第46話
「キヨトじゃねーか。久しぶりだな。」
「あ、ども。久しぶりです、グラゴルさん。」
気まぐれで何か依頼を受けようと思ってギルドで依頼を物色していたら、マスターのグラゴルさんに声をかけられた。
「2ヶ月ぶりぐらいかぁ?帰ってるなら、声をかけてくれれば良かったのによ。」
「ああ……ハハハ……。」
「まぁ、そんな事は置いておいて、ギルドに来たって事はなんか、依頼受けに来たっつー事だろ?だったら、じゃんじゃん受けてってくれよなー?特に、モンスターの討伐依頼とか。」
「特に……って事は、モンスターの討伐依頼が溜まってるんですか?」
「それもある。だが、一番の目的は、クライエットが受ける討伐系の依頼の数を少しでも減らす事だ。他の奴らが依頼をこなしてくれれば、必然的にそれ系の依頼が減り、娘が危険な目に遭う確率が減るってもんよ。」
「ああ……。」
「アイツ、討伐依頼とか好んでよく受けるからよぉ、その度にケガはないかとか、怖い思いしてないかとか……心配でな……。本当なら、なるべく安全な所に居て欲しいんだが……アイツにそう言うとよ……『お父さん、流石にウザい』……とか言われちまうし……。」
「……。」
「ま、とにかくだ。依頼受けるなら、討伐系のヤツをなるべく頼むぜ~。」
「あ、はい……。」
「じゃ、またな。」
それだけ言うと、グラゴルさんは
手を振って執務室に戻っていった。
「……とりあえず、受ける依頼を決めるか。」
それから、掲示板の前でどれを受けようか悩んでいると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
「誰だ?」
「やっほー、あたしだよ。」
振り返ると、そこにはいつもの恰好をしたクライエットが立っていた。
「なんだお前、来たのか。」
「うん。モンスターの討伐依頼とかないかな~って。」
「そ、そうか……。」
「キヨトも依頼受けに来たんでしょ?ならさ、一緒に行こ!!」
「あ、あぁ……別にいいけど……。」
「よし!じゃあ、これとこれ、行こう!!」
「え、二つも同時に受けるの?」
クライエットは、一気に二枚の紙を手に取って俺に見せてきた。
そのどれもが、高難易度かつ危険度が高いものつまり、全てSランクモンスターの討伐依頼ばかりだった。
「ちょ、ちょっと待て!一気にそんなに受ける気か!?」
「え?別にいいでしょ?これくらい。」
「いや……それは……。」
グラゴルさんにあんな事を言われた手前、止めた方が良いのだろうか……?
でも、クライエットなら、多分大丈夫なんだろうなぁ……。
地面割るし、斬撃飛ばすし、怪力だし……。
魔法は魔力が殆どなくて使えないらしいけど、それが気にならないくらいには強い。
「……でも、いくらなんでもSランクのやつ一気に二つはなぁ……ってあれ?クライエット?」
考え事をしていたらいつの間にか彼女がいなくなっていた。
周りを見渡してみると、既に受付で依頼を受注している所だった。
「あ……」
「ほらー、キヨトー、もう受けちゃったから行くよー!!」
「え、あ……ちょっ、待て!!」
クライエットは、早々にギルドを出て行った為、俺は慌ててその後を追った。
_________
「おーい!!待ってって!」
「んー?なーにー?」
街から出てすぐの所でようやく追い付いた俺は、息を整えてから話しかけた。
「あのなぁ、行くのはいいんだけどまず、情報を共有したいんだけど。俺、チラッとしか依頼書見てねーから詳しい事が分からん。」
「あー、そう言えばそうだね。ごめんごめん。」
そう言って、クライエットは何処からか紙を二枚取り出してそれを見せながら俺に説明を始めた。
「今回はね、ミストドラゴンとダンゲロウスっていうモンスターの討伐依頼ね。Sランクの中でも上のモンスターで、ちょっと手強いらしいよ。」
「ヘェー……どんな感じの見た目なんだ?」
「んー、ミストドラゴンはね、白い鱗が特徴的で、霧を出現させたり水と氷を巧みに使って攻撃してくるみたい。ダンゲロウスはねぇ、ヒト型でね、全身が筋肉質で背中に何本もの鋭い棘があるんだ。コイツはもう、肉弾戦一筋で、とりあえずその怪力で目に入った生き物をバカスカ殴ってくるんだって。目撃例事態は少ないらしいけど、個体数が少ないのかな?」
「ふむ……。」
「まぁ、こんなところだね。他に聞きたいことある?」
「いや、大丈夫……。」
「そっか。じゃあ、行こ!!まずは、ミストドラゴンの目撃があった所から!!」
「おう。」
こうして、俺たちは目的地に向かった。
__________
「あ、多分あれじゃないかな?」
クライエットが指を指したのは、木々の間から見えるドラゴンらしき姿が見える。
「……ここら辺での目撃情報が多いから、多分そうなんだろうけども……。」
「じゃあ、早速……」
「あ、ちょっ、まてまてまてまて!!」
いきなり大剣を抜いて駆け出そうとした彼女を制止するが聞く耳を持たずに、そのまま突っ込んでいく。
「待てよー!!」
彼女を追いかける形で、俺も急いで後を追う。
「てりゃあああーー!!!」
「ギュッ!?」
彼女は勢いよく跳躍すると、手に持った大剣を振り下ろし、巨大な翼に斬りかかる。
そいつは、驚きつつも木々を倒しながら後退りその攻撃を避けた。
「あっ、避けられた!!今のちょっと力込めたのにっ!くぅ~……次は絶対に仕留める!!」
「いや、だから、ちょっと待てって!!」
また俺の静止の声を聞かずに、再び攻撃を仕掛けようとするクライエット。
そして、彼女に向かって叫び襲い掛かるミストドラゴン。
「グギャアアァッ!!」
「おっと、危ない危ない!」
振り下ろされた爪攻撃をクライエットは軽く避けた。
そしえ、そのまま高く飛び上がり、脳天を狙って思いっきり大剣を振り下ろそうとするが……
「グバァーーー!!」
「あっ!!」
ミストドラゴンの口から勢いよく放たれた輝く氷のブレスが、クライエットに直撃しそうになる!!
「ああ、もう!!」
咄嵯の判断で障壁を展開させて、彼女の身を守った。
「当たるところだった……キヨト、ありがとね!」
「どういたしまして……。」
「じゃあ、今度はこっちの番だよ!!」
クライエットは再び、ミストドラゴンに向けて走り出した。
「おらおらあぁー!!」
「グルルルゥ……!?」
そして先程よりも速く、力強く、大剣を振るう。
あまりに鬼気迫る勢いにミストドラゴンは少し怯んでいる……
その隙を付いてやろうとし、俺は土魔法で攻撃した。
「てやっ!!」
「ギャッ!?」
地面から尖った岩が隆起し、ミストドラゴンの身体を突き刺す。
貫通とまではいかないが、良いダメージが入ったようだ。
「おっ、ナイスゥー!!」
そしてさらに、クライエットの大剣が追い打ちをかけるようにミストドラゴンの足を切り裂く。
「ギャッ!!」
切り裂いた部分から、大量の血が吹き出し、その場に倒れ込むミストドラゴン。
しかし、クライエットの攻撃はまだ終わらず、追撃を仕掛ける。
「これで……終わりだぁー!!」
倒れたまま動けないでいる奴の頭に狙いを定めて、クライエットは、大剣を振り下ろそうした……その次の瞬間、
「……ッギャァッ!!!!」
「うわっっ!?」
死んでたまるか!!と言わんばかりに、ミストドラゴンは目にも止まらぬ速さで口から大量の水弾を吐き出した。
パッと見でも、直撃すれば、岩でも粉砕してしまいかねない程の威力だと分かる……!!
そんなのをクライエットはモロに食らい、後ろへ吹っ飛んでしまったが、すぐに受け身をとって体制を立て直した。
「いったいなぁ……もう!」
「おい、大丈夫かよ!?」
「え?あ、うん、全然平気!!心配しなくていいよ、あたし、頑丈だから!!」
そう言って、クライエットは笑顔で答えた。
良かった、とりあえず怪我はしていないみたいだ。
「グギャアアァッ!!」
安心したのも束の間、ミストドラゴンは狂ったように水弾をとんでない速度でいくつも吐き続ける。
「うおおおっ!??」
「おわわっ!!」
無茶苦茶に撃っている様に見えて、狙いはかなり正確で、次々と俺達のいる場所へと被弾していく。
そして、俺達が距離をとった瞬間に、口から霧を吐き始めた。
そして、数秒で辺り一面を真っ白に染め上げてしまった。
「んもー!!これじゃあ周りが見えないじゃん!!」
「とりあえず霧を晴らすぞ!!」
風魔法で霧を吹っ飛ばし、視界を戻す。
そしたら、いつの間にか空に羽ばたいており、こちらに滑空しながら向かってきた!!
「ちょっ、来るなら先に言えって!!ほいっ!!」
「グギャアッ!!」
俺は、急いで地面に手をついて、そこから岩の壁をせり出させた。
そいつは、それにぶつかる寸前に大きく翼を動かし、軌道を変えて上空に逃げていった。
「あ、逃げやがった!!」
「逃がすかぁ!!」
クライエットは、大剣を振りかぶって、ミストドラゴンに斬撃を飛ばした。
「ギャッ!?」
それは、翼に直撃してバランスを崩した。
「それ、追撃だぁ!」
そう言うと、クライエットは突然口から火球を何発も撃ち出した。
「……は?」
呆気に取られているうちに、炎はどんどん命中していき、やがて翼がボロボロになった。
「ギュア"ァッ!!」
そいつは落下して、地面に叩きつけられた!
「よしっ!今度こそ、トドメだ!!」
そして、クライエットは大剣を構えて走り出す。
「ギュッ……ギュッ……」
「ていやぁっ!!」
そして、その勢いのまま喉を思いっきり斬り裂いた。
ミストドラゴンは、悲鳴を上げることなく、息絶えた。
「ふぅ……討伐完了!」
「……なぁ、お前…炎なんて吐けたのかよ……。」
「え?……あ、うん。……知らなかったの?」
「ああ……。竜人ってのは分かってるけど、まさか火を吐くなんて思ってなかった。」
「そっか。まぁ、確かに、キヨト達には見せた事ないね。」
「……でも、何で火が吐けるの?体の構造どうなってんの?」
「お腹の辺りにね、そういう器官ががあるんだ。そこで火の強さを調節して、吐いてるの。」
「へぇ~……。」
「ま、そんな事より、ミストドラゴンの死体回収してさ、次の場所に向かお!!」
「お、おう。」
こうして、俺たちは死体を回収した後、ダンゲロウスとかいう奴の目撃情報があった場所に向かったのだった。
_______
その後、ダンゲロウスとかいうモンスターも討伐して、ギルドに帰って来た。
そして、今は報告をしている。
「はい……確かに……確認致しました。今日もお疲れ様です。」
「ありがとうございます。ソティナさんも、お疲れさまです。」
いつも通りに受付を担当してくれたソティナさんに軽く会釈をし、報酬を受け取り、クライエットと山分けした。
そして一旦休憩スペースにあるテーブルに座る。
少し疲れたので一息つこうということだ。
「はー、疲れたなー。久しぶりに依頼受けて派手めに動いたからな……。」
そう言って、俺は体を伸ばす。
「あはは、お疲れ様。今日は付き合ってくれてありがとね。キヨトと一緒に依頼を受けれて楽しかったよ。」
「そうかい。」
「うん♪」
彼女は、にこっと笑って答えて嬉しそうにしながら、こちらを見てくる。
「よぉ、お二人さん、仲良さげだな。」
声をした方を向いてると……グラゴルさんが立っていた。
「あ、どうも。」
「げっ、お父さんっ……」
クライエットがちょっと嫌そうな顔をする。
「おいおい……そんな顔しないでくれよ。……せっかく話しかけたっていうのに。」
「だって、会うたんびに色んな事をネチネチ聞いてくるから、ちょっと鬱陶しいだもん。」
「おいおいおいおい……そんな風に言わなくても良いじゃないか…お父さんはな、お前の為を思ってだな……」
「だから、そういうの必要ないってば。」
「だけどなぁ、心配なもんは心配なんだよ。それにほら、お前、今日はSランクのモンスターの討伐に行ったらしいじゃないか。だからよ、余計に心配になるんだよ。ケガとかしてないか?痕になるようなもんはないよな?痛い所はないよな?……それと……」
「あーもうストップストップ。ないから。ちょっとミストドラゴンから攻撃を喰らったけど、全然平気だから。」
「ナニッ!?ちょ、それはどこだ!?どこをやられたんだ!?」
「あーもう!!だから、平気だって言ってるでしょ!!!!!」
「……。」
しばらく、二人の言い争いを見守るのだった……。
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