第3話 幽霊なんてもんいるんだなぁ

「さてと…俺は今からここに住むわけだが…。」


アイナが提供してくれたのはこの家の地下室。

彼女曰く、使わなくなった物の置き場らしい。


置いてある物は、少し古びた木製の机や椅子にタンスやベッドまで様々。


ここにあるもの自由に使って良いが、掃除は自分でやってくれとの事。

まぁ、それぐらいはやるから良い。


…それにしても、埃をかぶっているが、まだまだ満足に使えそうな物が沢山ある。


「まずは掃除をしよう。こうも埃っぽくちゃ体によろしくないからな。」


上から持ってきたこの箒やら雑巾やらの掃除用具でこの地下室を綺麗にしてやる!



…そう意気込んで、細かい所まで掃除をした。




「ふぃー…。結構綺麗になったんじゃあないかな?」


ピカピカとまではいかないが、幾らかはマシになった。


いやー、掃除をするって気持ちいい。


汚れが落ちて綺麗になっていく様を見てると心が洗われるようだ。


「まぁ、これで一段落…ということで。」


とりあえず、掃除で使った用具を片付ける為に上へと向かう。





「ーというわけなのじゃよ。」


「ーーって、人が良すぎますわね…。」




(……?)


階段を上っている途中、アイナと誰かが喋っている様な声が聞こえた。

俺が掃除でもしている間に彼女の知り合いでも来たのだろうか…?


そう思って階段を上りきり、アイナの方へと視線を向けるも…誰かがいる様子はなかった。


「…あれ?今、誰かと喋ってなかったか?」


「む?そんな事はないぞ。我はここに一人でおったが?」


「そ、そうか。」


気のせい…だったのか?

もしかして…疲れが溜まって幻聴でも聞いていたのかも…。


「それより、掃除は終わった様じゃの。」


「あ、ああ。」


「だったら、次は体を綺麗にしたらどうじゃ?お主、出会った時は汗びっしょりであったろ?」


「…確かにそうだな。」


「風呂なら沸かしてあるからの。ひとっ風呂浴びてきたらどうじゃ?きっとスッキリするぞ。」


「…分かった。入ってくるよ。」


掃除道具を片付けてから、風呂に入るためにバスルームに向かった。








………






「聞かれておったか…。一応誤魔化したが…どう思う?あれ、お主の声も聞こえておったのかの…?」


「さぁ…?ですが、少なくとも貴女が虚空に向かって一人で喋っているという訳ではなく、"誰か"と喋っているという認識でしたけど。」


「…もしかして、お主の事見えるんじゃないかの?」


「そうだとしたら、嬉しいですわ。わたくしとしても喋り相手が増えるのは、大歓迎ですもの。」


「…だといいの。」


「そうですわね。………では早速試しに行ってきますわ。」


「…ちょっと待て。あやつは風呂に入ったばかりじゃ。」


「それがどうかしました?」


「いや、だからの。風呂に入っとると言うことは…生まれたままの姿というわけで…。」


「わたくしは別に構わないですわ。男性の裸体なんて見てもどうとも思いませんの。では、突撃ですわ~!!」


「そういう問題じゃなくって……て、行ってしもうたか。相変わらずな奴じゃの…。」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「さっきの何だったんだ…?」


湯船に浸かりながら、アイナの事を思い出す。

先程は俺の聞き間違い…で済ましたけど、あれって絶対誰かと喋ってた。


「…部屋にはアイナしか居なかった訳だけども…。」


まぁ、考えたって仕方がないか。

さっきの事は忘れてゆっくりと風呂を楽しもう。


…そう思った時の事だった。



突然、地面から白いフリルのワンピースを着た11、2歳くらいの白髪の腰の辺りまでのロングで碧い瞳をした少女がすり抜けてきた。


「…。」


やっぱり疲れてんだな、俺。

女の子が地面からすり抜けてくるなんて有り得ない。やはり、さっきのも疲れによる幻聴だったのだろう。


「貴方、今わたくしと目が合いましたわよね?見えてるんですの?」


「…。」


幻覚の少女が何やら声をかけてくるが、とりあえず無視をする。

ここで反応しても、見えない何かに喋りかけるおかしな奴になってしまう。


「おーい。聞こえてますわよねー。無視しないで下さいましー。」


「…。」


…今度は近付いてきて俺の耳元で喋り始めた。

…もしかして幻覚じゃなくてこれ、本当に現実で起きてる?


「もう、無視し続けるのならこっちにだって考えがありますのよ!」


そう言うと、少女は俺が浸かっている湯船に近付いてきて「えいっ!」と言いながらお湯を俺にぶっかけてきた。


「ぶわっ!!ちょっ、お前いきなり何すんだ!!」


「あら、本当に見えてらっしゃるんですわね。半信半疑でしたが、これで確信に変わりましたわ。」


「見えてる…?どういう事だよ?」


「わたくし、“見える人“以外には見えませんので。だって、幽霊ですから。」


「…は?幽霊?」


「はい。幽霊ですの。」


…確かに、こいつ地面からすり抜けてきやがった。幽霊ってもっと怖い姿ををイメージしてたけど、案外可愛らしい姿をしている。


「幽霊が俺に何の用だ?……はっ、もしかしてお前…俺に呪いを…?」


「いえいえ、わたくし怨霊とかの類いではありませんので安心して下さいな。」


「そ、そうか。」


「かけようと思えば、呪いくらいかけられますけどね。」


「ひぃ!?」


「そ、そんなに怯えないで下さいまし。ただのジョークですから。人を呪うなんて事、わたくしには出来ないですわ。」


「な、なんだよ…脅かすなよな…。」


「すいません。まさか、そこまで怯えるとは思ってなかったものでして。」


そう言うと、幽霊の少女は申し訳なさそうにした。


「……ん?待て。そういえばお前の声、さっきも聞いたぞ。…もしかしてさっきアイナと喋ってたのって…」


「ええ、わたくしですわ。貴方を連れてきた経緯を聞いてましたの。」


「そうか。」


…なんだ、さっきのは気のせいじゃかったって訳だ。


「…あれ?でも、何でアイナはお前と喋ってた事を隠したんだ?それに…お前の姿も見えなかったけど。」


「隠した…というより誤魔化したの方が正しいですわね。突然、幽霊と話してた…なんて言われても信じますか?」


「いや、信じないな。」


「そういう訳です。…わたくしに関しては、ただ見えない所に移動してただけですわよ。」


「そりゃ、またなんで?」


「稀にいるんですのよ。中途半端に見える人が。そういう人には、わたくしの姿がえらく恐ろしく映るそうで。だから念の為にですわ。」


「ふーん…。」


「まぁ、最初から隠れる必要なんて無かったですわね。こうやって会話出来るんですから。」


嬉しそうに笑みを浮かべてそう言う彼女。

…可愛いな。


「…そういえばまだ名乗っていませんでしたわね。わたくし、サメロアといいますの。これから同じ屋根の下で暮らす者同士、仲良くやりましょう。」


「ああ。」


…幽霊の少女、サメロアと知り合った。

まさか幽霊が見えるようになるなんて思いもしなかった。


…この世界にゃ、まだまだ驚く事が沢山あるんだろうなぁ。


「では、わたくしはこれで失礼いたしますね。お風呂に入ってる所、お邪魔いたしました。」


そう言うと…彼女は地面をすり抜けて行ってしまった。



「……そういえば、俺、風呂に入ってるんだよな。」


…絵面を思い返してみてみると、裸の男が入っている浴槽の前に11、2歳くらいの少女がいるというなんとも危ない状況だったわけだが…。


「……。」


とりあえず、深くは考えないで…ゆっくりと湯船に浸かってまったりとする事にした。

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