。」


「大したもんだな。…よし、お前、ギルドに入ってくれないか?その才能をウチで発揮してくれよ。」


「…はい?」


「そんな実力を持っておきながら、何の役にも立てないなんて勿体ないだろ?悪い様にはしないからさ、な、な?」


「え、えぇ…?」


突然の勧誘に動揺していたら、アイナが「ちょっと待て待て」…と割って入ってきた。


「グラゴル、キヨトが困っておるじゃろうが。ギルドに勧誘するのはいいが、ちゃんと節度を持たぬか…。」


「それもそうだな。わりぃわりぃ。」


「相変わらず粗相な奴じゃ。これでよくギルドの長が勤まっとるのぉ…。」


「周りのやつらがサポートしてくれるからな。別に、俺がしっかりしてなくても大丈夫なんだな。ワハハハ。」


…けっこう適当な所がある人だな…っていうのは今のやり取りでなんとなく分かった。


「まぁ、俺の事はどうでも良いんだ。大事なのは、ギルドの方よ。人員は足りてるが、戦力はいくらあってもいい。いつ、どういう事が起きるかなんて誰にも分かりゃしねぇからな。…それに、アイナが絶賛する程の奴だ。弱ぇわけがねぇ。そんな奴を放っておけるかっての。」


「…えぇと…。」


変に実力を買われている。

…俺、まだ実戦なんてしたことないのに。


そもそもとして、自分がどのぐらい強いかなんて分かりゃしない。


「…なぁ、俺って…今、どれぐらい強いんだ?」


「どうしたんじゃ、そんな事聞いて?」


「いや、俺ってまだ実戦経験がないんだよ。だから今、自分がどれぐらいの実力してるかなんて皆目検討もつかん。」


「なるほど。つまり、今の実力が知りたいということじゃな。だったら、お主の実力に見合った敵と戦えばよい。…どれ、我がその相手を見繕ってやろうぞ。」


「…お?」


そう言うと、アイナは受付まで行き…しばらくした後、こちらに戻ってきた。

右手には一枚の紙が握られており、それを俺達に見せてきた。


「アドム討伐…?難易度…S?」


「これなんかどうじゃろう。お主なら、倒せるハズじゃ。」


「お、アドムの討伐依頼じゃねぇか。手練れでも苦戦する危険なモンスターだが…お前の見立てじゃ倒せるってのか?」


「ああ。なんなら、かなり余裕で倒せると踏んでおる。」


「そりゃ頼もしいな。」


…グラゴルさんから余計に期待の視線を向けられている。


「依頼はもう受けたでな。早速お主の腕試しに行くとするかの。」


「へ?」


…アイナに腕を掴まれた。

そして、ずんずんと引っ張られながらギルドを後にした。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


街を出て、目的のモンスターがいるという場所まで連れて来られた。


「グルルルォォォォ!!!」


「ほれ、これがお主の相手じゃ。強そうじゃろ?」


「強そうじゃろじゃねーよ!なんだコイツ!?」


目の前には全身紅い甲殻に覆われ、前足の爪が物凄く発達している全長3メートル位の狼みたいなモンスター。

口から涎を垂らして…今にも襲いかかってきそうだ。


「こいつと…戦えっていうのか…?」


「そうじゃ。動きが素早く甲殻が堅くて物理はなかなか通らんから、近寄ったりせずに魔法で攻めるんじゃよ。大丈夫じゃて、お主なら簡単に仕留めれる。それに、もし危なくなったとしても、すぐに助けに入るからの。後、魔操術はちゃんと使うんじゃぞ。」


そう言うと…アイナは大きく後ろへと跳躍した。


…とりあえず、魔操術は発動させておく。


「…アイナも酷なことしますわね。いきなりSランクモンスターと戦わせるなんて…。…でも、それだけ貴方が出来るという事なんでしょう。彼女は人に無謀な事はさせません。」


「…あれ?サメロア、いたのか…。全然喋らねーからどっか行っちまったかと思ってた。」


「まぁ、ひどいですわ。今の今までずっとそばにいましたのに…。」


「すまんすまんっ……と!?」


モンスターが爪を立て、俺目掛けて襲いかかってきた。

なので、その攻撃をとっさに後転して避ける。

…魔操術を発動させていなかったら、危なかった。多分、反応も出来ずに切り刻まれていただろう。


「グルルルルルルルル!!!」


「……いつまでもじっとしてる訳ないもんな。しゃーねー、いっちょやったろうじゃねーか!!」


クマに追っかけられて、逃げ惑ってたあん時とは違う。


俺がやれるって事を見せてやる!!


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