第47話 アイナが帰ってきた
「……。」
今俺は、ベッドに寝転がり、ボーッとしながら、アイナの事を考えていた。
街に帰ってきてそれなりの期間が立ったが……あいつは今頃どうしているんだろうか。
王女様に魔法の指導を付けてるって話だけども……。
「……結構長い間会ってねーよな~。……会いてぇよなぁ。」
「そうだね。会いたいね。」
……知らぬ間にソファーで寛いでいたエルラも、そう答えた。
「お前、いつ入ってきたの?」
「30分くらい前。」
「……全然気付かなかったわ。」
「もうちょっと気を張った方が良いと思うよ。もしかしたら、おかしな人が突然部屋に入ってきて、キヨトの事を襲うかもしれない。」
「そんな事あってたまるかっての。別にバチが当たる様な事してるワケじゃねーのにさ。」
「そういう問題じゃないけど……。」
「いいのさいいのさ。そんな起こるかも分からん事を気にするより、気を休めてボーッとしてた方が落ち着けるだろ?」
「まぁ、そうだけども。」
「だろ?だから、いいんだよ。」
そう言いながら欠伸をした。
「ふぁ~。」
「眠いの?キヨト。」
「ああ~うん。ちょっとだけ早起きしちまってなぁ。まだ寝足りない気はするなぁ。」
「そっか。」
そう言うと、エルラは立ち上がり、ベッドに近付いてきたかと思えば、かがんで寝転がっている俺に視線を合わせてきた。
そして、頭に優しく手を添えてくる。
「……なに?」
「ね~むれ~ね~むれ~や~すらかにね~むれ~♪」
エルラは小さく、落ちく声色で歌い始めた。
「……なにそれ。」
「子守唄だよ。知らない?」
「子守唄ってのは聞きゃ分かるが、そんな歌詞の子守唄は知らん。」
「そうだろうね。だって、今、僕が即興で作ったんだもん。」
そうして、エルラはまた歌を歌い始める。
「……あれ……なんか……良い感じに眠たくなってきた気がしてきたぞ……このまま……眠れ……そ……」
……そのままゆっくりと目を閉じようとした。
その次の瞬間、エルラの視線を遮るように床からニョキっとサメロアが生えてきた。
「え?」
突然の出来事に眠気が吹っ飛ぶ。
「おや?眠るんじゃありませんの?せっかくエルラが優しく歌ってくれましたのに。」
「いやだって……お前、何でここに?」
「あら?わたくしがここに居ては駄目なんですか?」
「いや、そういんじゃなくてだな、お前、アイナに会いに行ったんじゃなかったのかよ?それなのに、何でここに?」
「ええ、行きましたとも。そして帰って来たんですのよ。」
「え?」
……ちゅーことは……つまり……?
「キヨトよ~。帰ってきたぞ~」
部屋の扉が開かれると同時に、久しぶりに聞く声が聞こえてきた。
思わず飛び起きて、扉の方を向いた。
「ただいまなのじゃ。」
「アイナ!!」
そこには、アイナがいて、その隣に金髪ロングウェーブで綺麗な蒼い瞳の少女が立っていた。
「……と誰?」
服装は、至って普通の町娘みたいな格好をしている。……が、何処となく気品を感じさせる雰囲気が出ている……気がする。
見た目は、背丈が160センチぐらいで、年齢は多分10代後半くらいといった所だろう。
「知らない人……誰?」
「……えと、どちら様で?」
俺とエルラは、金髪の少女の方を向いて尋ねた。
「ミリスと言います。王都からアイナと一緒に来ました。これから、アイナと一緒に住むので、よろしくお願いします。」
そう言って、ミリスと名乗った金髪の少女はペコリと頭を下げてきた。
一つ一つの動きが、とても丁寧で洗練されている。
「ああ、これはどうもご丁寧に。」
俺もベッドの上で軽くお辞儀をする。
「……え?住むの?アイナと一緒に?」
「ええ、今から二年間。」
「……。」
一体どういう事だろうか?
「……困惑しとるようじゃの。とりあえず、ソファーに座らせてもらうぞ。ミリスもの。」
「はい。」
アイナはそう言って、スタスタ歩いていき、ゆっくりと腰かける。隣にミリスという少女も座り込んだ。そして、その少女のところにサメロアが移動し、膝にちょこんと座った。
……すると、その少女はサメロアの事を優しく抱いた……。
「……。」
……普通にサメロアの事見えてるんだ……。
そんな事を思っていると、アイナとサメロアは、俺とエルラの方に視線を向けてきた。
「あ~と……まぁ、なんだ。色々言いたいし、聞きたいけども……まずは、お帰り。」
「うむ。ただいまなのじゃ。」
「それで、この子は?」
「う~む……どう説明したものかのぉ。まぁ、まずは、このミリスの身分から説明するとするかのぉ……」
「身分?」
なんで、そんなもんを説明する必要が……。
「この子は、この国の王女様じゃ。」
「……はぁ!?」
突然の事に驚きの声を上げてしまった。
「まぁ、驚くのは無理もないのじゃが……。」
「……ちょっと待てよ、なんだそれ!?冗談かなんかだろ!?」
「本当じゃよ。」
「……。」
俺は、呆然とした。
「一国の王女様がなんでそんな……はっ!?……まさか、拐って……いや、それにしちゃその王女様?……は、リラックスし過ぎだし、さっき二年間アイナと住むとか言ってたし?」
「混乱しとるみたいじゃの。」
「そりゃそうだろ。だって、いきなりそんな事言われても……なぁ。」
エルラの方を見る。
お前も、ワケわからんだろ?……と共感の意を求めて視線を送ったのだが、エルラは首を傾げていた。
「……まぁ、いいや。」
「……?」
エルラは不思議そうな顔をしている。
俺にとっては、エルラの反応の方が不思議なんだけどね。
……そんな俺達のやりとりを見てか、アイナは苦笑した。
「まぁ、今、我が言った事は、紛れもない事実じゃ。この子、ミリスはこの国の王女様で、色々あって我が二年間……この子が成人するまで預かる事になった。」
「そ、そうか。まぁ、いいよ。なんとなくは理解した。……でも、なんだよ、その色々って。気になるんだが?」
「それは、まぁ話すと長くなるからのぉ。また後でじゃ。」
「は、はぁ……。」
……まぁ、話してくれるなら、何でもいいか……。
__________
あれから、アイナとサメロアは、自分の部屋に戻っていった。
なんでも、荷物の整理をしたいとかなんとか。
んで、今はこの部屋には、エルラと……アイナが連れてきたミリスだけが残っている。
ちょっとでも早く仲良くなれる様に、俺達と会話でもしてみろとの事で彼女は、この部屋に残っている。
……だが、何を喋れば良いのか分からん。
とりあえず、なんでもいいから、話題を振らねば。
……なんて考えていると、彼女が先に口を開いた。
「あの~……キヨトさんって、ギルドに入ってるんですよね?サメロアから聞きました。普段って、どんな依頼を受けてるんですか?」
……と、彼女は笑顔を浮かべながら聞いてきた。
「普段?う~んと……とりあえず、報酬が良さそうな依頼ばっか受けてるよ。Sランクのモンスター討伐とか、割の良い採集の依頼とか。」
「Sランクのモンスターって……一般で受けれる依頼での最も危険な依頼なのに、そればかり受けてるんですか?」
「ああ、うん。そうだけど?」
「……凄いなぁ……。Sランクのモンスターって、放っておいたら街一つ壊滅させかねないっていうのに……。」
ミリスは、感心するように呟く。
「別に、そこまで大層なモンじゃないさ。俺の友達もさ、それぐらいのモンスターなんか一人で倒せちまう奴らばっかだからなぁ。」
「……それは、ちょっと貴方の基準とそのお友達がおかしいだけだと思います。」
「へ?」
ミリスの言葉に、思わず間抜けな声を出してしまう。
「だって、普通はそんな簡単にはいきませんから。」
「あー……まぁ……なぁ。」
メルマとクライエットの二人を思い浮かべる。
確かに、アイツらは普通の基準とは違うよなぁ。
いっつも、あの二人の戦闘を近くで見てるから、感覚が麻痺ってるのかも。
「僕も多分倒せるよ。」
「いや、お前は多分じゃなくて確実に殺れるだろ……。」
「そう?」
「そう?じゃねーよ、エルラ、てめぇ俺より強いだろーが。アイナしかお前の事を止められなかったんだぞ?しかもお前、アイナに魔法教えてもらってあの頃よりもっと強くなってるだろ?」
「そうかもしれないけど、中級くらいまでの魔法しか扱えないよ。それより上の魔法は、使おうと思っても扱いが難しすぎて使えない。魔操術なんて、まだまだ。……ホント、アイナには敵わないよ。魔法の面でも、実力でも。」
「アイナと比べるなよ……。」
「……それもそうだね。」
アイツの実力と比較するのは、ちょっと違う気がする。何故なら、住んでる次元があまりにも違い過ぎるから。
「……えと、エルラさんも、そんなに強いんですか?……アイナ先生が古代遺跡に調査に行った時に出会ったとは、聞いてますけども……。」
「ああ、強いぞ、コイツ。あそこの場にいた選抜メンバーじゃ、アイナ以外誰も太刀打ち出来そうになかったからなぁ。」
「そんなにですか!?調査隊に選ばれる人って、実力者の方ばかりのはずですよ!?」
「そんなになんだよな~これが。」
エルラの方を見て、そう言う。
「………確かに、アイナがいなかったら、あの場にいる全員、殺しちゃってたかも。」
「ああ、ホントにな。殺されなくて良かった良かった。」
危うく二度目の転生を余儀なくさせられる所だった。あはは。
「えと……お強いんですね……エルラさん。」
「アイナの方がもっと強いよ。速いし、打撃も強いし、魔法の威力も災害級だし。……痛かったなぁ。……あの攻撃は思い出したくもないよ……。」
遠い目をしながら、そんな事を言うエルラ。
一体、どんな攻撃されたんだろ……。
「まぁ、僕の事は置いておくとして……。君は、何が出来るの?」
「ふぇ?」
エルラは切り替えていつもの表情に戻り、そんな事をミリスに聞いた。
「僕達に質問してたからね。今度はこっちの番。……それで、何が出来るの?」
「えと……剣術なんかは一応、心得があります。それと、アイナに指導してもらって、魔操術も使えますね。……まだ、そんなに長い時間、維持出来ないですけど。」
「ふーん、魔操術……使えるんだ。」
「はい。」
「そっか。……じゃあ、好きな食べ物は?」
「好きな……ですか?う~ん……甘い物……かな。」
「甘い物……なら今度、ケーキでも買ってくるよ。」
「いいんですか?ありがとうございます。」
「別に良いよ。どうせ、暇だしね。」
ミリスは嬉しそうに笑った。
それを見たエルラも、微笑み返す。
……まぁ、仲良くやっていけそうな感じだな。
この後も三人で会話をして、時間は過ぎていくのだった。
_________
(ちょっと視点変わるよ)
「……お?」
部屋で荷物の整理を終わらせて、キヨトの部屋に戻ってきたら、いつの間にか、メルマ、クライエット、ジラウスの三人が来ているみたいだった。
ソファーに座っているミリスの右にメルマ、左にクライエットが座っており、ジラウスはテーブルの椅子に座っている。
……ミリスは、この面子の中でも、楽しそうしている。変に気を使っている様子はない。
「おっ、戻ってきた。」
ベッドに座ってるキヨトがこちらに気付いて、そう言った。
視線がこちらに集まる。
「あ、アイナさん。」
「アイナさんだ!!お帰りなさ~い。」
「あ、どうも。お邪魔してます。」
「久しぶりじゃの、お主ら。」
「おや、皆さんお揃いみたいですわね。」
約4ヶ月ぶりにこの顔触れが揃っているのを見る。
相変わらず元気で可愛い子達だ。
そんな事を考えながら、キヨトとエルラが座っているベッドに自分も座る。
サメロアは、ミリスの所へ飛んでいき、また彼女の真上で逆さでぷかぷかと浮いている。
「とりあえず、ミリスよ。ここでこやつ等と小一時間過ごしてみてどうじゃった?」
「あ、と……皆さん、優しい方ばかりで、とても接しやすかった……です。居心地もとってもいいですし。」
「そうか。なら良かったのじゃ。」
「変に気は……使ってないないみたいですわね。」
「うん。」
「よしよし、それならオッケーですわ。」
慣れぬ場所だろうから、馴染めなかったらどうしようか……と考えていたが、要らない心配だったようだ。
「お主ら……この子と仲良くしてくれて、ありがとの。」
キヨト達全員に向かってそう言う。
「ああ、まぁ、どういたしまして?……って、それよりさぁ!」
「ん?」
キヨトがこちらを向くと、こう聞いてきた。
「この子が王女様だのの話さ、まだちゃんと聞いてなかったじゃん。」
「あぁ……。」
そういえば、また後で話すと言って、その
まま荷物の整理に行ってしまった。
「あ、それ、聞きました聞きました!!この、ミリス様が王女様だって!!」
「んむ……そ、そうじゃな。」
クライエットが食い気味に聞いてくる。
「でも、本当に王女様なら、何でこんな場所にいるんですか?」
今度は、メルマが不思議そうに聞いてきた。
「ま、まぁ色々あったんじゃて。」
「その色々って何なの?」
エルラが、真顔で質問してくる。
「あぁ、待て待て。そういっぺんに話しかけてくるな……。今から話してやるからの。長〜くなるが……寝たら駄目じゃからな。」
キヨト達はしっかりと聞く姿勢に入っている。
それを確認してから、話し始めた。
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