第50話 アイナと王女様3
「さて、今日も授業に励むとするかの…。」
「はい……よろしくお願い致します。」
ミリスの魔法の授業を行う。
……今日からは、この子に超級魔法を教える。
上級魔法の全てを完璧に使いこなせる様になり…扱いも全て安定してきたからだ。
「…では、始めようか。」
「はい。」
……彼女に超級魔法の初歩の初歩を教え始めた。
…初めて教わったはずなのに、かなり良い段階までやれていた。
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「……さて、ここまでで何か質問はあるかなかの?」
「大丈夫です。」
すると、ミリスは笑顔を見せた。
「そうか。なら、一端休憩にするかの。」
「はい。」
そう言って、中庭にあるベンチに座りながらお茶を飲む。
隣にミリスも座ってきた…。
…そして、他愛もない雑談を交わす。
その間も彼女はいつもの様に、笑顔を絶やす事はない。
……でも、何処か儚げで……危なげがない……。
日にちが経つ毎に、彼女の笑顔がそんな風に見えてくる。
「……どうしました?私の顔に何かついてますか?」
ミリスが首を傾げる。
そんな彼女を見て自分はこう言った。
「ん?ああ、すまぬ。少し考え事をしていただけじゃよ。」
そう言うと彼女は微笑みながら言った。
「そうですか。」
………と。
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今日の授業も終わり、自室で休憩していた。
「……サメロアよ。一つ頼み事がある。…王女様の……ミリスの普段の様子を見ててくれないかの?お主なら、あの子に気付かれずに見ておれるじゃろ?……今日の授業の時もお主の事を見えておる様子は無かったし。」
自分の部屋の中で、椅子に座っているサメロアにそう言った。
「……別に、わたくしは構いませんけど……どうしてです?……プライバシーにあまり踏み込まない方が……」
「今は、プライバシーがどうかなど、どうでもいい。……お主は、今日あの娘を初めて見てどう思った?」
「…どう……ですか。礼儀正しくて、非の打ち所の無い完璧な少女。……といった感じでしょうか?」
サメロアは、そう答えた。
「ふむ、そうじゃな。……じゃが、それ故に周りからの評判も良く、期待も大きい。プレッシャーはかなりのもののはず。……なのに、ミリスは弱音も吐かぬ。それどころか、笑っておる。」
「……。」
「彼女は、周りをよく見ておる。人が不快にならぬ様に常に言動に気を遣っておる。そんな敏感な子が、あんなに周りから期待されていて、何も感じていない訳がない。……この前、そこはかとなく聞いてみたが、何も悩みなんて無いと言われてしまっての。」
「……なるほど、つまりあの王女様は…一人で何かを抱え込んでしまっていると…。貴女の目には、そう映っているんですのね。」
「……そうじゃ。だから、彼女が何を抱えているのか探りたいんじゃよ。」
すると、サメロアは納得した様にうなずいた。
「……分かりましたわ。王女様の事はよく観察しておきましょう。」
「……すまんの。」
「アイナの頼みですもの。聞いて当然ですわ。」
サメロアは、笑ってそう言ってくれた。
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……アイナから王女様の私生活を覗く……という役目をもらい、現在進行形でそれを実行している訳だが……
「やっぱり……罪悪感がありますわね…。」
見えない人には、とことん見えない。
そんな自分の個性を活かして、誰かの私生活を覗く……。
やってる事があまりにも犯罪的である…。
……まぁ、アイナの為だからやるのだけれども。
さて、そろそろ本題に戻って…王女様の私生活を覗かせてもらってるだが……普段との違いが凄い……。
部屋の外にいる時の明るい顔ではなく、この世が終わったかの様に暗い顔をしながら、ベッドに腰掛け部屋を見渡している。
「………ひどい顔……。」
……生気が抜け落ちていて、別人の様。
それはもう……見ていられないぐらいに……酷い有り様だった……。
「……ねぇ、貴女は何でそんなに暗い顔をしてるんですの?……何をそんなに悩んでるんですの?」
……聞こえていないだろうけど、声をかけられずにはいられなかった……。
「……一人で悩んでいたって、どうにもなりませんの……。そんな状態をいつまでも続けていたら…貴女…壊れてしまいますのよ。」
……証拠は抑えた。
「……。」
部屋を後にした。
「………。そんな事……言われたって……」
_______
……いつもの授業の時とは違った。
何故なら、アイナ先生の側にずっとプカプカと浮いている白いフリルのワンピースを着た白髪の少女がいたから。
多分、幽霊だというのは察しがついた。
そして、その幽霊の少女は、時々チラっとこちらを見てきていた。
……私の事を観察するかの様に。
幽霊は昔から見えていた。
たまにお城の中で、さ迷っている幽霊を見かけてる事はあった。怖いから…全て無視をしていた。
…だから、今回も見えないようにするフリをした。
そしてしばらくして、アイナ先生の授業が終わったから、部屋に戻ってボーッとしていたら……何故か白い幽霊の子が扉をすり抜けて部屋に入ってきた。
……そして、しばらく私を見つめた後……あんな事を言ってきた。
「……分かってる。……分かってるよ。……でも、誰にも相談出来ない……。しちゃ、ダメなの……。」
しちゃったら、私は…完璧じゃなくなる。
完璧じゃなくなったら、期待を失ったら…私は……皆から失望されて……求められない存在になる。要らない子になる。
それだけは嫌だ。
絶対に、嫌だ。
「…幽霊にまで心配されるなんて思ってなかったな……。」
自分の部屋で一人呟く。
「……もっと……頑張らなくちゃ………。」
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「……そうか。……ミリスは…そんな顔をしていたのか……。」
「……はい。」
サメロアから、ミリスの状態について聞いた。
誰の目線も無い自分の部屋では、ミリスは今にも消えそうなぐらいに弱々しい状態になっているらしい。
「……何が悩みがないじゃ。しっかりと一人で抱え込みおってからに。」
…彼女には、誰かに相談出来ない理由があるのだろう。
だから、そんな状態になってでも健気に…強く振る舞い続けている。
「…だが今……あの子に我が何かしてやれる事は……無い。」
無い。
何も無い。
相談に乗ろうにも、あの様子では、答えてくれないだろうし、無理に聞こうとすれば、それこそ彼女のストレスになってしまうかもしれない。
それに、彼女はきっと自分が助けてもらえるなんて思っていない。
彼女はそういう人間だから。
彼女は、周りに迷惑をかけまいと、周りに求めすぎないようにと、そう考えている。
だからこそ…自分の中に、想いを溜め込んでしまう。
「……何処かに、溜め込んでいるものを吐き出せる場所さへあればのう……。…出来れば、我がその吐き処になってやりたいが……。」
「無理でしょうね。……人の前で、そんな弱音を吐く様な子には見えませんの。ましてや、自分の先生の前でなんて……」
「……じゃよな。……仕方ない。しばらく様子を見るかの……。…お主は、引き続きあの子の様子を見張っててくれ。ぽろっと何かを溢すかもしれんからな。」
「任せてくださいまし。」
サメロアが微笑みながら、胸を張って答える。
「ああ、頼んだぞ。」
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