第48話 アイナと王女様

ある日、王都から呼び出しの手紙が来た。


内容はなんと、王女様に直接魔法を教えてほしいとの事だった。


面倒だが、流石にこの要望を断るわけにもいかず、しぶしぶ了承の返事をした。


そして現在、自分は王城の前にいる。


他の者はいない。

サメロアも、キヨトも、エルラも。


本当に自分一人だけ。


少し寂しいが、まぁ我慢である。


……そんな事を思いながら門番の兵士に声をかけると、すぐに中に通される。

城の中に入ると、メイドらしき女性が出迎え道案内してくれた。


長い廊下を渡り、階段を上り、いくつもの扉を通り過ぎてようやくたどり着いた王女の部屋の前で立ち止まる。


「失礼致します。」


ドアノブに手をかけ、ゆっくりと開けていく。


中に入り、まず目に入ったのは大きな窓の前に置かれた机に座って本を読んでいた金髪のロングウェーブの少女の姿だった。


少女はこちらを振り向き、読んでいた本を閉じた。

とても綺麗な蒼い瞳をしている……。


彼女の側にはその少女に似た美しい女性が立っていた。

恐らく母親…。つまりは、この国の王妃様。

確か、名前はミリオネッタ……だったはず。


そんな事を考えていると、王妃はこちらに向かって歩いてきた。

自分の目の前まで来ると頭を下げた。

それに倣(なら)い自分も頭を下げる。


「よくぞおいで下さいました、アイナ・リヴァリスココン様。私、この国の王妃、ミリオネッタと申します。貴女の事をお待ちしておりましたわ。……娘のご指導をわざわざお引き受けいただきありがとうございます。」


「いえ、王女様の御指導をさせて頂けるなんて光栄です。……自分に務まるものか分かりませんが…精一杯やらせていただきます。」


「またまた、ご謙遜を。世界最強と謳われる貴女に教えていただけるんですもの、この子も今よりもっと魔法の腕が上達しますわ。」


そう言って王妃様は、座っている少女の方を見た。


「ほら、今から貴女の先生になるお方よ。ご挨拶なさい。」


「はい。」


そうして、少女は机から立ち上がって着ているドレスの裾を軽く持ち上げ…


「ミリスと申します。これからよろしくお願いいたしますね、アイナ先生。」


…と、笑顔で言った。


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


そして、自分も笑顔で返した。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「随分と豪華な部屋じゃの~。」


自分が普段住んでいる部屋とは比べ物にならないほど、すべての家具が高値の物。


…とりあえず、ベッドに横たわってみる。

……うん、フッカフカで気持ちいい。


「…はぁー、本当に引き受けてしもうたわ。……どうしようかのぉ~」


しばらくは、王女様専属の教師となるため、この王城に住み込みとなる。


ついさっき、その彼女がどれぐらい出来るのか見させてもらったが……


「中々のものじゃったの。歳は確か15じゃったかな?それであれだけ出来れば大したものよ。」


上級魔法を難なく扱えていた。

それも、かなりの数の属性の。


……覚えようと思えばきっと、すんなりと超級魔法を覚えてしまうであろう。

そんな才能の片鱗を垣間見た。


「…じゃが、キヨトには及ばぬ。あやつは、たった2ヶ月で我の全てを盗んだ化け物よ。」


…今はまだSランクのモンスターを一人で倒せる程度だがもっと魔法の扱いに慣れ、魔操術を常時発動出来るようになれば……


「……まぁ、後はあやつ次第か。教える事は全て教えてやったんじゃしな。」


……そんな事より、今はあの王女様の事だ。


どうやって、魔法を教えてやろうか。


引き受けたからには、納得がいくまでしっかりとやらないと。

しかし、ただ闇雲にやるだけでは意味がない。


「……まずは基本に立ち返ってみようかの。いや、でも……」


…そこから一晩中、王女様の訓練をどうしようか考えた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


翌日

時間になったので、早速王女様の部屋に向かった。

ドアを開けると王女様が、昨日と同じ椅子に座って本を読んでいた。


王女様はこちらを見ると読んでいた本を閉じ、席を立ってこちらに向かってきた。


「おはようございます、アイナ先生。」


「はい、おはようございます王女様。」


そう挨拶を交わした後、王女は頭を下げた。

自分も頭を下げる。

そして、お互いに顔を上げて目が合うと微笑み合った。


「今日は何をするんですか?」


彼女は首を傾げながら聞いてきた。


「今日はですね、今扱える上級魔法の上達を目指していきたいと思います。」


「はい、分かりました。」


王女様はそう返事をすると、笑顔でこちらを見てきた。

それに釣られて自分も笑顔になった。

そして、そのまま部屋の外へと連れ出した。

____ 城の中庭に出て、早速魔法の授業を始めた。

自分は今、王女様と向かい合って指導をしている。


あれはこうした方がいいだとか、これはこうした方がいいだとか…とにかく細かく。


「あ、そこはもう少しこう……指先に力を入れて、魔力を込める感じですね。」


「は、はい」


王女様は、アドバイスに戸惑いながらも言われた通りにやって見せた。


それを確認してから、次の段階へと進んだ。

____そして、数時間後。


「……ふむ、今日はこれぐらいにしておきましょう。あまりやり過ぎてもお身体に悪いですからね。」


「はぁー……疲れました…」


王女様は大きく伸びをした。

自分も、かなり長い時間付きっきりだったので結構疲れたな…と思った。


「お疲れ様です。」


「はい、ありがとうございました。……先生の教え方、とってもお上手でした。今まで教えて下さった誰よりも的確で、分かりやすかったです。」


「いえいえ、そんな……」


「本当ですよ。嘘じゃないです。だから、そんなにご謙遜しないで下さい。」


王女様がそう言ってきた。

本当に嬉しそうな、そんな表情を浮かべていた。

その言葉を聞いて、思わず笑ってしまった。

そして、王女様は言った。

____ また明日お願いします……と。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


部屋に戻って一っ風呂浴びて、ベッドに横たわる。


「…う~む…それにしても…よく出来た子じゃな。」


口調から仕草……それに、人の事をよく見ている。


それに話していて思ったが、人への接し方も気を付けていた。


言葉の一つ一つに気を使っていて相手に嫌な思いをさせないように心がけていると分かる。


「ドがつく程の真面目さんで、優しい子じゃなぁ。」


……まだ15だというのに、あの落ち着き様。

やはり王族として育てられただけあってしっかりしているのだろう。


「流石、神童と呼ばれているだけの事はあるかのぉ。様々な方面で才能に長け、周りから常に期待をされている……。」


今は、魔法の修得に専念しているが、前までは座学や武術、剣技等にも精を出していたと聞く。


そして、どれもこれも優秀過ぎる程の結果を残しているとか。


「…じゃが…ちと周りに気を使い過ぎておるような……。」


まだそんなに関わっていないから、はっきりとは言えないが……なんとなくそう感じる。


「……まぁ、これからそれなりの付き合いになるんじゃし、そこのところはゆっくりと見定めるとするかの。」


________


一ヵ月後…

王女様は、自分が教えた事をどんどん吸収していき、今では苦労せずに上級魔法の全てを扱えるようになっていた。


「お疲れ様です。……いやはや、まさか一ヶ月でここまで上達なさるとは……」


自分は今、中庭にあるベンチに座って休憩していた。

隣には王女様が座っている。

そして、王女様は笑顔でこちらを見てきながら言った。


「先生のお陰です。先生の教え方がとても上手で、こんな短期間で上級魔法の全てを覚える事が出来ました。」


王女様は、そう言いながら頭を下げた。


「そう言ってもらえて、至極光栄です。……ですが、ここまで上達なさったのは貴女様の努力の賜物かと。」


そう言うと、王女様は、照れくさそうな表情を浮かべながら頬を掻いた。


「えへへ……ありがとうございます。……ところで先生、一ついいですか?」


王女様はこちらを見つめながら聞いてきた。


「はい、何でしょう?」


首を傾げて聞き返すと、王女様は口を開いた。


「先生のその喋り方……やめませんか?」


「え?」


突然王女様は、そんなことを言ってきた。

自分は目を丸くして、呆気に取られた。


「あ、いえ、先生ずっと私やお母様に敬語で話されてますよね?…いつも気を抜けなさそうに話しているので……せめて私の前では楽にしてほしいなぁー……なんて…。」


王女様は、少し恥ずかしそうにしながら言った。


確かにここに来てから、一度も自分の素を出したことは無い。


単純に目上の人に普段の、のじゃ口調で喋る訳にもいかない。


それに、年下の子に偉ぶった態度を取るつもりも無かった。


「……よろしいのですか?」


「ええ、もちろんです。」


王女様は、笑いながらそう言ってきた。


「……なら、いつもの感じでいかせてもらおうかの。」


「…あら、のじゃ口調……。思っていた喋り方と違う……。」


王女様は少し驚いた表情を浮かべていた。

そして、すぐに元の顔に戻った。


「でも、その喋り方の方がアイナ先生って感じがしますね。私は好きです。」


「そ、それは良かったのじゃ。」


「ふふふっ。」


それからしばらく素で王女様と会話した後、魔法の修練に戻った。


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