第7話 広い街

「うわー、なんだあれ……すっげーなー…。」


街道に出てからしばらく道なりに進でいたら、建物がズラリと並んだ場所が見えてきた。


「そりゃあそうじゃろう。なんと言っても、あの場所はここ、マルンベリア王国最大規模の街じゃからな。名をフーゼロッタと言う。」


「ふーん……そうなんだ。」


何気に、自分が今いる国の名前を初めて知った。


そもそも、国があるなんて事も知らずに俺は、あの森の中で暮らしてたんだな。

……流石に世間知らずにも程がある。


「あそこの街は、噴水広場が凄いんですのよ。一回見ておくことをおすすめしますわ。」


「へ~。」


街の中は。どんな風になっているのだろうか?

見て回ってみたいが、そうするとアイナに迷惑がかかるから止めておこう。


「興味津々じゃな。もしかして、街の中でも見て回りたいのか?」


「え、ああ……うん。」


「そうか。……ならば、我が買い物しとる内に観光でもしてきたらどうじゃ?待っておるのも退屈であろう。」


「いいのか?」


「よいよい。我も買い物が終わったら少し、寄って行きたい場所があるでな。」


「そうなのか。じゃあ、お言葉に甘えて。」


集合場所は街の入口に四時間後という事になった。

街に着くなり二手に別れた。

……別れる際に、アイナから多少のメリル(この世界の通貨)を受け取り、気の赴くままに街を放浪する事にした。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「おお~……外から見ても思ったが、すっげ~街並み。こりゃ、全部見て回ろうと思ったらかなりの時間が必要だな……。」


街路には、様々な人々が行き交っている。

頭から兎の耳だったり、犬の耳だったり、様々な動物の特徴を持った人も……


「……色んな人がいるなぁ。」


「そうでしょうね。マルンベリア王国は、色々な種族の方が暮らしてますから。」


「そうなのか……って、サメロア、お前いつから付いてきてた?」


「始めっからですの。キヨトが道に迷わない様に付いてきてあげたんです。」


「余計なお世話だっつーの。自分が通った道くらい覚えてるって。……多分。」


「多分ってなんですのよ、そこまで言ったのなら『付いて来なくても良い!!』位の啖呵は切ってくださいな。じゃないと、安心できませんのよ。」


「いや……なんか、言ってる内に自信がなくなって、本当に迷うんじゃないかと思い始めてきちゃったから……。」


「情けないですわね。本当に男の子ですの?ナヨナヨせずに、もっとシャキッとしてくださいな。」


「う、うるへー!人間、誰だって心配になってくる事があるじゃんよ!それが今だったってだけだ!」


「……。」


サメロアは呆れた顔をしながら、俺の事を見つめてくる。


「……な、なんだよ…。」


「付いてきて正解だったかな……と思いまして。貴方一人だけでは、不安なんですもの。」


「………そうかも。」


なんだかんだ言いながら、俺はこの場所に訪れるのは初めて。

右も左も分からん奴が一人で出歩いてたら、迷うに決まってる。


「すまん……あんな事言っておいてなんだけど…道案内頼むわ……。」


「はい。分かりました。」


結局、サメロアに案内してもらう事にした。


______




あれから、約二時間。


サメロアにおすすめの場所に連れていってもらって、観光を楽しんだ。


沢山の商店が並ぶ通りだったり、この街を見渡せる様な場所だったり。

有名……らしいコックが営むレストランや、サーカスみたいな見世物まで、本当に様々。


このフーゼロッタという街が、どれほどに大きいかという事を思い知らされる。


「楽しそうですわね。」


「ああ、最高に楽しい。見たことのない場所を散歩するってのは、なんか、冒険してる気分。」


「冒険してる気分ですか……。なんだか、子供みたいな感想ですね。」


「確かに、そうだな。」


ちっちゃい時に味わった、あの、知らない場所に初めて訪れるあのワクワク感。

それに近しいものを、俺は感じている。


「なぁ、次はどんな場所に連れてってくれんだ?」


「……ふふっ。無邪気な人ですこと。じゃあ、次は、先程言いました、噴水広場にでも案内してさしあげましょうか。わたくしがこの街で一番気に入ってる場所ですのよ。」


「そりゃ、楽しみだ。」


「ええ、楽しみにしていて下さいな。」


彼女に付いていき、しばらく歩いて噴水広場に到着した。


「こりゃあ……すげぇなぁ。」


凄いとはサメロアが言っていたけども、確かに驚く程にここは広く、噴水が大きい。


竜を象った巨大な石像の口から水が溢れ出していて、そこから中心に水が広がっていく。


「大迫力ですわよね。」


「ああ……。」


圧巻というか、なんというか、ただ石像から水が出ているだけなのに、何故か目が離せない不思議な魅力がある。


「サメロア。休憩していこうぜ。ずっと歩き回ってたから疲れた……。それと、しばらくあの噴水を眺めてたい。」


「はい。分かりました。」


近くの空いていたベンチに腰かける。


「……ふぃ~。」


「どうですか、フーゼロッタは。見て回って、感想とかあります?」


「感想?んー……まぁ、いい街だな。色んな場所があるし、景色も良い。一人で住むんならこの街に住みたいよな。不自由しなさそうだ。」


「そうですか。……キヨトは一人暮らしがしたいんですの?」


「いや、別に一人で暮らしたい訳じゃないけど……ほら、いつまでもアイナの世話になるわけにゃいかないだろ?なんか、親の脛をかじる子供みたいで嫌なんだよな。」


「わたくしはそう思いませんけど。アイナだって、『いつまでも居ていい』ってきっと言いますわ。」


「だろうけどやっぱ、世話になりっぱなしってのも気が引けるからな。」


「そう、ですか。いつか、出ていっちゃうんですね。」


サメロアは、寂しそうな表情を浮かべた後に…こう言った。


「まぁ、キヨトが決めてる事なら仕方がないですわね。寂しいですけど、わたくし、その時が来ても我慢しますわ。」


「なんか、すまねぇな。」


……それから俺達はしばらくの間、雑談を交えるのだった…。


_____


長い時間を噴水広場で過ごした。

サメロアと、ついつい雑談に花を咲かせてしまった。

約束の時間まで後、一時間。


サメロアと喋っている間、なんだか、近くを通りかかる人の視線が冷たかった様な気もするけど……気にしないでおこう。


「さてと、まだ時間があるし、そろそろ別の所でも見て回るかな…。」


「次は、何処に向かいましょうか?わたくしのおすすめの場所はまだまだありますのよ。」


「そうか、なら連れてってくれよ。」


「はい!」


ベンチから立ち上がって、この場所から離れようとした時だった。


服の裾を誰かに掴まれた。

一瞬サメロアかと思ったが、違う。

……後ろを振り向いてみると、そこには、ゴスロリファッションをしている、黒髪ロングのちっちゃい女の子がいた。


「………。」


「え、と……何かな?」


「……迷った。」


「へ?」


「ギルドに行きたいけど、道が分からない……。」


「…そうなの?」


「……うん。」


迷子か。

とりあえず、親御さんが心配してるといけないから探すとしよう。


「親御さんは?どこではぐれちゃったんだ?」


「親……?私には、いないよ。」


「……へ?」


俺が首を傾げるとこの女の子も首を傾げる。

お互い、頭の上に?マークが浮かんでいる。


そんなよく分からない状況の中、サメロアが俺の耳元に小声で

「……よく分かりませんけどこの子、道が分からないんですわよね。放っておくのも気が引けますし……連れていってあげましょう。道案内なら、わたくしがしますので。」

と呟いてきた。

俺は、首を縦に動かして肯定の意を示した。


「………。」


「……えと、嬢ちゃんは、ギルドって場所に行きたいんだよな?」


「…え?……あぁ、うん。」


「だったら、連れていってやるよ。行けなくて困ってるんだろ?」


「……いいの?」


「ああ、いいさ。」


「ありがとう。この街、何回出歩いても広すぎて道が分からなくなるから……助かる。」


とりあえず、サメロアの案内の下、ギルドという場所に行くことになった。


ギルドっていうと、よく異世界にある依頼とか受けれる場所だけど、この世界でもそういう場所なのかな……なんて道中に想像する俺だった。

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