第32話 迷子

ミーニャ達と散歩に行ってから、一週間が過ぎたある日の事、一つ困った事が起きている。


「メルマが寮に帰ってこない…。」


アイツの方向音痴はもう、本当に凄いもので…一、二日帰ってこない…なんて事はザラにあった。だから、心配はしてなかったけど…流石に三日目に突入してまで帰ってきてないとなると、話は別である。


「ギルドの人に聞いてみたけど、依頼を受けてる訳でもないみたいだし…何処に行ったんだよ、アイツ…。」


そんな事を呟きながら、俺は街の中を捜し回っている。


クライエットとジラウスも探してくれているが……やはり見つからない。


「う~ん…いねぇ……。」


街中をくまなく捜したが……見つからない…。


「…後、捜してねー場所っつったら…あんまり人が寄り付かなそうな所……路地裏…だな。」


そんな考えに至り、路地裏へと足を踏み入れた。


そして、しばらく歩いてみるが……人っ子一人もいない。


まぁ、当たり前か。

こんな薄気味の悪い場所に好き好んでくる奴なんていないだろう。


…いる可能性は低いと思うが…一応確はしておくか…。


そう思って…歩いてると……前方で何やら、男の集団が…17歳くらいの青年を取り囲んでいた。


人数は全部で六人で、全員体格が良い。


どう見ても一般人ではない。


「おい、金出せや、金。」


「おめえ、今の状況分かってんだろうなぁ?」


「早くしろよ、痛い目にあいてぇのか!?あぁ!?」


男達は、青年に怒鳴り散らす。

青年は、恐怖で震えている様だった……。


「嫌な場面に出くわしちまったなぁ…。」


思わず目の前の胸糞悪い光景に顔をしかめる。


…恐らく、クライエットの言っていたボロギド組とかいう奴らだろう…。


とりあえず…このまま見ている訳にもいかないので、その男達に近付いていく。


すると、その男達の内の一人が、俺に気が付いて、こちらを向いてきた。


「あ?なにジロジロ見てやがんだお前?見せもんじゃねーぞ!?」


その男は、俺に対してガンを飛ばしてくる。

…が、そんなのお構い無しに、俺は口を開く。


「アンタら、その人の事を離せよ。大人数で、一人を相手にイキって楽しいかよ?あ?」


「なんだとこのガキッ!舐めた事言ってっとぶっ殺すぞ!」


安っぽい挑発の言葉に乗り、その男は俺に大声で怒鳴ってきた。


「やってみろよ。」


「っヤロウ……言いやがったな……なら、殺ってやるよ!!」


俺を睨み付けて、腕を振り上げながら男は、走ってきた。


魔操術で、魔力を全身に行き渡らせ、少しだけ身体能力を上げる。


「ぶっころ…」

「えいっ」


走ってくる男に足払いをかけ、体勢を崩させた。

そして、そのまま頭を掴んで、軽く力を入れる。


「ぐぎゃあああっ!!イタイイタイイタイ!!頭が潰れる!!!」


「あれ……そんなに痛がるの?……ちょっと力いれすぎたか…?」


魔操術をクライエットとアイナ以外の対人で使った事なぞなかったから…どうやら加減をミスったらしい。


あまりにも、痛がっているので…離してやった。


……すると、そいつは地面に倒れ込み…頭を押さえながら俺の事を見てきた。


「なんなんだよ……てめぇ……なんで、そんなヒョロそうな体格してる癖して…そんな力強いんだ…。竜人とかでもねーくせに……。」


「うっせ、そんな事教えてやる義理はねーよ。で、どうすんだ?まだやる気なら、全員痛い目にあってもらうけど。」


……俺がそう言うと、男達は顔を見合わせて後に…「一斉にやっちまえ!!舐められたままで終われるかよ!!!」と叫んで、全員が襲いかかってきた。


「なっ、やめろよ!!そんな一斉にかかってくるな!!手加減難しいんだぞ、おい!!」


そんな風に文句を言いながらも、襲ってきた奴らを順番に軽くはたいていく。


それだけでも、奴らにとっては相当痛い様で、皆一様に地面で悶えていた。


「……やっぱ危ねぇな…魔操術の身体能力強化って…。ちょっと力入れるだけで人なんぞ簡単に殺せちまうぞ……。」


「…っくそぉ、お前の顔を覚えたからな…今度会った時、覚えてやがれよ~!!」


…男達は、捨て台詞を吐きながら逃げていった。


「あー…うん……めんどくせ…。」


俺は、ため息をつきつつ、襲われてた青年の方を見る。


するとその人は、ヒッ…と声を上げて、腰を抜かしてしまった。


そして、尻餅をついた状態で、後ずさっていく。

……まぁ、そりゃそうだわな。

あんな光景見たら誰だってビビるか。


そう思いつつも、流石にこのまま放置する訳にもいかないので…近付くと、青年は、

「や、やだぁ!!襲わないでぇ!」

…と言いながら、凄い勢いで走り去って行ってしまった。


「…………せっかく助けてやったのになぁ…。」


なんだか、やるせない気持ちになった。


「……っと、そんな事より、あの迷子を捜さねーと…」


…メルマの事を思い出し、捜索を続ける事にした。


________


「…見つからねぇ…。」


捜し始めてから約一時間程経つが、未だに見つからないでいる。


路地裏なんて、あまり人が寄り付かない場所だし……もしかしたらと思って来てみたのだが……。


「……ここにゃいねぇんだろうな……。」


…とりあえず、一旦休憩しようと思って…路地裏を出た。

そして、道端に設置してあるベンチに座る。


「…ふぃ~……疲れたなぁ……。」


……しばらく街行く人を眺めながら休む。

すると、後ろから誰かに肩を叩かれた。


「や、キヨト。」


「あ?…え、エルラ?」


振り向くと、そこには背中合わせのベンチにエルラが座っていた。


「驚いた?」


「ああ、かなり……ってか、何でいるの?」


「街に来たかったからきた。僕、一人で。キヨトに会ったのは偶然だよ。会いに行くつもりではいたけど。」


「ふ、ふ~ん…」


「キヨトは、こんな所で何してるの?お散歩の休憩…とか?」


「あー……まぁ……ちょっと捜し人を……」


「……捜し人?……誰を捜してるの?」


「メルマ。あいつってさ、方向音痴なんだよ。一人で街を歩いてると必ず迷子になる。目的地の反対方向に行くなんて当たり前にやる。……それに、寮に1日帰ってこないなんて当たり前にあるからなぁ…。」


「……それ、方向音痴ってレベル超えてない?その枠に収まってないよ?」


「ホントにそうだよなぁ。……本人も、その事を自覚してるみたいだが…治せないらしい。」


「大変だね……。」


「……そうなんだよ。…で、あいつさ、昨日寮に帰ってこずに今日も帰って来てねーのよ。いつもならさ、ひょっこり帰って来てるのに。」


「……ふ~ん…それで、心配になって探してるってわけなんだ。」


「ま、そういう事。……今は、ちょいと休憩してるとこ。」


「なら、早く見つけないとね。僕も手伝うよ。」


そう言って、エルラは立ち上がった。


「良いのか?」


「うん。」


「…そっか。なら、頼むよ。とりあえず…色んな所をくまなく捜してくれ。…一応…昼頃に一回クライエットとジラウスの二人と一回集合することになってるから、お前も一回ギルドに来てくれよな。」


「分かった。」

________________


「……」


…私は、今、絶賛迷子中。

寮に帰れなくなって、二日目である。


…何だか、迷っている内に変な場所に来てしまっていた。暗いし、臭いし…ネズミもいるし、なんか虫もいるし……汚い水は流れてるし……。

…多分、下水道なんだろうけど…


「……帰りたい……。」


鼻がひきつる様な激臭が漂うこの場所は、私にとって最悪だった。

っていうか、どうやれば下水道に迷い込めるのだろうか。

自分の事ながら不思議でしょうがない。


「……とにかく、出口を探さないと……」


この悪臭に耐えながら……必死で出口を探し続けるのだった。


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