第30話 アイナと領主様

「…あ、アイナ。」


「おお、キヨトではないか。」


街を歩いていたら、偶然アイナと出会った。…隣には、プカプカと浮いているサメロアとエルラがいた。


「今日は、何してんだよ?」


「買い物じゃよ、買い物。調味料やら食糧やら切らしておってな。…本当なら、もう少し長く持つはずなんじゃが…最近になって、エルラが料理を覚えてたいと言い始めての。それで、使っておるから、すぐに無くなってしまってのぉ……。」


「…僕が、焦がしたりとか、味付けに失敗したりとかするからだね。…ごめんね。」


エルラは、申し訳無さそうに謝った。


「なに、別に謝る事は無いぞ。料理は、誰でも失敗はする事はある。……それに、エルラはまだまだ経験が浅いからの。少しずつ慣れていけば良いだけじゃ。」


「そうだな、気長にやってけよ。」


「……うん、二人ともありがとう。」


「……にしても…料理か。…久々に俺も何か作ってみようかな……。」


…と、俺が呟くと…


「いや、お主は作らんでよい。」


…と、アイナに即答された。


「う~…なんでだよ~…」


「お主が作ると、見た目は良いが、味は壊滅的になるじゃろ。」


「うーん、否定出来ないのが悔しいなぁ…。」


ガックシと肩を落とす。

すると…サメロアが…俺の肩を手で掴んで…「ドンマイですの。」…と、言ってきた。


「…………なんかムカつく。」


「えぇ!?なんでですか!?」


「なんかその顔が腹立つ。」


「理不尽!!」


「はっはっは!冗談だ、じょーだん!」


「全然笑えないですよ!!……全く……。」


「あはは……。」


…ちょっと怒り気味に言うサメロアに、俺は笑いながら言った。


「……まぁ、なんだ?いっつもお前にゃやられっぱなしだから、たまにはお返しっつーことで。」


「そんな事のために!?……酷い人ですわね……。」


…と、頬を膨らます。


「あっはっは!わりぃわりぃ!」


俺は笑う。

それを見たサメロアは、「ふんっ」…と言って、プイッとそっぽを向いた。


「しばらく顔を合わせておらんくても

、お主らは相変わらずみたいじゃな。」


「そりゃな。」


「…まあ、それもそうか。」



アイナは、俺の顔を見て微笑む。

それを見つめているエルラ。

そして、俺のせいでそっぽを向いてるが、何処か楽しそうなサメロア。


三人共…笑顔だった。


「…なぁ、俺も買い物に付いてっていいか?お前達に会うまで、散歩してただけだからさ。」


「別に聞かんでも、勝手に付いてこればよいではないか。」


「そうだけどよぉ。一応、確認しときたくてな。」


「……そうかの?まぁ、良いか。とりあえず、一緒に行くとするかの。」


 「おう。」


そして、四人で歩き周りながら……雑談をしながら、食糧を買い回った。


…で、一通り買い物も終わった帰り道にエルラが「僕、この店で服を見たい…」……と言い出して、服屋さんにも寄る事になった。……のは、いいのだが…


「……女性系の服しか置いてねぇ店じゃねぇか……。」


エルラが興味津々に見つめる先にあるのは、フリルが付いたスカートやら何やら……女性用の服ばかりが展示されている店…。


「……おい、まさかとは思うが……ここに入ろうってのか…俺を連れて?」


「うん。だって、可愛い服が沢山あるし。それに、キヨトに似合う服もあると思って。」


「おい!また俺に女ものの服を着させようってか!?」


「え?そうだけど?」


「そうだけどじゃねぇ!?」


「良いじゃないですか!!さぁ、中に突撃しますわよ!!」


…と、サメロアは俺の腕を掴んで、引っ張ってくる。


「ちょっ、ヤメロッ、俺の尊厳をこれ以上、破壊しないで!!」


「別に、男の子が女の子の服を着ても尊厳は破壊されないよ。行こ。」


…と、エルラも俺の腕を引っ張ってくる。華奢な見た目してるクセに、


「ヤダー!!タスケテー!」


と、泣き叫ぶも…アイナは、この光景を微笑ましそうに見てるだけで、助けてくれない。


「さぁっ、行きますわよ!」


「やめてくれー!!」


……結局そのまま二人に引っ張られて店に入店した。

そして、エルラやサメロアに着せ替え人形みたいにされた。


……もうやだ…恥ずかしい……。


_________


…店を出て、しばらく経った……。



「あー、可愛い服とか沢山見れたし、買い物も出来たしで楽しかった。それに、キヨトも中々似合ってたよ。」


「……。」


「そんなに恥ずかしがる事はないんですのよ。とても可愛かったですわ。」


「……別に嬉しくない……。」


…と、落ち込むように呟くと……

後ろから肩を叩かれた。


「落ち込む事はないぞ。我は、お主の女装、結構好きじゃ。」


「フォローになってねぇ!!ってか、マジなトーンで言うな!!」


「はっはっは!」


…と、アイナは楽しげに笑う。


「全然笑えねぇよ!」


そんな感じにふざけ合っていた時だった。


「おや?……そこにいるのは……アイナさんでは、ありませんか。」


一人の男が、こちらへ歩いてくる。

黒髪で長髪。背は高めで、高価そうな服を着ている…眼鏡をかけた40歳位の男。


……なんだ?この男……。


その男は、こちらへ近づいて来る。

そして、アイナの前に立つと、爽やかな笑顔を浮かべながら言った。


「奇遇ですね。お久しぶりです。二年ぶり位でしょうか?」


…そう、男が挨拶すると…明らかにアイナの歪んだ。


「……ガイゼス…公…。」


ガイゼス……。

確か、前…アイナが言ってた…この地域の領主。

…執拗に迫ってきて…アイナがこの街を離れる原因になった…クソ野郎。

アイナは、心底嫌そうにしている。

顔も、見るからに不機嫌そうだ。


「…何故、ガイゼス公がこの様な場所に……?」


「いえ、偶然この近くに用事がありましてね。それで、ちょっとこの辺りを見て回っていたんですよ。」


「……そうですか……それはご苦労な事で

……。」


「いえいえ、それほどでも。」


……言葉は丁寧だが……アイナを見る目が気持ち悪いな……コイツ。

…胸とか…脚とか…尻とか…そんなとこばっか見てやがる。


…そんな事を思いながら、そいつを観察していると……

ふと、視線が合う。



「……そう言えば、そちらの方々は初めてお会いしますね。…どちら様でしょうか?」


と、笑顔で聞いてきた。


「……私の連れですが……何か?。」


アイナは答える。


「……そうですか。……所でアイナさん。今度、お茶などご一緒に如何でしょうか?」


「…断ります……。」


「まぁまぁ、そう言わずに……。」


「断わると言っているでしょう……!」


「つれないですね。」


…嫌がるアイナを見て…楽しそうにしている。


「……それでは、また何処かで。……今度会った時に、またお誘いしましょう。」


そう言うと、その男はニヤニヤしながら去っていった。

アイナは、小さくため息をつく。


「……なんなんだよ……アレ……。あんなのに、お前付きまとわれてたのかよ……。」


俺が尋ねると、アイナは答えた。


「……そうじゃな。……昔ほど……しつこくは…ないし…変な事も言ってこなんだが……あの我を舐め回す様な視線は…変わっておらん…。」


「…あの領主、ホントムカつきますわね…。いっそのこと、家を燃やしてやりましょうか。」


「そんな事はせんで良い…。…実際に手を出されている訳ではないからの……。それに…普通に犯罪じゃ。」


「……ですけども……手を出してないからこそ…気持ちが悪いんですのよ…。あの視線を浴びせ続けられる……考えただけで…寒気がします。……しかも、それで嫌がるアイナを見て…楽しんでますし……。」


「趣味悪りぃな……。」


「……ホント……許せませんわ。あんなの…痴漢と変わらないですのよ。」


…今まで…見たこと無い位…サメロアは、怒りを顔に露にしている。


「……あやつとは……本当に関わりたくないんじゃよ……。出会った時から……我を変な目で見てくる奴じゃったし…。……ガイゼスの事なぞ忘れておったのに……。」


…アイナは…憂鬱そうな表情をしている。

あの男のせいで、思い出したくもない事を思い出してしまったのだろうか……。


「……アイナ…大丈夫?」


「…ああ…大丈夫じゃよ。…心配してくれて…ありがとの、エルラ。」



そう言ってアイナは、エルラに優しく微笑む。


「……そっか。…とりあえず……ここから移動しよ……。」


「……そうですわね。……休憩も兼ねて。」


「…だな。」


とりあえず……この場所から離れる。


…そして、しばらく会話も無いまま歩いていると、趣のある喫茶店があった。

…そこに寄りたいと…アイナが言ったので、中に入って…そこで休憩をする事にした。


…入ってみると…中にはマスター以外の人がおらず、独特な雰囲気を醸し出している店内だった。


「……こういう時は…リラ茶で気分を落ち着かせるのが一番じゃ。」


そう言って、アイナはリラ茶の入ったティーカップを持ち、ゴクゴクと凄い勢いで飲んでいる。

…いつものあの優雅さは何処へやらだ。


「…ぷはーっ…うみゃいのぉ……。」


…だら~ん…としながら、カップを受け皿の上にコトン…と置く。


「…マスタ~…お代わりじゃ~。」


「かしこまりました。」


……マスターは、慣れた仕草でティーカップにリラ茶を淹れる……。


「…ありがとなのじゃ~。」


…アイナは、それをまた飲み始めた。

今度は、ゆっくり…味わうように飲んでいる。


「…楽しそうで良かったね。」


「…そうだな。」


「…本当に…リラ茶が好きですわね、アイナは。」


…と、俺達は、少し離れた席でアイナを見ながらそんな事を呟く。

……一人で飲みたい…との事なので…別の席にいる。


「…にしても…あんな奴が領主なんかやっててよ、大丈夫なのか?…裏で何かやってたりすんじゃね?」


「…残念ながら、そう言った話は聞きませんわね……。逆に…仕事に対しては熱心だとか……ちゃんとしている……だとか…そう言った噂ばかりですわ。」


「え~?ウッソだ~…。」


「わたくしもそう思ってますが…世論はそういう評価を下しているみたいですわ。……情報操作でもしてるんじゃないんですかね。」


「ふーん……。」


「……ねぇ……一つ疑問に思った事があるんだけどさ……?」


「…ん?」


「どうかしましたか?」


不思議そうな表情を浮かべたエルラに、反応する。


「何で…あの…ガイゼスって…人は、アイナの胸とか…お尻とか脚とかを…凝視してたの?」


「…何でって……分かるだろ…」


「……?」


俺がそう言うと、キョトンと首を傾げるエルラ。

……ああ、そう言えば…コイツ無性なんだっけ。

だから…そういう事が分からんのかな…?

普段が女の子の格好の為、その事を忘れそうになる……。


「…あーと……まぁ、アイナが綺麗だからだよ。綺麗だから………ええと……」


「綺麗だから……何?」


特に考えもしないで、適当な事を言ったから…言葉が出てこない。…すると、サメロアがこんな事を言い出した。


「セクシーだからですわよ。アイナが。あんなに美しいから……狙われるんですわ。」


「セクシー……ああ……色っぽい……って事?」


「そうですわ。あのスタイルの良さ……あの綺麗な顔……そして…あのもふもふの尻尾…全てがセクシー過ぎるんですの。」


「……そっか。アイナみたいな人の体型の人を色っぽいって言うんだね……。だから……街を歩いてる時、たまにアイナに視線がいってる人がいるんだ。」


…エルラは納得した様にウンウンと頷いていた。


……そんな事を納得せんでえーのに……と俺は心の中で思った。


「じゃあ……僕もアイナみたいな容姿になったら、セクシー……って事になるのかな?」


「なるんじゃねーの?知らんけど。」


「……そっか。じゃあ…ちょっとなってみよっかな……。」


「…は?」


俺がそんな腑抜けた声を出すと同時に…エルラの身体がぐにゃりと蠢いて…少しずつ変化していく。

すると、少女みたいだった容姿から…アイナみたいにスタイルの良い女性の容姿へと変化した。


「どう?……僕もアイナみたいに、セクシーになったかな?」


「…………多分……。」


今起こった出来事に脳が追い付いておらず……俺は、曖昧な返事をした。


……そう言えば…コイツ…ある程度自由に身体を変形させられるんだっけ……。

どういう原理なんだろうか。


「……そっか。……サメロアは…どう思う?」


「アイナには及びませんわ。……っていうか、服のサイズが合わなくなって…ちょっと大変な事になってるから、すぐに元の姿に戻りなさいな。」


「…ああ…うん…分かった。」


そう言って、エルラは元の姿に戻った。


「……お前って…すげー事出来るのな。……でも…人が大勢いる様な場所でやんなよ?驚かれるだろうし。」


「うん、分かってるよ。」


「…なら、良いけどよ……。」


…この後も、しばらく雑談するのだった。

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