第45話 帰ってきました

レーゼルさんの一件が終わって……俺とエルラは、2ヶ月ぶりにフーゼロッタに帰ってきていた。


「……ふぅ~やっぱ、自分の部屋ってのは落ち着くなぁ~。」


俺はソファに座りながら、小さく息を吐きながら、身体を伸ばした……。


「あいつらに……帰ってきた事を伝えねーとな。」


昨日の深夜に帰ってきたので……あいつらは既に寝静まっていた頃だろうし。


手紙で、しばらく空ける事を伝えてはいたけども、今日帰ってくるとは伝えてないからな。


「……まぁ……後でいっか。」


昨日、1時位に寝たのに割方早めに起きてしまったのでまだ眠い。


「……もう一眠りすっかな……。」


そんな事を考えていると、部屋の扉がノックされた。

……多分、エルラだろう。


「はいよー。開いてるぞー。」


そう言うと、扉が開かれて……


「あ、昨日の夜見かけたと思ったらやっぱりいた!!お帰り~!!」


「あり……?」


なんか、思ってたのと違う人物が入ってきた。


「クライエット?」


「久しぶり!!元気してたー!??」


「おわっ!??」


ソファーに座ってる俺目掛けて飛び付いてきた。


「な、なんだお前いきなり!??」


「だって、久しぶりじゃん!!だからハグしたくなってさー!」


「なんだその理由!?」


「えぇ~いいじゃ~ん!減るもんじゃないしぃ~!」


「そういう問題じゃねぇ!!てか、離れろ!!」


「やだ~。」


俺の首元に腕を回しながら、頬ずりしてくるクライエットを引き剥がそうとするが……ビクともしない。

しばらくされるがままにされていると……


「……騒がしいと思って来てみたら……帰ってきてたんだ。」


「お、メルマ!!た、助けてくれ!クライエットの奴が離れてくれねーんだよ!!」



騒ぎを聞きつけてきたのか、部屋に入ってきたメルマに向かって助けを求めたが、助けてくれる様子はない。


なんなら、俺の目の前に椅子を持ってきてそこに座り、アイテムボックスから紙袋にパンパンに詰め込まれているクッキーを取り出し……それを食べ始めた。


「……?」


「どうしたの?難解そうな顔して。」


「……何で急に椅子に座ってクッキーなんか食いだしたの?」


「クライエットが落ち着くのを待とうかと思って。クッキーを食べてるのは、小腹が空いてたから。」


「……ああ、うん。それは、別にいいんだけど……助けてくれない?このままだと、身動き取れないんだけど……。」


「そのまま待ってればいいんじゃない?クライエットは、久しぶりにキヨトに会えて嬉しいんでしょ。だから、そうしてるんだと思うけど。」


……と、クッキーを頬張りながら、メルマは言った。


「……そうなのか?」


クライエットに聞くと、頬擦りする顔を離して俺の顔を向きながら、満面の笑みを浮かべた。


「そうだよ~。だから、あんまり冷たくあしらわないでね。ちょっと傷ついちゃうから。」


「そ、そうか……。」


その笑顔を見てると……怒る気にはなれなくなってしまった。


……こんな構図をジラウスの奴に見られたら、あいつは何て言うかな……。

多分、怒って羨ましがるんだろうけども。


「あれ、そういえばエルラと……サメロアちゃんは?」


クライエットが突然、聞いてきた。


「エルラは、アイナの部屋にいるよ。多分、掃除でもしてんじゃねーかな?……サメロアのヤツは……アイナの所に行っちまったよ。何でもアイナ成分が足りなくなってきたので、会いに行ってくるんだと。」


「……なに?アイナ成分って?」


「アイナからしか得られない成分。俺にもよく分からん。」


「ふ、ふーん……そっか。」


それだけ言うとクライエットは、俺から離れてソファーから降りた。


「……あーと、もういいのか?」


「うん。もう、充分。満足したから。……じゃあ、次はエルラの所に行ってくるね。」


そう言って……クライエットは、足早に部屋から出ていった。


「……エルラにも同じ事するつもりなのか?」


「そうだと思う。」


クッキーをもぐもぐと食べているメルマが答えた。


……うまそうだな。

見てると、食いたくなってくる。


「クッキー……ちょっとくんね?」


「食べたいの?……なら、もう一袋持ってるからあげる。」


そう言って、大量にクッキーが入った紙袋をアイテムボックスから取り出して……俺に差し出してきた。


「ああ……と……ありがとう。」


こんなにはいらないけども……まぁ、いいや。


別に一度に全部食べる必要ないし……最悪、アイテムボックスに入れておけば、品質が劣化する事もない。


とりあえず受け取った紙袋から、一枚だけクッキーを掴み、口に放り込んだ。……うまい。


「……そういえばさ…レーゼルさんに会ってきたんだよね。サメロアちゃんのお父さんだったっていうのは……ちょっと驚いたけど。………結局……どうなったの?」


「あー……まぁ……亡くなっちまった。」


「……そう。」


それだけ言うと、メルマはまた黙々とクッキーを食べ始めた。

そして、しばらくその様子を見ていると、クッキーを食べる手を止めて口を開いた。


「……サメロアちゃん……どうしてた?」


「……ん?しばらくは、元気なかったけども……今はそうでもないだろうな。アイナに会いに行ってくる~って、ウキウキだったし。」


「そう。……大切な人が死んじゃう瞬間ってとっても辛いからね。……落ち込んで立ち直れなくなる人もいるから心配してたけど……そうじゃないなら、良かった。」


そう言いながら、メルマは袋に入ってるクッキーを頬張る。


ガサガサと音を立てながら次々と口の中にクッキーを入れて、頬袋を膨らませる姿はリスみたいだ。


「……あれ?もうなくなっちゃった……。」


「食うペース相変わらず速いなぁ……。」


……大人の男性でも胃もたれしそうな量のクッキーがあったのに、もうなくなるなんてどんなペースで食ってんだか……。


「……もう一袋。」


「まだ食べるのか……。」


メルマは、またアイテムボックスから紙袋を取り出して……もぐもぐとクッキーを頬張り始めた。


……そんな彼女の光景を眺めながら、俺もクッキーを食べたのだった。


____________


あの後、メルマ達としばらく喋った後に、俺は部屋を出て街に出てきていた。


目的は、ミーニャ一家とジラウスに帰ってきた報告をする事。


 まず先に、ミーニャの家に行くことにしている。


「元気にしてるといいね。」


一緒に連れてきたエルラは、少し眠そうにしながら、そう言った。


「……それにしても、さっきクライエットが急に部屋に入ってきて僕に抱き付いて来た時は驚いたな……いきなりで、反応できなかったよ……。」


エルラは、苦笑いをしながらそう言った。


「嫌だったか?」


「……いや、全然。あれがクライエットの愛情表現だってのは理解してるから。……ただ……もうちょっと力を緩めてくれると嬉しいかもね。」


「あー……まぁ、確かにな。力が強くて身動きとれねーし。ちょっと苦しいし。」


……あれでもかなり加減している方なんだろうが……もうちょっと力を弱めてして欲しい。


まぁ……抱き付かれて悪い気はしないから、何でもいいけど。


「ちゃっちゃと挨拶しに行こうぜ。」


「うん。」


それからしばらくして、目的の場所に着いた。


そしたら丁度良く、店頭に並べられた花の世話をしているラミネさんが居た。


近寄っていくと、ラミネさんはこちらに気が付いた。

すると、嬉しそうに笑顔を浮かべて駆け足でこちらに寄ってきた。


「キヨトくん、エルラさん。お久しぶりです~。大体、2ヶ月ぶりですね~。」


「お久しぶりです、ラミネさん。」


「久しぶり。」


「とりあえず、中に入ってゆっくりお話でもしましょう~。」


「え?……でも、今は営業中なのでは……?」


「大丈夫ですよ~。今日はわりと暇ですから~。それに、せっかくキヨト君が来てくれたんですもの。もう、店じまいにしちゃおうかしらね~。」


「いや、それは流石にマズイのでは……?」


「いいのよいいのよ。ささ、中に入ってくださいね~。」


そう言って、俺とエルラの手を引っ張って店の中へと向かっていく。


「ちょ、ちょっと!」


「お邪魔します……。」


そしてそのまま居間に移動して……座布団の上に座った。


「お茶入れてきますから、待っててくださいね~。」


そう言って、ラミネさんが台所の方へ消えていった。


「……なんか……押し切られてしまった。……挨拶に来ただけのつもりだったんだけど……。」


「うん……。」


「……ま、いっか。」


それからしばらく待っていると、お盆に湯呑を3つと少量のお菓子を乗せて、ラミネさんが戻ってきた。


「はいどうぞ、召し上がって下さいな~。」


「ありがとうございます。頂きます。」


「ありがとう。いただきます。」


そう言いながら、俺はまず出された茶を口に含んだ。


あー……うまい。


やっぱりラミネさんの淹れる茶はうまいなぁ。


「……あれ?そういえば……ミーニャいないんですか?」


「あの子なら、外に出て行っています。ジラウス君と一緒に、遊んでる筈ですよ~。」


「ジラウスとですか。」


「はい、そうですよ~。最近、ジラウス君がよく面倒を見てくれてるんです~。キヨト君達が出掛けちゃっていなかった時、メルマちゃんや、クライエットちゃんもよく面倒見てくれてたんですー。お陰で、ミーニャ楽しそうで。」


「そうなんですか。」


「ええ。」


……たまにでいいから、ミーニャの様子を見に行ってやってくれないかと手紙で伝えてはいたけども……ちゃんと見に行ってくれてたみたいだ。


「ねぇ、キヨト。お土産渡さなくていいの?」


「ん?あぁ……。」


朝はドタバタしてたから、土産の事なんぞすっかり忘れてた……。

帰ったらアイツらにもちゃんと渡さないと……


「これ……お土産なんですけど。」


アイテムボックスの中から、ラミネさんに渡す為に買った綺麗な柄の花瓶を取り出す。

そして、それを手渡す。



「あらまぁ、可愛い柄の器ですね~。それに、この色味とても綺麗です。」


「気に入っていただけましたか?」


「ええ、とっても~。何のお花を生けようかしらね~。あれがいいかしらね……それとも、あのお花かしら?」


ラミネさんは、受け取った花瓶を持って奥の部屋へと消えていった。


「良かったね、気に入ってもらえて。」


「ああ、何がいいか悩んで買ったかいがあった。」


その後、ラミネさんは嬉しそうにしながら、花瓶に花を挿して持ってきた。


「お待たせしました~。」


「おお、いいですね、それ。なんて花ですか?見た事ない花だけど。」


「これは、ラクロレって言うんですよ~。」


「へぇ……。」


見た目的には、サクラソウっぼい感じだけど、少し違う。


サクラソウよりも花弁の形が歪で、色が濃い。


「この辺りじゃ見かけない、ちょっと珍しい花なんです〜。」


「そうなんですか。」



……それからしばらく、花の解説を聞いていた。

そして、終わった頃の事……。


「ラミネさ~ん、ミーニャちゃんと一緒に帰ってきましたよ~!」


「ただいまなの~!!」


……と、テンション高めな声が玄関から聞こえてきた。


そのすぐ後に、ドタドタと廊下を走る音が響いてきて、それを後から追うように静かな足音が聞こえた後に、勢いよく扉が開かれた。


そして、そこには満面の笑顔を浮かべたミーニャと、ジラウスが居た。


「……あれ、お前ら……?」


「キヨトお兄ちゃんなの!!」


そう言うと、ミーニャは俺に飛びついてきた。


「おー、久しぶりだな~ミーニャ~。元気してたか~?」


飛び付いてきたミーニャの頭を撫でながら、俺はそう言った。


すると、彼女は「うん!」と嬉しそうにはしゃぎ始めた。


「……あーと……なんだ、お前ら帰って来てたんだな。」


「昨日の深夜にな。」


「ただいま。」


「お、おう……。」


ジラウスは、少し困惑気味に返事をした。


「あっと、そうだ。ミーニャにも土産渡さねぇとな~。」


「え?お土産くれるの?」


「ああ、あげるぞ~。たくさんあるからな~。まずは、ミーニャに似合いそうな花柄のカチューシャだろ?それから、こっちはサメロアが選んだ可愛らしい洋服に……あと、こっちはエルラが選んだ小物類に……」


そう言いながら、次々と土産を取り出して、机の上に並べていく。


「わ~!こんなに沢山!!ありがとうなの!!!」


「どういたしまして。」


「まぁ、こんなに沢山……本当にいいんですか~?」


「いいんですよ。まぁ、細かい事は気にしないでください。」


「そうですか~。では、ありがたく受け取らせてもらいます~。ミーニャ、良かったわね~。」


「うん!!ありがとうなの~!!」



ミーニャは、そう言って再び俺に抱き付いた。

そしてしばらくすると、彼女は満足したのか離れてラミネさんの隣に移動した。


「……なぁ、俺には、なんかねぇのか?」


「ん?お前に?ああ、あるぜ。」


そう言って俺は、ジラウスの方を向いて、アイテムボックスの中から、包箱を取りだし、それをジラウスに渡した。


「お、何が入ってるんだ?」


「開けてみりゃ分かるぜ。」


ジラウスはその言葉を聞いてすぐに包み紙を外し、箱のふたを取り、中身を出した。

中に入っていたのは、小さな木彫りの兎だ。


「……何だこれ?」


「何って、木彫りの兎。なんか知らんけど、無病息災、恋愛成就、金運上昇、その他諸々、様々な願いが込められているんだってさ。ま、お守りみたいなもんよ。」


「そ、そうなのか。……まぁ家にでも飾っとく。」


ジラウスは微妙そうな顔をして、木彫りの兎を箱にしまった。


「あ、ちなみに土産はまだあるぞ。ほい、菓子の詰め合わせセットだ。」


机の上に、ドンッという音を立てて、菓子の詰め合わせセットを置いた。


「うおっ!?な、なんだその量!?渡す量間違えてないか!?」


それを見たジラウスは驚愕の表情を浮かべていた。


「いいや、間違えてないぞ。この詰め合わせ一つでお前の土産だ。」


「いやいやいやいや、明らかに多すぎるだろ……。」


「何を言う。こんだけの量なら、メルマが一時間も経たない内に食い終わっちまうぐらいの量だぞ?」


「何でも吸い込む様に食べるメルマと俺の事を比べるな!!こんなん全部食おうと思ったら一週間ぐらいかかるっつーの!!」


「情けねぇなぁ、俺だったら、3日で食えるぞ。」


「僕なら2日で……」


「お前らそんな事で一々張り合ってくんな!!」


……この後もなんやかんやありながら、皆で雑談したりしながら楽しい時間を過ごせた。

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