第31話
……アイナは、しばらく…街には来ない…と言っていた。
どうやら…ガイゼスに相当会いたくないらしい。
…その話題について…今…俺の部屋でメルマ、クライエット、ジラウス達と話している途中だ。
「…領主様って…そんな事するんだ。」
「立場利用してるみたいで…卑怯だね。てか、素直に気持ち悪い。」
「そーゆー事してるって噂、流してやればいーのに。……いや…流れてるんだったら、とっくに流れてるか。多分、自分にとって都合の悪い噂が立たない様…裏で工作でもしてんのか?…どう思うよ、キヨト。」
「さぁ…な。でも、実際の所…どうしてんだろ?あんな事、道行く人にやってれば…噂の、一つや二つくらい立っても良さそうだが……。」
「…流石に…道行く人、一人一人にそんな事はしてないんじゃないかな…。多分、あくまでも自分が気に入った相手にだけにやってるんだと思うよ。」
…と、メルマはそう言う。
「…そうか?」
「うん。それに、限られた…特定の人にしかやってないのなら…噂も立ちにくいんじゃないかな?…それに立ったとしても、さっきジラウスが言ってた様に…裏で工作して、情報の操作くらいなら、普通にやれそうだし……。」
「よく…思い付くね、そんな事。あたしだったら、そんな事考えつきもしないよ。」
「……。」
「うーん……。……確かにそうかもしれないな……。」
…と、ジラウスは、興味深そうに頷いていた。
「……まぁ、あくまで私の予想だけどね。」
「そうか。」
「うん。絶対にそうだ!……なんて決め付けれないから。」
「…まぁ……そうだよなぁ。」
……メルマの言う事に賛同しながらも、…見えないところで、何かイケナイ事でもやってそう…と…俺は思っていた。
「……んまぁ、領主様の話はこれぐらいにしてよ…何か、別の話しねーか?」
…と、ジラウスが俺にそう言ってきた。
「…他の話題か?……んなもん、俺は持ってねーよ。二人は…何かある?」
「…他の話……ねぇ。……んー、そーいえば、最近……ボロギド組の奴らがさ、また近頃たむろってるらしいんだよね。」
「あ?……ボロギド組?……確かにチンピラの集まり…だっけ?」
「うん、そうだよ。最近はさ、警備も厳重になってきてたから…あんまり表立って行動はしなかったんだけど……それがまたね、活発的になってきたみたい。」
「へぇ……」
「物騒だね……。もし、そいつらの拠点を見付けられたら、潰しちゃおっか……。」
…と、メルマはボソッと呟いた。
「…危ないから、やめといた方がいだろ?チンピラの集まり…っつても…もしかしたら、強い奴がいるかもしれねーじゃん。」
「大丈夫だよ。私……それなりに強いから。」
…と、メルマは自信満々にそう言った。そんな様子の彼女にジラウスは、「いやぁ……やめといた方が良いと思うぜ。」…と、苦笑いしながら忠告した。
「どうして?」
「だってよ…あの連中の幹部にゃ、腕の立つ奴が数人いるらしいぜ?…なんでも、そいつらは、Sランクのモンスターを一人で倒せる程の実力なんだとか。…まぁ、噂だけど。」
「え?そうなの?そんな情報、初めて聞いたんだけど?あいつらってただのチンピラの集まりじゃないの?」
クライエットは、驚いた表情を浮かべていた。
「ああ、そりゃまぁ、多分あんまし出回ってない情報みてーだからな。幹部とか上の奴らは、あんまり表には出てきてねーらしいし、知らんくても、ムリねーわ。」
「……じゃあ、何でそんな事をお前は知ってんの?」
「ん?ああ、それは俺が街を歩いてたら、たまたま耳に入ってきたんだ。ボロギド組の幹部にゃ、強い奴がいますよ~って話がさ。…嘘かホントかは知らんけど。」
「ふ~ん……。」
「ま、だからさ、あんまり関わらない方が良いぜって話。」
「そう…?」
「おう。」
「そっか。……分かった。なら、こっちから手を出すのは、襲われた時だけにしておくね。」
「いや…だから関わらない方が……まぁ、いいや。とにかく、目は付けられん様にしろよ。」
……と、ジラウスは俺達に釘を指す。
「はいよ。」
「分かってるって。」
「なるべく、肝には命じておく。」
「……ホントに大丈夫かなぁ……?」
ジラウスは…メルマの方を向いてそう呟いた…
「それにしてもさ、ジラウス…あたし達と普通に喋れる様になってきたよね。」
「ん?……ああ、まーな。最初は、緊張で声もあんまり出せなかったけどよ、今は普通に出来てんだろ?」
「最初の頃と比べれば、全然違うよ。」
「うんうん。」
「…でも、やっぱり他の女性の人とは、喋れてねーよな。この前、なんかの依頼受けてただろ?そん時の受付の女の人とは、目線をなるべく外しながら、頑張って話してたしよ。」
「うっせーな!……良いだろ別に!まだ慣れねーんだよ!!」
「ははは、お前のそれ、もっと色んな女性と喋る様にしないと、多分直んないだろうなー。まぁ、今のままじゃ無理だろーけど。」
「ギギギ……」
ジラウスは、歯軋りをさせながら、こっちを見てくる。
「あはは!まぁまぁ、落ち着いて。」
クライエットがジラウスの肩を持って宥める。
「うぅ…オレだって…その内…
ちゃんと……!」
「頑張れよー。」
「…ファイトー。」
「がんばって~」
俺達はジラウスに適当にエールを送った。
「くっそぉ……バカにしやがって……。」
この後小一時間雑談して、皆俺の部屋から解散した。
______
皆が解散して、特にやる事も無かった俺は…ギルドで手頃な依頼でも受けようと思い、部屋を出た。
そして…寮の入り口まで来たのだが……そこで、ある見覚えのある人影を発見した。
「ラミネさん…とミーニャ?」
「あら、キヨト君~。」
「あ、お兄ちゃんなの~♪」
そう言ってミーニャは、俺に向かって来て、抱き付いてくる。
「おおっと、いきなりは危ないぞ…ミーニャ…。」
「えへへ~ごめんなさ~いなの~。」
嬉しそうに笑いながら、謝ってくる。
その様子に、思わず笑みが溢れてしまう。
すると、クスッと笑う声が聞こえてきた。
そちらに目をやると……そこには、こちらを見て、微笑むラミネさんの姿があった。
「あ~と……何で…ここに?」
「今日は、お店の定休日なんですよ~。だから、ミーニャと二人で散歩をしてたんです。それで、たまたまこの近くを歩いてて…このギルドの寮を見かけたんですね~。…で、キヨト君は、ギルドの寮で暮らしてるって聞いてたので、もしかしたらここに住んでるのかも…と思って、中に入ってみたんです~。」
「あ、そ、そうなんですね…。」
「はい~。まさか、入った途端に会えるなんて、びっくりですね~。」
「そ、そうですね…。」
まさかこんな所で、この二人に会うとは思わなかった……。
「ところで、キヨト君はこれからお出掛けですか~?」
「あ、はい。」
「そうなんですね。……あの~、もし良ければ、私達と一緒にお散歩に行きませんか~?」
「え?」
「あ、ダメなら良いんですよ~。一緒に来てくれるなら、ミーニャも喜んでくれると思ったんですけど、キヨト君の都合もあるでしょうからね~。」
「いや…別に大丈夫ですよ。今、やる事なんて無いですし。」
「本当ですか?良かったです~。」
「やったなの~!」
二人は、とても喜んでいる様だった。
俺としても、断る理由は無い。
ギルドにでも向かおうかと思っていたが、それはまた今度でもいいだろう。生活費ならまだ余裕はあるし。
「じゃあ、行きましょうか~。」
こうして、俺達は三人で散歩へと歩き出した。
道行く人々を眺めながら、ぶらぶらと街の中を歩く。
たまに、美味しそうなお店があれば立ち寄って、食事をしたりもしたし…買い物もした。
そんな感じで、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
気付けばもう夕方で、空も赤く染まっていた。
そして、俺達三人は、最後にいつもミーニャと遊んでいる公園に立ち寄っている。
ベンチに座って、三人で話す。。
「お兄ちゃんとお母さんが一緒だったから、いつもより楽しかったの~。」
ミーニャは満足げな表情を浮かべていた。
「そうだね~。」
「ああ、俺も良い気分転換になったよ。」
「そうなの?なら、また一緒に行くの~。」
「ああ、そうだな。」
そんな風に、皆でしばらく楽しく喋った。
…すると、後ろから視線を感じた。
振り返ってみると…公園の外から、こちらを見ている人物がいた。
「……あれは…誰だ?」
…少し距離があるため…よく分からない。
…正体を探ろうと目を凝らして見ていると……その人物は、踵を返してこの場所を去って行った。
その後ろ姿は……どこかで見た事がある様な気がする。
…まぁいいや。
とにかく今は、ミーニャとラミネさんの相手をしよう。
俺はそう思い、再びミーニャの方を向いて、会話を再開した。
______
「ふぃ~、充実した1日だったぜぇ。」
そんな事を呟きながら、俺は自分の部屋の浴室で湯船に浸かっていた。
「……それにしても……ミーニャの奴…楽しそうだったな~。」
昼間の事を思い出して、俺は思わず笑みを浮かべる。
ミーニャは終始笑顔を絶やさず、ラミネさんは優しくミーニャの面倒を見ていて……本当に、心の底から癒やされる光景だった。
「俺にもあんな時があったのかな……。」
そう思って、昔の事を思い出す。
俺がまだ小さい頃は、母さんや父さんに妹と一緒によく出掛けていた。
遊園地とか動物園、水族館にも行ったっけ……。
「懐かしいな……。」
思わず、そう声が漏れてしまう。
家族と過ごした日々が、走馬灯の様に頭に浮かんでくる。
「…………」
このまま浸かっていると、色々思い出して悲しくなってきそうだったので、風呂を出る事にした。
寝間着に着替えて、ベッドに横になる。
「……明日は、依頼でも受けよっかな…。」
そんなことを呟きながら、眠りについたのだった。
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