第6話 街へ行こう
…アイナから魔法の全てを教わり終わって二週間。
アドバイスの通りに、日常生活の中で魔力の流れをコントロールしているが…これが長くは続かない。
5分程度、長く保てる様になった。
ほんの少しの成長だが…、こういう積み重ねが大事だ。いずれは、一時間…二時間…とこの状態のままでいられるだろう。
…アイナは、常にその状態を維持しているらしい。一体、どれだけの努力をすればそこまで辿り着けるのだろうか?
彼女は底が見えない。
…それにしても、あんまり気にしてこなかったが…何故、こんな森の中に住んでたり、あんなにも魔法に対しての知識があったりするのだろうか。
もしかしたら、隠居している凄い経歴を持つ人物だったりして。
…なんて、事を考えながらソファーに座りながら、特に意味もなく天井を見上げる俺。
「なんか、ヒマだなぁ。」
「そーですわねー。何か面白い事でもありませんかねー。」
…と、同じく意味もなく天井を見上げるサメロア。
「そちら、時間があるとよくそうしておるのぉ。天井なんか見て楽しいか?」
「いやー。特に。」
「ただ、時間を潰してるだけですのよー。意味なんてありませんわ~。」
「…呑気な奴らじゃな。時間を潰すなら、もっとこう、他にあるじゃろ?体を動かすとか、本を読むとか。」
「体を動かすのはメンドイからいいや。…本は…少し興味あるかな?」
「だったら、貸してやろうかの?我の愛読書、『世界の魔法使い大全集』を。歴史に名を残した魔法使い達の逸話や成した事が書いてある。読んでいて勉強になるぞ。」
「…あー、パス。俺、そういうのはいいや。読んでると頭痛くなってきそうだ。」
「む…そうか。それは、少し残念じゃの。せっかく楽しみを共有できるかと思ったのじゃが。」
「…キヨトって、本は読みませんの?」
「ほぼ読まんな。興味はあるけども…あの文字列を見てると、頭ん中がゴチャゴチャして…内容が入ってこん。」
「そうですか。…あなた、長い話とか聞いてると途中で寝てるタイプの人ですわね。」
「…なんで、そう的確に言い当ててくる?」
「なんとなくですの。」
国語の授業とかで、長い時間先生が朗読とかしていると…毎回のように寝ていた。
そして、その度に先生にどやされてたっけ。
…なんだか懐かしいな。
「どうしたんじゃ?遠い目などしおって。」
「…いや、ちょっと昔を思い出してな。別に大したこと事じゃないから気にしないでくれ。」
「ふむ…そうか。分かった。」
アイナは、それだけ言うとティーカップを手に持ち、注いであるいつもの茶を啜った。
「…昔ですか。そうやって懐かしむ事のできる過去の記憶があるって、ちょっと羨ましいですわ。」
「あ?どういう事だ?」
「わたくし、生前の記憶が無いんですの。サメロアという名前以外、何も覚えてませんからね。」
「…なんだそりゃ、初耳だぞ?」
「そりゃ、言ってませんからね。わざわざ言う必要もないですから。アハハ。」
…などと、笑って言うサメロア。
「…自分の過去の記憶が無いってのに…辛くはないのか?」
「今は、辛くないですのよ。…幽霊になり初めの内は、自分が何者なんだ~とか…一人で悩んでましたわ。誰かに頼りたくても、声が届かないし、届いても…怯えられて逃げられるし。誰からも自分の事を見てもらえないって、かなり堪えるものがありましたわ。もう消えたいなー…って考えてる時期もありましたわね。」
「…。」
「…でも、そんな風に何年もさまよっていたわたくしの事を見つけてくれた人がいました。それが……」
「我じゃな。こやつが道端で小さく踞まっておった所に声をかけてやったのじゃ。」
「はい。『お主、どうしたんじゃ。そんなところで蹲って』…って声をかけられたんです。びっくりしましたわ。まさか、わたくしに声を掛けてくる人がいるなんて想像してませんでしたから。」
「…ふーん…」
「嬉しかったですわ、とても。自分の事を、ちゃんと見つけてくれる人がいるんだって…。…一人じゃないんだって…。」
「おー…。」
「それがこやつとの出会いじゃったな。」
「…なるほど…いい話じゃねーか。」
「はい、とってもいい話ですの。アイナがいなければわたくし、きっと今も独りぼっちのままでした。…貴女には感謝してもしきれませんわ。」
「別に感謝される様な事はしとらんがの。我はただ、道端におった女子(おなご)に声を掛けたまでじゃ。」
「そうだとしても…わたくしは、貴女に感謝し続けますわ。……だから、ありがとう。わたくしの事を見つけてくれて。」
「そうか。…どういたしましてじゃ。」
「…。」
二人の間には…深い絆がある。
家族ともとれるような…そんな美しい絆が。
「……なんだか、しんみりした話をしちゃいましたね。」
「別にいいさ。お前の話、聞けて良かったよ。」
「…そうですか。」
「ああ。」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
サメロアの話が終わり、いつもの明るい雰囲気に戻って雑談をしていた。
どうでもいいような、他愛もない話。
そんな会話を一時間近く続けていた。
「……そういえば、買い込んでいた食料がそろそろ底を付きそうじゃったな…。」
「そうなのか?」
「あら、もうそんな時期でしたか。」
「これは、買い出しに行かなくてはいけないか。…仕方がないのぉ、面倒じゃが明日、街に出掛けるとするか。…キヨトも来るか?少し遠いが。」
「お、行く行く。」
「了解じゃ。」
…アイナに拾われてからというもの、俺は森ぐらいしか出歩いた事がない。
外の世界がどんな風に広がっているかなんて、全く知らない。
今から行くのが楽しみだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日…。
「よーし、じゃあ早速出発だー。」
「出発じゃなー。」
「レッツラゴーですの~。」
家を出発し、森を抜け…平原へと出た。…
「…こっから、どの方角に行けばいいんだ?」
「北じゃの。そのまま20kmも行けば、街道に出るからの。後は、道なりに進めばすぐ街に着くのじゃ。」
「20km?なにそれ、めっちゃ距離があるじゃん…。」
「そうじゃ。ノロノロ歩いていると日が暮れてしまうからの、少し急いで行くぞ。ほれ、二人とも手を出せ。」
「はいですの。」
「え、あ、うん。」
アイナは俺とサメロアの手をがっしりと掴んだ。
「衝撃に備えておけよ。最初から飛ばしていくからの。」
「え?」
「では、行くぞ。」
…アイナはロケットスタートを決めた。
とんでもない速度で前へ前へと突き進んで行く。まるで、ジェット機みたいに。
そして、20km先にあると言っていた街道まで辿り着くのに多分5分もかからなかった…。
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