第33話

「……ダメだな……全然見つかんねぇ……。」


あれから、もう数時間が経過しているのに…未だに、メルマを見つける事が出来ないでいる。

……そもそもこの街にはいないんじゃないだろうか。……そんな考えすら浮かび始めていた。


「……ワンチャンありそうなのが恐いよなぁ……。……そろそろ集合の時間だし…ギルドに一旦向かうか…。」


そう呟いて、集合場所であるギルドへと向かった。

______


「おーい、キヨトここだよ~!!」


俺の姿を見つけたのか、椅子に座ってるクライエットが大きく手を振ってきた。

隣には、ジラウスとエルラがいる。


「おーう、待たせたか~?わりぃな……。」


「大丈夫だ。そんなに待っていないぞ。」


「僕もさっき来たところだよ。」


「そうか。」


「それより、メルマの手掛かりは見付かった?そこらじゅうを駆け回って見たけどあたしの方は、全然。」


「…俺も、人に聞いて回ったけど…ダメだ。メルマのメの字すら出てきやしねぇ。」


「とりあえず、僕も捜してみたけど…全然居なかった。それに…思ったけど…この街が広すぎるよ。皆で捜しても…メルマが移動し続けてたら、見つかる確率は相当低いと思うんだ。」


「確かに……エルラの言う通りだよな~…。」


「…う~ん……だったら、ギルドの掲示板にさ、張り紙出してみるか?捜し人有り!……って銘打ってよ。出すのは、簡単だぞ。ちょちょいと用紙に内容を書き込むだけだからさ。」


「……なるほどな。……そりゃ、良いかもしれん。けど…報酬金は…どうする?」


「そこは…まぁ、皆で出し合えば良いだろうよ。」


「……まぁ、そうか。」


「じゃあ、早速書きに行こうよ!!」


「ああ……まぁ、そうだな。」



そして、俺達は…その手続きをする為に…受付に向かった。


「あ、キヨトさんに皆さん。」


…そこに向かうと、いつも受付をやっているソティナさんが立っていた。

メルマとは、結構仲が良いらしく、ソティナさんが休日の日は、一緒に出掛けてる事もあるんだとか…。


「話、聞いてますよ。メルマちゃん……また迷子になってるって。……依頼なんて受けてないはずなのに、あの子何処行っちゃったんでしょうか?」


「ええ……そうなんすよね……。俺達も探し回ったんすけど…見付からないんすよ。それで……ちと、掲示板に張り紙でしようかと思いまして。…メルマの捜索願いって事で。」


「捜索願いですか?……それなら、もう私が書いて、張り紙しておきましたよ。」


「へ?」


「だって、心配じゃないですか。友達に何かあったら……嫌ですからね。」


「……そうっすか。」


「はい!」


何という行動力だろうか…。

俺も…見習わなければ。


「とりあえず、メルマちゃん、早く見付かってほしいです。今度、一緒に美味しいお菓子を食べるお約束をしてるので。」


「そ、そうですか……。……まぁ、俺達も、もう一回捜してみるつもりです……。」


「はい。宜しくお願いします。」


ソティナさんは……ペコリと頭を下げた。


「ああっと…じゃあ、そういう事で…俺達、行きますね。」


「はい。」


……俺達は、その場から立ち去り、ギルドの出口へと向かう。


「メルマの事、早く見つけないとね。何処かで、空腹になって倒れてるかもだし。…あたし、頑張るよ!」


「僕も頑張ってみるよ。」


「二人とも気合い入ってんな。じゃあ、俺もいっちょ気合い入れて捜すぜ!」


3人は……とてもやる気満々の様子だった。


「……あはは……まぁ、そうだな。」


俺は、3人の様子を見ながら苦笑いを浮かばせていた。


……それにしても…本当にメルマはどこにいるのだろうか…。


どっかで倒れてないと良いけど…。


そう思いながら…出入り口に手をかけよう…とした…次の瞬間。


扉が勢い良く、開かれた。


「ぐえっ!??」



突然の出来事に……避ける事が出来ずに……俺の顔に直撃した。

そして、そのまま地面に倒れた。

痛い……。


顔が、ものすごくヒリヒリする……。


「ああっ、すいません!!急いでいたものですから……って、キヨト君!?」


聞き覚えのある声だなぁと思って……顔を見上げると…そこに居たのは、ラミネさんであった。


「ラ、ラミネさん……?」


「大丈夫!?怪我はないかしらっ!?ほら、起き上がって!!?」


…っと、焦り気味に俺の腕を掴んで、引っ張り起こしてくれた。


それにしても……どうして、こんなにも慌ててるのだろう。


それによく見ると、服が汚れている。

まるで、転んだみたいだ……。


それに、ラミネさんの表情は、少し疲れきっている様に見える。


一体……どうしたというのだろうか?


「だ、大丈夫ですよ。」


「なら、良かった……。あ、そうだ!!ミーニャ見なかった!?」


「え?ミーニャ……?…いや、見てないっすけど……。」


「そう……あっと、ごめんなさい!!私ちょっと、急いでるから…!」


ラミネさんは、俺に軽く会釈すると、足早にギルドの受付の方へと向かって行ってしまった。


「ねぇ、あの人…誰?キヨトの知り合い?」


クライエットが、そう俺に聞いてきた。


「……ん~……まぁ、そんなところだけど……。」


「随分慌ててたみたいだけど……何かあったのか?」


「さぁ……。でも、あの慌てよう……いつものおっとりしたラミネさんからは考えられんぐらいに…

なんか、鬼気迫るものがあったな……。」


「確かになぁ……。」


ジラウスと顔を見合わせて、首を傾げる。


「……ちょっと、俺、ラミネさん所に行ってくるわ…。お前ら、先にメルマ捜しといてくんね?」


「あ、俺も行くぞ!何があったのか、知りてーし!」


…と、ジラウスも名乗りを上げた。


「ああ、うん。分かったよ。じゃあ、あたし達は、メルマを捜しに行くから。……夜の七時ぐ、いにもっかいギルドに集まって、状況報告しようね。」


「ああ、分かった。」


そう言って、俺とジラウスは、ラミネさんの元へと向かい、クライエットとエルラは外にメルマ捜索へと向かった。


________


「……あのぉ……ラミネさん。」


受付で、何やら懸命に話をしている彼女に声をかけた。


「キヨト君にジウラス君……?ああ…先程はごめんなさい…。」


「……なんか、あったんすか?」


「……実はね、ミーニャが……いなくなっちゃったのよ…!」


「ええっ!??」


「ちょっ、いなくなったって……どういう事ですか!?」


俺とジラウスは、声を出して驚いた…。


「私も、何が何なのか分からないのよ……。朝…少し目を離した内にいなくなってしまったの。…あの子は、出掛ける時は、必ず一声かけて出て行くのに……。」


「そ、そうなんですね……。」


「警備署に行って……捜索願いを出したのだけれど…警備が忙しいとかなんだとかで…あまり良い返事は貰えなかったの。……だから、ギルドで、報酬金を出して……ミーニャの事を…捜してもらおうと思って……」


……ラミネさんは、そう暗い顔で言う。


「……キヨト。」


「……メルマの事は、あの二人に任せるぞ。俺達は、ミーニャの捜索に切り替えだ!!」


「おう!!」


……そうして俺達は、ミーニャの捜索へと、踊り出たのだった。


________________


……一方その頃、メルマは…


「………この臭いにも慣れてきちゃったかも……。」


下水道を歩いて、はや数時間が経とうとしている。


一向に出口という出口が見付からず、ただただ時間だけが過ぎていく……。


「……嫌だなぁ。外に出たら臭いって言われちゃう……。」


……まぁ、それはしょうがないと諦めるしかないだろう。こんな場所に迷い込んでしまった…私が悪いのだから。


「……にしても……出口が見付からない……。」


流石…マルンベリア王国最大規模の街の下水道なだけあって…複雑で…広い。

そのせいで、余計に迷いやすく…なってる気がする。


……なんて事を考えてると……少し先を行った曲がり角から…足音が聞こえてきた。


「……私意外に…人?」


……下水道の点検でもする為に…配管工の人でもやって来たのだろうか?

……そんな事を思いながら…角に少しずつ近付いて行くと…話声が聞こえてきた。


「はぁ~……上からの命令とはいえ、何でこんな猫型獣人のガキンチョを拐って来なくちゃいけねーんだかね。俺はもっとこう……キレイなネーちゃんを拐ってみたいんだけど。売り飛ばせば、良い金になるだろーしな。……そうじゃなくても色々使えるだろうし。」


「おい、あんまり大きな声で喋るんじゃねえって。こんな場所とはいえ、もし誰かに聞かれてたらどうすんだ。」


「大丈夫だって。ここは下水道だぜ?誰も聞いてねーよ。」


「……そういう油断がだな……。」


「まあ、いいじゃないか。とにかく、早く終わらせようぜ、二人とも。オレァ、さっさとボロギド支部に帰って酒でも飲みたいんだ。」


……何やら、物騒な事が聞こえてきた。これはもしかしなくとも、誘拐犯だろう。

声の数からして…多分、三人組…なのだろうと思うけど。


「…足音が近付いてくる……。とりあえず……少し様子を伺ってみようかな……。」


そう小さく呟きながら、角の壁際にくっつき……その声の主達がこちらに曲がって来るのを待つ。


…そして、数十秒待つと180センチ位の背丈の男が三人、並列に歩いて角を曲がってきた。……その内の一人は、猫型獣人の子供を担いでいた。その子は、目隠しと、喋れないようにする為か、口にはタオルを巻かれている。


とりあえず、その曲がってきた男の内の一人に先制攻撃を仕掛けた。


「おわっ!??」


思いっきり蹴って、汚水の中へとダイブさせてやる。


「なんだなんだ!?何で、こんな所に子供がいやがんだよ!?」


「知らねぇよ!!ってか、そいつホントに子供か!?体格差あるのに、簡単に蹴り飛ばしやがったぞ!?」


「よ、よく分からんが、とりあえず、押さえろ!」


「お、おう!」


子供を担いでいる男の指示で、もう一人の男は、私の両腕を押さえ付けようとしてきた。


私は、それをひらりとかわすと、後ろ回し蹴りをお見舞いしてやった。


すると、見事にクリーンヒットして……相手は、壁際まで吹っ飛んでいった。


「ぐへぇっ!?」


…それを見た最後の一人は、「ちくしょう…なんだってんだよ!!」と言いながら、来た道を戻ろうとした。


「逃がさないよ」


逃げる男の倍の速度を出して即座に追い付き、その男の服を掴む。


「この、は、放せ!」


「嫌だ。」


「にゃろっ!」


子供を担いだまま、私を蹴ろうとしてきたので、掴んでいた手を離して、相手の足を払った後に、顔面に拳を叩き込んだ。


「ぶべらっ!!!」


すると、担がれていた子供が男から、離されて汚水の方へと落ちそうになる。


その方向に素早く移動して、何とかキャッチした。

それから、ゆっくりと地面に下ろす。


「……もう大丈夫だからね。」


そう言いながら、目隠しを外し、口に巻かれているタオルをほどく。


「………。」


怖がって声も出せないのか、ただただ震えている。


……変な人達に捕まって……訳も分からない内に下水道に連れてこられて……。

……怖いに決まってる……。


だから、優しく頭を撫でてあげると、安心して泣き出してしまった。


「大丈夫……大丈夫だよ。」


しばらく泣かせてあげて……落ち着いてきた。


……そうしていると……最初に蹴り飛ばして汚水の中へ落とした奴が、唸り声を漏らしながら、上がってきた。


「……ってぇ…何が起こったんだよ……」


キョロキョロと辺りを見渡して…

驚いた後……こっちを見てくる。


「……のびてる二人を、お前がやった…のか??」


「そうだけど……。」


「……冗談キツいぜ……。こんな……ちっこいガキにやられたってのか?……ってか、なんでこんな場所に人がいんだよ……。」


……私を見ながら、そんな事を言ってくる。ちっこいとか言ってきたので、もう一度攻撃してやろうと思ったのだが……やめておく。


「……何でこんな年端もいかなそうな子供を拐ったの?……上からの命令とか言ってたけど。」


「……ちっ聞かれてたのかよ…。」


「……答えて。」


私がそう言うと、その男は顔をしかめた。


「何でお前みたいなちっこいガキに言わなきゃいけねぇんだよ。」


「……また、ちっこいって言ったね……。」


「……な、なんだよ……事実だろうが……。」


「……。」


……その男に無言で近付いていく。


「ちょっ!……な、何をする気だ……?」


「……。」


「お、おい……」


「えいっ。」


その男を軽く蹴飛ばして転ばせる。

そして、その男の手を踏みつける。


「痛っ!!な、何すんだ!!おい!」


「……私、一応、19歳なんだよ。もう、大人のレディなんだよ。」


「ああっ!?嘘つけ、このチビガキが!!」


「……。」


「いでっ!?いでででででで!!」


……さらに強く踏みつけてやる。


「ちょっ、わ、悪かった!!謝るから!!踏みつけるのやめてくれ!!折れる、折れちまうからぁ!!!」


「……。」


パッと足を退ける。

…その男はしばらく痛みにもだえていた。


「……くそっ、いてーじゃねえかよ。」


「……自業自得。人を見た目で判断する方が悪い。……まぁ、そんな事より……なんでこんな小さな子を誘拐したわけ?」


「……それは、上の連中が勝手に決めた事だから、オレには分からねぇよ。ただ、そのガキを連れてこい……としか言われなかったからな。」


「ふ~ん……そう……。……まぁ、いいや……えいっと。」


……魔力で作り出した、長~いロープ状のもので、目の前の男を縛り上げた。


「な、なんだこれ!?」


「魔力で作ったロープ。逃げられない様にね。とりあえず、一緒に来てもらうから。」


……残りの気絶している二人の男もそのロープでぐるぐる巻きにしてやる。


「くっそ……この……!」


「無駄だよ。竜人ぐらいの力が出せなきゃ、その魔力のロープ……ビクともしないように作ってあるから。」


「はっ……はあああっ!??なんだよ、ソレ!?ふざけてんのかよ!??」


男は驚きながら、そう叫ぶ。


私はそれを無視して、猫型獣人の女の子の方に振り向いた。

その子は、男の大声に少し震えている。

私はしゃがみ込んで、目線を合わせてあげた。

すると、その女の子は、私に抱きついてきた。


頭を撫でてあげながら、優しく話しかけてあげる。

そうすると、少しずつ落ち着いてきたみたいだった。


それから、ゆっくりと立ち上がり、男の方を睨み付ける。


「……ちょっと……静かにしてもらえるかな…?」


「あ、はい……。」


男は、私の迫力に押されてか、すぐに大人しくなった。

……これで、この子も少しは、落ち着いてくれるだろうか?


「……え~と……とりあえず……君の名前……教えてもらえる?」


女の子に聞いてみる。


「……ミーニャ…なの…。」


「そう、ミーニャちゃんっていうの。……よろしくね。」


「……。」


コクリとミーニャちゃんは小さく首を縦に振る。


「…さてと……とりあえず……ここから出なきゃいけない訳だけども……出口……分かるよね?」


縛り上げた男にそう聞く。


「ああ……知ってるぜ。」


「案内して。」


「……嫌だと……言ったら?」


「……。」


「分かった!分かりました!だから、その目をやめてください!」


「……最初から素直になれば良いんだよ。」


そう言いながら、縛っていた男のロープを引っ張って、無理矢理立たせた。


「いでででででで!!!」


「ほら……行くよ……。」


「はいぃ……。」


この男に道案内させながら、進む。

……後の二人は、気絶してるのでとりあえず引きずって連れて行く事にするのだった。




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